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佐藤愛子さんがこよなく愛する北海道浦河町で『九十歳。何がめでたい』が上映 笑顔で溢れる48席の映画館「大黒座」

NEWSポストセブン 2024年8月12日 11時15分

 北海道・浦河町の映画館「大黒座」で映画『九十歳。何がめでたい』の上映が始まり、連日大盛況だ。浦河は佐藤愛子さんが約50年にわたり毎夏を過ごした特別な場所で、『九十歳。何がめでたい』や『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』、そして今回の映画にも登場する、いわば聖地巡礼の舞台でもある。いざ浦河へ──。

《東京の酷暑を逃れてこの北海道、道南の別荘へ来たのは八月六日である。この家で夏を過すのは今年(2019年・編集部注)で四十五年目である。四十五年のうちで来なかった夏は二年だけで、その一年は娘の出産のため、もう一年は飼犬のタローの十九年の命が瀬戸際を迎えたためだった》(『増補版 九十八歳。戦いやまず日は暮れず』より)

 佐藤さんは1975年に北海道・浦河町に別荘を建てて以来、事情がない限り毎夏をそこで過ごしてきた。

 大黒座はそんな佐藤さんにとって、執筆の合間に立ち寄る貴重な娯楽の場だった。館主・三上雅弘さんの話。

「ひと夏の間に娘の響子さんと2〜3回はいらっしゃっていたと思います。映画館の横でクリーニング屋もやっているので、そちらの用事で先生がいらっしゃったときに映画に人が入っていないと『いまから映画をかけましょうか』なんて言って、ご覧いただいたこともありました。

 それは先生だからということではなく、『いま向かっているんだけど5分ほど遅れる』と電話が入り、映画を観ている人に事情を説明して、その人が到着したらフィルムを巻き戻して最初からかけるなんてこともありました。要するにお客がいないんです(笑い)。

『九十歳〜』の上映が決まったあと、町の人たちから『先生の映画、楽しみにしてるよ』って声を掛けられる機会が増えました」

『タイタニック』の頃はお客が入った

 大黒座の創業は1918年のこと。現在の三上さんは4代目館主に当たる。

「父が館主を務めた戦後の最盛期は人があふれて220席に増改築したのですが、30年ほど前に建物の老朽化や道路の拡幅で映画館を改築しなければ続けられなくなり、いまのような48席になりました。それでも『千と千尋の神隠し』や『タイタニック』をかけていた頃はたくさん人が入ったのですが、大作が借りられなくなってどんどん厳しくなりましたね」(三上さん)

 近年はコロナ禍と、Netflixやアマゾンプライムビデオなどに代表されるサブスクの台頭により、映画館の経営はさらに厳しくなるばかり。そんな状況を知っている佐藤さんが、この映画で少しでも浦河と大黒座が元気になれば—と願い、その思いが結実して、この度公開初日を迎えた。

 7月21日朝10時からの初回には28人が席を埋めた。ご夫婦や子連れ、単身のかた……次々に館内へ入って行く顔はみんな笑顔だ。

「この2週間でいらっしゃったお客さんの数よりも多いです。家族みんなで行って満杯になると困るから、夫は夕方の回に行くねっておひとりでいらっしゃったかたもいました。映画の中で犬のハチ(原作ではハナ)と出会うシーンは浦河ですよね。エンドロールでも先生が犬を抱いて太平洋をバックに別荘で撮った写真が映っていて、感慨深かったです」(三上さん)

《今年(2015年・編集部注)の六月、ハナが死んだ。/ハナは十四年前、北海道の私の別荘の玄関の前に捨てられていたメス犬だ。生れて二、三か月というところか、両の手のひらに乗っかるくらいの大きさだった。夜が白々と明ける頃、クークーキャンキャンと啼く声に家中が目を覚ましたのだった》(『増補版 九十歳。何がめでたい』より)

浦河を気にかけてくれるのがうれしい

 初回の上映を観たお客さんの中には「佐藤さんとの付き合いは40年以上」という人も。浦河町立図書館元館長の小野寺信子さんだ。

「映画のことは響子さんから昨年の12月頃でしたか、いま映画を撮っているんだよと伺っていましたから今日は観られてうれしかったです。映画ですか? とても面白かったですよ。でも、映画の中の佐藤さんは、実際の佐藤さんとはかなり違いましたね(笑い)。

 図書館ができたのが1969年なのですが、私は先生に図書館創立10周年記念の講演をお願いに行ったのがきっかけで親しくお付き合いさせていただくようになりました。先生の用心棒として、いつも響子さんなどご家族か編集者のかたが東京から一緒に来て泊まっていたのですが、誰もいないときに私が用心棒がわりを務めるようになって。別荘に泊まったときには夜、先生の作ったお料理をいただきながら面白いお話をたくさん伺って、本当にいろんなことを教わりました」

 大黒座と目の鼻の先にある図書館にも映画の巨大なポスターが貼られ期待の高さがうかがえる。佐藤さんの数々の著作とともに映画『九十歳。何がめでたい』の決定稿の脚本も飾られていた。すべて佐藤さんから寄贈されたものだという。

「こうやって先生がいまでも浦河のことを気にかけてくださるのがうれしいです。先生が親しく付き合ってこられた浦河の漁師のかたもほとんど亡くなりましたからね。先生も寂しいと思いますが、また浦河に戻ってきてもらいたいですね」

草笛光子さんのメッセージ

 ここで、『九十歳。何がめでたい』の主演を務めた草笛光子さんから、大黒座へのメッセージを紹介する。

 * * *
 皆様こんにちは、草笛光子です。

 私が主演をつとめました映画『九十歳。何がめでたい』が、7月21日より佐藤愛子さんゆかりの地、北海道「浦河大黒座」にて上映されると聞き大変うれしく思います。

「大黒座」さんは私よりも歴史のある映画館、きっと私の若い頃の映画も上映されていたのでしょう。同じスクリーンに九十歳の私の主演映画が上映されるとは思いもよらず、大黒座スクリーンも「あら、草笛さん? ずいぶん年取っちゃったなぁ」なんてビックリしているかもしれませんね。映画の中には、浦河町でのエピソードも登場しますのでお楽しみに。私も劇場にうかがい直接皆様にごあいさつしたかったのですが、残念ながら叶わず、このお手紙で失礼いたします。

 この映画で少しでも楽しい時間を過ごしていただけます様に。どうぞ皆様これからもお元気でお過ごしください。

※女性セブン2024年8月22・29日号

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