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《金メダルの裏側を分析》スケボー堀米雄斗、体操団体・橋本大輝が土壇場で高めた驚異の集中力 心理士はどう見たのか

NEWSポストセブン 2024年8月2日 7時15分

 3年前の東京に続き、日本選手の活躍に期待が集まるパリ五輪。日本選手の躍動が連日伝えられているが、土壇場で集中力を発揮したのが大逆転によって金メダルを手にしたスケートボードの男子ストリートの堀米雄斗(25才)と、体操の男子団体で最終種目の最終演技者だった橋本大輝(22才)だ。2人の「注意集中」について、臨床心理士の岡村美奈さんが分析する。

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 開催中のパリ五輪、トップと差をつけられながら土壇場で逆転し、金メダルをその胸にかけた2人のアスリート。彼らに共通するのは極限での集中力だ。

 暫定7位から大逆転でオリンピック連覇を決めたスケートボード男子の堀米雄斗選手。ストリート決勝ではベストトリックという技を失敗し続け、後がなくなった最後の1本で見事逆転。その最終滑走で彼が集中のために行ったのは、つけていたイヤホンの音楽をかけないこと。スケートボードではルール上、イヤホンの使用が許可されている。彼ら選手がイヤホンをつけるのは、リラックスしてプレッシャーを軽減、外部の雑音をシャットアウトし、集中力を高めパフォーマンスを向上させるためだという。

 だが堀米選手は「イヤホンつけてたんですけど、音楽とかもかけないで。出来るかぎり自分と集中できるようにして」とインタビューで振り返った。集中力をコントロールし、自分がそうしたいと思った時に望んだものに望んだように集中できるか。それが勝敗を分ける。今回、自分自身と向き合って集中力を高めていくのに音は必要なかったようだ。無音の中、高めた集中力で彼は逆転の大技を決めた。その集中力は「注意集中」だろう。

 注意集中とは、雑念や妨害刺激にとらわれずに、競技そのものに注意を向け持続させることだといわれる。注意を一点、一領域に集中させ焦点化するというもので、高められた集中力によって覚醒状態に入りやすいという説もある。人気漫画『鬼滅の刃』でいえば「全集中の呼吸」で、高い集中力と身体能力が可能になるというイメージだろう。ここで必要なのは自分が集中するだけではなく、堀米選手が言う「自分との集中」。そして緊張感を高めた状態からすっと力を抜くことで発揮される集中力のコントロールだ。

 ところでこのスケートボード、集中しなければ大ケガにつながるだろう競技だが、正直なところ、その技を見ていても何がすごいのかよくわからない。まだまだ新しい競技だし、年齢的に若い人たち中心の競技ということもあり、筆者にはこの競技に対する予備知識がほとんどないからだ。

 試合中継を解説するプロスケーターの言い回しも「やべー」「アツいっすね」「ノッたっすね」で、何がどうヤバイのか、アツいのか感覚的すぎた。スケボーをやる人、好きな人にはニュアンスで掴めるのだろう。しかしオリンピックぐらいしかスケボーを見ない筆者のような人種には、話題になっている”ゆるすぎる解説”は残念ながら“やべぇ”で、その場の緊迫感もアツく伝わってこなかった。実況中に興奮のあまり絶叫するようなアナウンサーや解説者がいいとは言わないが、少々残念だった。

 それとは逆だったのが体操男子団体だ。体操王国日本といわれた時代もあり、体操競技は親しみある見慣れた競技である。選手たちの演技をハラハラしながら試合を見守った。あん馬で落下するミスをしたエースの橋本大輝選手。5種目目を終えた段階で首位の中国とは3点以上の差がつき、最終種目は鉄棒。中国の選手が競技を始めてもベンチの橋本選手は座って俯いたまま顔を上げない。ところが2人目の選手が2度も落下するという信じがたいミスを連発。会場がざわついても橋本選手は顔を上げなかったのだ。

 試合後、この時のことを橋本選手は真顔で「自分の演技で4人がかけるメダルの色が変わる。とにかく集中するしかない。極限まで集中を高めて演技するしかない」という主旨のコメントをした。自分と向き合って集中を高めるため、中国人選手の演技は見ていなかったという。自分の出番直前、トップにいる選手がミスを重ねるのを見れば、肩の力が抜けるような気がするが、橋本選手は自分と戦っていたのだろう。

 極限まで高められた集中力をコントロールし、一人でも多くの選手たちに、オリンピックのメダルをとってほしい。何より自分にとって納得のいく結果を引き寄せてほしいと思う。

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