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【税金タレ流し公共事業ランキング】“コスパ最悪道路”ワースト1は長野県の無料高速道路 事業費は2.4倍に膨らみ、費用対効果も激減

NEWSポストセブン 2024年8月6日 11時13分

 国民に負担増を強いる一方、そうして国が得た税収は、費用対効果の低い“カネ食い虫”の公共事業に流れていた──資材や人件費の高騰が問題になるなか、巨額予算の動く公共事業はその影響を大きく受ける。国交省が予算をつけている全国400以上の道路・新幹線を調べると、事業費が増大し、費用対効果が激減しているものが数多くあると判明した。ノンフィクション作家・広野真嗣氏がレポートする。【前後編の前編】

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 大型公共事業が曲がり角に差し掛かっている。

 1987年に決定された高速道路1万4000キロの計画はほぼ完成し、手付かずなのはわずか700キロ。田中角栄をして「地域開発のチャンピオン」と称した新幹線は、1988年に比べ1.5倍の距離まで伸びた。

 見逃せないのは、国土交通省の公表資料を分析していくと、いずれの事業も投下資金が膨らむばかりになっている事実である。

 直近の道路事業の6割で「費用対効果(B/C)」は悪化していた。その主因である事業費に着目すると、当初の想定から増えた建設費の総額は1.5兆円にものぼり、当初の予算から3倍に膨張した事業もある。

「B(ベネフィット=便益)/C(コスト)」は、投下した建設費などに対して移動時間を短縮したり、経費を節減したりする効果がどれだけ発生するかを数値化した指標だ。「1」を上回れば、コストを上回る効果が得られる目安となり、事業着手の判断の指標になってきた。だが、条件を満たすと判断されて工事が始まっても、後になって「1」を割り込んで続行されている例が相次いでいる。

 最近の資材高騰に加え、今年の賃上げを考えれば、この傾向はさらに深刻化するに違いなく、元国交事務次官の谷口博昭氏は、「転換点に差し掛かっている」と警鐘を鳴らす。公共事業にどんな変化が起きているのか──。

 2024年度に国が予算執行中の412の直轄国道事業を検証すると、B/Cが「1未満」の事業は59もある。いずれも過年度からの継続事業で、この10年間の事業費とB/Cの変化をチェックしたのが掲載の図だ。B/Cの下落幅が大きい順に30位までを掲載した。

 ワースト1は、長野県の「一般国道18号 坂城更埴バイパス(延伸)」。上信越自動車道と並行して走る国道をバイパスする無料の高速道路だ。

 2.6キロの区間の事業費は当初は69億円の予定だったが、2.4倍の166億円に膨らんだ。他方、2.5あったB/Cは0.8にまで落ち込んだ。理由について、関東地方整備局長野国道事務所の担当者はこう言う。

「トンネル部分を掘り進めると硬い岩が出てきて、ダイナマイトによる発破が必要になりました。軟弱地盤も見つかって、その対策も必要になった」

コストが上がり、便益は伸びない

 事業費の増え方がさらに激しいのは秋田県の「一般国道7号 二ツ井今泉道路」(6位)。日本海側の能代から青森県境の小坂に向かう国道と並行する無料の高速道路。工事費は当初の3.6倍の543億円。これが影響してB/Cは最大だった1.5から0.6まで下がっている。

 2018年、2021年に東北地方整備局が公表した資料によれば、トンネルの掘削開始後、想定外のヒ素やセレンなどの重金属の地層が判明し、対策が必要になった。前出・元国交次官の谷口氏が解説する。

「山脈が中央を貫き、可住エリアが狭い日本では後につくる道路ほどトンネルや橋梁などの構造物に頼らざるをえず、分母のC(コスト)が高くなる。しかもB(便益)に影響する経済成長は緩やかな一方、地方ほど人口減少も急で、通行量などが伸びる要素が乏しい」

 首都圏でランキング上位にあがる道路もあった。

 3位の「首都圏中央連絡自動車道=圏央道(横浜湘南道路)」では、事業費が元の2.6倍の5700億円にまで膨れ上がった。増額の要因を国交省に聞くと、「最も大きかったのは、シールド掘削によって発生する土砂を公共利用する必要が生じたため、土砂の改質や仮置きなどの設備の必要が生じたこと」(道路局企画課評価室)と説明する。

 さらに、コスト増に加え、便益が増えないことも影響している。

「東名高速や中央高速、首都高など、網の目のように高速道路網が張り巡らされた首都圏では、“高速空白地帯”は存在しません。こうしたエリアに道路を整備したケースでは、既存のネットワークの渋滞を緩和するといった、補完的な作用の及ぼし方になる。便益を大幅に増やす効果は現われにくい面がある」(財務省主計局・公共事業担当者)

 国交省が道路事業などにB/Cの指標を導入し始めたのは2002年、道路公団改革まっさかりの頃だ。

 効率を無視した無駄な道路建設が行なわれているのではないか、腕力の強い政治家の地元に予算が優先的に配分されているのではないか──B/Cの指標はそんな疑いを払拭し、優先順位を客観的に整理するための、国交省の一つの解だった。

 豪腕政治家の1人と目されるのは、二階俊博・元自民党幹事長だ。その二階氏が悲願としてきた“紀伊半島一周高速道路”の一部として、紀伊半島南部で建設が進む「一般国道42号 すさみ串本道路」もランキングに入っている(15位)。

 710億円だったこの区間の事業費は、3度の増額で合計1160億円も膨らんだ。これがB/Cが1.2から0.6にまで落ち込んだ主因だ。

 2020年に私が党幹事長室でインタビューした際、二階氏は「国土の均衡ある発展を実現することが政治の責任じゃないですか」と力説していた。

 ただ、当時のインタビューからわずか4年だが、政府の試算では、「2050年には6割の地域で人口が30%以上減少し、約2割の地域で無居住化する」という推計すらある。

 和歌山県では二階氏のお膝元の御坊市を含めた23市町も「消滅可能性自治体」としてその名があがっている。

 長い時間をかけて道路をつくっても、できた時には利用者は車より鹿やイノシシのほうが多い、という笑えないミスマッチが起きるリスクは否定できない。このまま漫然と計画を実現していくことが、本当に国民にとって恩恵になるのだろうか。

 見解を聞こうと改めて二階氏に取材を申し込んだが、事務所は「今回は取材対応を控えさせていただく」との返答だった。

(後編に続く)

【プロフィール】
広野真嗣(ひろの・しんじ)/ノンフィクション作家。神戸新聞記者、猪瀬直樹事務所スタッフを経て、フリーに。2017年、『消された信仰』(小学館文庫)で小学館ノンフィクション大賞受賞。近著に『奔流 コロナ「専門家」はなぜ消されたのか』(講談社)。

※週刊ポスト2024年8月16・23日号

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