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石坂浩二(83)「やっと経験を言語化できるようになった。それを若手に伝えたい」 “老け込まないから同じ役を長年演じ続けられる”その秘訣

NEWSポストセブン 2024年8月9日 16時13分

 来年のNHK大河ドラマ『べらぼう』への出演が発表された俳優の石坂浩二(83)は、今年で芸歴66年。飄々とした印象は変わらぬまま、その演技と存在感は年々深みを増している。長年の役者人生のなかで、「老い」にどう向き合っているのか。【前後編の前編】

経験を言語化できるように

 2014年ぶり12作目の大河ドラマとなる『べらぼう』では将軍三代に仕える老中首座の松平武元を演じる。高齢の設定で“年相応”の配役となった。

「私は昔から若者が成長して老齢に達する役柄を演じることが多くて、“若い時はテンポよくしゃべり、老いたら間を長くしよう”などと演じ方を工夫してきました。自分が老人の年齢に達した今も、普段の所作はせっかちなままなので、若い頃に考えて身に付けた老け役の技術が役に立っています」(石坂・以下「 」内同)

 石坂が役者デビューしたのは高校時代。そこから続く長い役者人生の最初の転機となったのは、大河ドラマ『太閤記』(1965年)の出演だったという。

「NHK大河ドラマの3作目ですが、1年を通して主人公の一生を追う“河の流れ”のごとき大河ドラマが始まったのは『太閤記』からです。石田三成を演じました」

 若き石坂にとって当時の大河ドラマの撮影は“学び”の場だった。

「あの頃は編集技術が未熟で、いまのようにワンカットずつ撮影するのではなく、一連のシーンを続けて撮りました。本番は一発勝負で、2日にわたって入念なリハーサルを行なっていました。現場は緊迫していたけど、先輩から『演技は見て盗め』と言われ、若手にとっては演技力を磨く大きなチャンスでした。いまはリハーサルもなくなり効率はいいけど、若手が勉強する場が減ったのは少し寂しいですね」

 市川崑監督や劇団四季に在籍した時の浅利慶太氏といった名匠の厳しい指導も大きな財産になった。

「金田一耕助シリーズでは市川監督から『出演しないシーンも現場にいろ』と言われ、浅利さんにはバカみたいによく怒鳴られた(苦笑)。昔は監督や演出家がよくダメ出しをしていましたね。いまならパワハラになるかもしれないけど、役者の将来を考えたら絶対にダメ出しされたほうがいい。

 僕自身、この歳になって、昔、何気なく先輩に言われた言葉の本当の意味に気づき、キャリアを通じて身に付けた経験をやっと言語化できるようになりました。できればそれらを、まだ若く、原石のような役者に伝えたいですね」

「兵ちゃん」と呼ぶ人がもう少なくなった

 石坂は、老け込まないから、同じ役を長年演じられる。水谷豊(72)主演の人気ドラマ『相棒』(テレ朝系)では、警察庁キャリア官僚の甲斐峯秋を10年以上も演じ続ける。

「相棒に出ている俳優さんはみんな年を取らず、風貌が変わりません。甲斐峯秋は60歳くらいの設定ですけど、割と自然に演じています。でも流石に無理があるよね(笑)」

 共演する10歳年下の水谷からは昨年、こんな言葉をかけられたという。

「石坂さんを見ていると安心します。82歳になってもやれるんだって」

 水谷の言葉通り、石坂は昔と変わらない姿で多くの作品に出演しているが、日常で気を付けていることは特にないという。

「いまの人はすごく体を鍛えているけど、私は何もしていない。食事は外食があまり好きじゃなく、パン1つ食べてればいい感じ。お酒やお肉の量も変わりませんね」

 1970代半ばから中高時代の同窓会が増えたという。旧友との交流が活力につながっている面もある。

「いろんな年の取り方があることに気づきました。同級生なのに艶々と若々しいのもいれば、先生より老けるのもいる(笑)。まあ、同窓会で昔の仲間との付き合いが続くのは張り合いがあっていいことかもしれませんね」

 かつての役者仲間との再会もあった。同世代で元妻でもある浅丘ルリ子(84)や、加賀まりこ(80)、藤竜也(82)らと共演した『やすらぎの郷』(2017年、テレビ朝日系)は、往年のスターが老人ホームに入るストーリーで広く共感を集めた。だが、当人はこう振り返る。

「『撮影中は同窓会的な雰囲気でした』と語った出演者もいたけど、実際はみんなセリフを覚えるのに必死で同窓会どころではなかった(笑)。ただ、(大橋)巨泉さんも亡くなり、僕を『兵ちゃん(本名が武藤兵吉)』と呼ぶ人がもう少なくなったなかで、懐かしさはありました」

(後編に続く)

※週刊ポスト8月16・23日号

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