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ショッピングモールなどにやってくる“熱中症避難民”の高齢者たち 開店から注文せずフードコートの席を陣取り他の客とトラブル発生も

NEWSポストセブン 2024年8月4日 16時15分

 2024年から運用が始まった「熱中症特別警戒アラート」。従来の熱中症警戒アラートを上回るこのアラートが発表された際に、住民に対して無料開放されることが求められる冷房が効いた施設、クーリングシェルター(指定暑熱避難施設)の指定が全国ですすみ、庁舎など公共施設だけでなく、商業施設なども多く含まれている。朝の天気予報をテレビが知らせるときも、熱中症への警戒とともに、クーラーを積極的に使うこと、冷房が効いた場所で過ごすことをすすめる呼びかけが行われている。そのすすめに従って暑さから”避難”している人たちを中心としたトラブルが起きている。ライターの宮添優氏が、ショッピングモールなどにやってくる熱中症避難民との摩擦についてレポートする。

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 夏休み真っ只中、神奈川県内の大型ショッピングモール内にあるフードコートは、誘い合ってやってきたらしい子供たちや家族連れで大変な賑わいを見せていた。スイーツや食べ物を店舗で購入しても、イートスペースはほぼ満席で座れないという状態で、立ったまま、購入した焼きそばやたこ焼きを食べる人も相次いだが、突如、そんな喧騒を引き裂くような怒声が響いた。

「なんだバカ女が、暑さで死んだら責任取れんのか?」

 声の主は、70代くらいの高齢男性。高齢者男女数名で、イートスペースのテーブル席を陣取っていたが、テーブル上には食事は見当たらず、紙コップがいくつも置かれている。当時の様子を目撃していた、フードコート内にあるうどん店の男性店員(20代)が振り返る。

「怒鳴ったお客様たちは、10時のオープン直後に入店し、何も頼まず4時間以上席を陣取ってお喋りされていたんです。いや、イートスペースに置かれた無料の水やお茶を1人何杯も飲んでおられました。昼食どきになって混雑しても席を立つ気配はなく、食事を購入したものの席に座れず立ち尽くしていた若い女の子3人組が”席を変わってほしい”とお願いしたようなんです。それに対して、男性は激昂されました。正直、あまりに理不尽だと思いますよ。女の子たちは泣いていました。男性たちはその後も談笑を続け、午後になってやっと席を立たれました」(うどん店店員)

 実は、この怒鳴った男性のグループだけでなく、一部の高齢者の行動が、ショッピングモール内では問題視されていた。モール運営担当の女性(50代)によれば、似たようなことは去年の夏頃から起きはじめたという。

「夏のあまりの暑さに、ショッピングモールを避暑目的で利用されるお客様が増えたんです。もちろん、そうしたお客様を拒否したいということではありませんし、体調のためにもぜひ涼んでほしいという気持ちはあります。ですが、お買い物をしたい、食事をしたいというお客様の迷惑になることは、ぜひ控えて頂きたい」(モール運営担当者)

 このようなトラブルは、フードコート内のみで起きているわけではない。モール内のあちこちに設置されたベンチやソファも、ただ涼みたいだけの客に占拠され、中には有料のマッサージチェアに料金を入れることなく、昼寝をしている高齢客もいるという。さらに、じっと座る人たちだけではないことも、問題を広げている。

「モールは広くて涼しいですから、散歩目的の高齢のお客様もいらっしゃる。夏休みで、若い方で混雑するアパレルゾーンをそうしたお客様が歩くことで、ぶつかったなどのトラブルも起きています。こういう商売ですから、お客様を悪くいうつもりはありません。ですが、限度があります。やはり、もう少し考えていただきたいなと」(モール運営担当者)

 筆者も最近、駅ビル内の飲食店が並ぶ通りの目の前のベンチを占拠する、高齢者グループを見かけるようになった。店のオープン前からすでにベンチに座っていて、昼時になると、店に並ぶ一般客の目の前で持参した弁当を食べ、数時間、多い時は朝から夕方までほぼ丸一日、おしゃべりに興じているようなのだ。

 もちろん、駅ビル内とはいえベンチは公共的なものであり、誰が使っても構わないことは大前提だ。さらに、熱中症の恐れがある高温の場合、整備や指定が進むクーリングシェルターは必要不可欠で、役所や大型ショッピング施設の一部は、すでにクーリングシェルターとして運用されている。だが、店も利用せず、他の客に迷惑な形で長時間にわたってベンチを陣取る高齢者たちに、筆者を含め道ゆく人々も白けた視線を投げかける。中には、あからさまに舌打ちする男性客もいた。態度はさまざまだが、やはり誰もが、違和感や怒りを感じているようなのだ。

今のところは仕方のないこと

 夏休み、という事情も影響しているのかもしれないが、熱中症避難を目的としている人たち、主に高齢者と子供たちによるトラブルは、図書館でもおきていた。千葉県内にある市立図書館の女性スタッフ(60代)が打ち明ける。

「朝のオープンと同時に、ご近所の高齢の方がバーっと押し寄せて、涼しい読書スペースが一気に埋まると、その後に勉強しにやってきた小中学生の席がなくなるんです。コロナ禍以降、そういったことが続き、今年は”学習スペース”を別途設けました。それでも構わず、高齢の方が席でイビキをかいている。出ていけとはいえず、皆が苦々しい思いをしているのです」(図書館スタッフ)

 こうした傾向は、都会でも地方でも構わず現れはじめているようだ。佐賀県内の開業医の男性(50代)は苦笑しつつこぼす。

「高齢の患者さんの中には、体調が悪くないのに毎日やってくる方が何十人もいらっしゃる。誰々さんが病院にきてないけど、体が悪いのか? なんて会話が出るほどです。確かに、最近の夏は異常な暑さで高齢者には危険ですし、特にお一人暮らしの方は、高騰する電気代に不安を感じて、エアコンを我慢する方までいる。病院に来れば、仲間だっている、安心できるということでしょう。診察が終わってもなかなかお帰りにならない高齢者ばかりで混雑することもあります。今のところは仕方のないこと、と考えるほかありません」(開業医の男性)

 これが、超高齢化社会に突入した日本の足元で起きている現実だ。そしてこれらのトラブルの原因は結局、若年層VS高齢者という形で語られ「分断」の象徴として認識されていく。しかし、日々上昇する物価に囲まれて、電気代を払うのも不安にかられている高齢者がいる、という事実から目を背けずに考えれば、この問題は分断でもなんでもなく、福祉的な問題を孕んだトラブル、という考え方もできよう。

 今後、こういったトラブルは私たちの身の回りで頻発するはずだが、きっかけが高齢者だからといって、単純に世代間の違いが争いのもとだという思い込みは控えたい。誰しもが、必ず高齢者になるからであり、その時、自身の経済状況がどうなっているかは、誰にもわからないのだ。何か良い方策はないものか、誰もがそう考えているはずなのだが、分断を示す事象ばかりが相次ぎ、その解決策は、現実世界では一向に見えてこない。

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