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《酷暑の試合は限界か》夏の高校野球で足がつる選手が続出、熱中症対策はもはや付け焼き刃 審判や応援の生徒らも倒れる事態に

NEWSポストセブン 2024年7月31日 16時15分

 日本の観測史上もっとも暑い夏(6~8月)だった2023年の翌年なら、少しは暑さがおだやかなのではないかとの期待も虚しく、2024年も「十年に一度」レベルの猛暑がやってきている。熱中症警戒アラートが発令され「外出は控えて」「屋外での運動はやめて」などの呼びかけが行われる一方で、夏の甲子園大会を目指す予選が全国各地で行われている。クーリングタイムの導入など様々な対策がとられているが、実際に試合に関わる当事者たちはどう思っているのか。高校野球観戦を続けているライターの宮添優氏がレポートする。

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 高校野球、夏の甲子園大会がいよいよ開幕する。全国の厳しい予選を勝ち抜いてきた代表校による、灼熱の中での熱い戦いは、いつの時代でも見る者を感動させてきたが、この数年の「暑さ」はワケが違う。関東南部にある公立高校野球部のS監督(50代)が訴える。

「試合に負けてしまったのは仕方ありませんが、最後の最後、守備の選手の足がつってボールを追いかけることができず、そのまま敗戦でした。このような環境じゃなければ、もう少し長く、子供達も野球ができたのではと思ってしまう。選手だけでなく、応援席の生徒、観客のことを考えても、開催時期についていい加減、しっかり対策をとる時期になっているのではないかと思います」

 S監督が率いるチームは、予選で強豪私立校にコールド負けを喫した。コールドが決まった最後の一点は、大きく打ち上がったボールを追いかけた外野手の足がつり、その場に倒れ込んでしまったことで失った。確かに負けたことは事実だが、コールド負けは想定外だったとうなだれる。力が及ばなくても、少しでも長く野球をしたいのが当事者の本音だろう。

「その試合の日は、朝から気温が30度を超えていました。我々だって暑さ対策も考慮した練習をしていますが、それでも両チームに、足がつる選手が続出。3回ごとに“給水タイム”はありますが、それでも両チームで7人の足がつって、治療時間など含めて30分以上かかったんです」(S監督)

 S監督によれば、本番の暑さ対策に、ユニフォームの下に履くストッキングを二枚重ねにしたり、分厚い練習着を着るなど、暑さに慣れるための考えられる様々な対策を実施してきた。だが、年を重ねるごとに「対策が無駄ではないか」と考え、人間が慣れるにも限界があると思うようになった。

見る側、応援する側としても辛い

 直前に行われた別の試合でも、やはり両チームに同様の選手が続出していた。救護が必要なのは弱小校の選手だけでなく、大きな負荷をかけた練習を重ねて鍛えた選手がそろう強豪校であっても、関係無く起きている。そんな様子を見たS監督は、こんな条件で試合をしても「もはやまともな野球ができない、練習の成果を発揮できない」と感じたという。

 たった30分の中断で復帰できるなら、中止を検討するほどではないのではと思うかもしれない。だが、ちょうどその時、応援席にいたチームの保護者が振り返るのは「ここは本当に学生スポーツ大会の会場か?」というような惨状だった。

「とにかく暑く、チアリーダーの女子生徒や、吹奏楽の子どもたちは(応援が必要な)攻撃回が終わると、バタバタ倒れるんです。意識が朦朧としたチアの子が、お友達に抱えられて席から離れると、頭から水をかぶせられたり、頬を叩かれて会話ができるか、確認されていました。こういう言い方が適切なのかは分かりませんが、戦場とはこういう感じではなのかと思うほどで、その後、回が始まるとまたフラフラ席に戻ってなんとか応援していました。選手も足がつったり倒れたりして大変ですが、応援席はずっと日向にいなきゃいけない。観客の中にも、途中で気分が悪くなり、病院に行った人もいた。見る側、応援する側としても辛いです」(チームの保護者)

 対戦相手の応援席でも、倒れる生徒や保護者が相次いだという。その試合で救急車が呼ばれることはなかったが、観戦したために病院へ行くことになってしまった人は、2人や3人では済まないはずだと話す。また、別の日に行われた試合では、審判があまりの暑さにダウンし、試合が一時中断される事態も起きたという。選手や生徒、保護者だけでなく、皆が苦しんでいるというのが実情だ。

懸案の解決スピードはこれでいいのか

 高校野球では近年、長らく課題とされてきたことが次々と改訂されており、これからも変更が続く予定だ。若く、発展途上の選手に負担が大きすぎると言われ続けてきた、投手の投げすぎ防止への効果を期待して、2020年春には1週間500球の投球数制限が導入された。2024年は、以前から告知されていた金属バットの規格が変更となるだけでなく、マウンドへ行き投手へ声をかける回数が制限され、投手の二段モーションが解禁となった。

 さらに、異常な夏の暑さも問題視され、開催時期や試合の実施時刻などについて再検討をすべきという声がこの数年、特に高まっていた。試合中の給水タイムや、足がつるなどした選手に代わる臨時代走が認められるようになったのは、そうした懸念を払拭するためのものだったに違いない。だが、選手や生徒、保護者の生の声を聞き、そして実際に球場に行ってみると、こうした施策は、現状では付け焼き刃にすらなっていないのが実態である。

 なお筆者は、今夏の高校野球大会は、東西東京と神奈川、埼玉と千葉、そして茨城で行われた十数試合を観戦したが、その全ての試合で、足がつって動けなくなる選手がいて、倒れてしまう応援の生徒たちがいた。給水タイムや臨時代走などの措置がとられていることが、高校生たちの健康に配慮していることばかりが強調されているが、現行通りの試合スケジュールを維持するための言い訳にしているのではないかとすら思えてくるのだ。

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