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フワちゃんの不適切投稿 いじめ被害者たちが訴える「ノリ」でも「ネタ」でも済まない”言葉の刃”「いじめの典型的なやつですよ」

NEWSポストセブン 2024年8月10日 16時15分

 タレントのフワちゃんがXに不適切投稿をしたことで炎上し、番組の休止や広告動画が非公開となるなか、問題の投稿の対象となった芸人のやす子へ直接、謝罪したことが伝えられた。だが、削除されたとはいえ全世界から見えるXに投稿された極めて不適切な文面は、フワちゃんと直接の関わりがない人たちにも、とくに「いじめ被害」経験がある人たちにとって、つらい記憶と感情を呼び覚ますきっかけとなってしまったようだ。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、あまりに気軽に使われる不適切な言葉が「いじめ体験者」たちに与える影響についてレポートする。

 * * *
「いじめの典型的なやつですよ。お笑いっぽく『お願いだから、早く死んで~』とか、ノリっぽく周りを巻き込む感じでイジるんです」

 中学時代にイジメを経験したという大手IT系企業に勤める男性会社員(30歳)は、自身の体験からタレント、フワちゃんがやす子さんに対してX(旧Twitter)でポストした投稿について語ってくれた。

「ノリで『こいついじめてやろうぜ』ってイジる空気を作るんですよ。その空気にまわりも『こいついじめていいんだ』となったら地獄です。経験者は多いと思いますよ」

 そのフワちゃんの投稿は以下の通り。

〈おまえは偉くないので、
死んでくださーい
予選敗退でーす〉

 実際は絵文字で飾られたこの文面、投稿はすぐに削除されたが見つけた他のユーザーが画像にして拡散、やす子さんの知るところとなった。やす子さんは、

「とっても悲しい」

とだけ投稿した。

 そもそもやす子さん、以下の内容を普通にポストしただけであった。

〈やす子オリンピック

生きてるだけで偉いので皆
優勝でーす〉

 これに対するフワちゃんの返信が先の不適切きわまりない文言だった。やす子さんのとても優しい素敵なポストにこの言葉、まして二人のやり取りでもない。あまりの理不尽さに当初は乗っ取りなども疑われたが、乗っ取りでもなく裏垢も持っていないと事務所およびフワちゃん本人が弁明している。つまり、普通に自分の言葉として直球でぶつけたことになる。

 のちにフワちゃんは「これにアンチコメントがつくなら。」といった趣旨で作ったものを誤ってポストした、と弁明したがまあ、それは真偽も含め多くの方々の判断に委ねるしかない話のためいまは措く。

 それでも、その言葉はやす子さんに届いてしまった。多くの人に、届いてしまった。これは事実だろう。

「相手にそういうことを言っても、なんとも思ってないんですよ。いじめる連中はいじめていいと思った相手に平気で使います。私も散々使われました。そして『ノリだから~』『ネタだろ~』とか言います。特別でもなく、それこそ日本中で起きているでしょう。リアルもネットもイジメまみれですから」

誰も味方はいないし教師も知らぬ存ぜぬ

 2018年、熊本県で起きた女子高校生に対するいじめ事件も「死ね」と繰り返しいじめていた側は「日ごろのノリ」と熊本地裁で証言している。また2021年に東京都町田市で起きた女子小学生に対するいじめでも「死んで」といじめの側はアプリのチャット機能で執拗に送りつけていた。2022年に大阪府門真市で起きた男子中学生に対するいじめ認定でも「しんでみーや」「Sine」と執拗に書き込んで追い込んでいる。

 このすべてで、いじめられた側は命を絶っている。命は絶たなかったが地獄だったと語る彼も同じような経験をしたという。

「私もそういう『ノリ』を使って集団で追い込んでくるパターンでした。誰も味方はいないし教師も知らぬ存ぜぬでした。いじめのグループはいかにもなヤンキーとかでないチャラいだけの陽キャでしたし、あくまで『あーあ、◯◯くん死ねばいいのに!』とかネタっぽく言ってくるわけです」(前出の30歳会社員)

 ノリでイジってネタ。哀しいかなごく当たり前にリアルの内輪やインターネットの界隈で使われている。彼に投げつけられた言葉の元ネタは2000年代後半に登場したものだが、これはいつの時代もその時々の流行ったネタがこうした行為に使われやすいというだけでお笑いが悪いわけではない。言葉も刃物といっしょで使う人次第、ということか。

「いかにもなヤンキーの恫喝も怖いですけど、そうじゃないほうも、より陰湿でじわじわ精神を蝕みますよ。中学時代は本当に黒歴史で、なんであんな目にあったのか、いまでもわかりません」

 もちろんそういったヤンキーというか、不良の脅迫的な言葉も令和に健在だ。北海道旭川市のウッペツ川で命を奪われた女子中学生はわいせつな画像を無理やり撮られたあげく10人以上のグループから脅迫を受け続けた。「画像を消してください」と懇願する女子中学生を「死ぬ気もねぇのに」と集団で追い込んだ。報道によれば、女子中学生が極寒の中で入水したのちもいじめグループはみんなでスマホ撮影していたとされる。

 同じく旭川市で女子高生が橋から川に落とされた事件は内田梨瑚と小西優花(両名とも監禁、殺人、不同意わいせつ等で逮捕、起訴)が女子高生を全裸で土下座させたあげくにスマホで撮影、「死ねや」と橋から落ちることを強要したのちに突き落として死亡させた。もはや「いじめ」という言葉を使うべきでなく、単純に暴行と殺人である。

「その通りで、いじめは犯罪ですよ。暴行罪とか監禁罪とか、それこそ殺人未遂とか殺人とか、学校が絡むとなぜか『いじめ』なのはおかしいと思います。いまもトラウマですし、疲れているときとか夢に見ます」

「それでは生徒を救えない」

 いじめの恐ろしいところは切り抜けてもトラウマとして一生残る可能性があることだ。2018年、奈良県の女子中学生が部活動で部員らから集団で暴言を浴び続け、PTSD(心的外傷後ストレス障害)となって転校を強いられた。また2019年から2020年にかけていじめを受けて登校できなくなった東京都青梅市の男子中学生もPTSDと診断され、5年経っても通院を続けていると報じられた。

 かつて、その筆者の記事でも受けたいじめについて「いじめは校内犯罪である」と話していただいた出版社時代の後輩にも、今回のフワちゃんの不適切投稿について電話で聞いた。

「僕の場合は1990年代の古い話で人権のない時代のオタクでしたから、現代のいじめのノリとかイジり、ネタというより旭川みたいなリアル暴力ですね。もちろん僕も一歩間違えれば……と思います。それくらいいじめって恐ろしいですよ。まさにトラウマです。たいしたことないみたいに言っているネットの住人はよほどのユートピアに住んでいるか、いじめている当事者、その予備軍なんじゃないですかね」

 都内、いじめと向き合う現場にいる50代の教師もまたこう語る。

「昔に比べれば対策の進んだ学校が大半だが、人間関係の話で限界はある。教員の仕事が激務であることは言い訳にならないが、校外の問題も含めて何もかも対応するには限界があるのは事実。どんな業界もそうだが、まったく教員に向いていない者が生徒を不適切に指導している場合があることも事実だ」

 2016年、兵庫県加古川市の中学生が「死ね」と書かれたメモを渡されるなどのいじめを受け続けて連絡ノートで「しんどい」と直接的なメッセージを送っていたにもかかわらず担任が「ただの生徒同士のトラブル」と放置、命を絶ってしまった事例がある。

 また大阪市の女子小学生が「死ねって言われた」と自宅マンションから飛び降りた事件も、女子小学生は思い悩んで連絡ノート(この小学校では「自学ノート」)に「わたしは死ねばいいのに」と綴って提出したにもかかわらず、担任からその部分に花丸をもらい、「You can do it!!(あなたならできる!!)」と返されてしまった。その女子小学生の遺したメモには「気づいてほしかった」とあった。

「それは特殊、と思うかもしれないが、本当に人の心が欠落した教員は普通にいる。いじめる側がそうであるように、教員にもそういう人はいる。個別の問題かもしれないが、同じ教員として『それは特殊』とは思いたくないし、それで片づけたくはない。それでは生徒を救えない」

 現役の教員として、大人かつ有名人の話だが今回のフワちゃんの件はどう思うか。

「テレビの影響とかネット文化とか簡単に括りたくはないが、人としてどうかと思う。多くはそう思うだろう。『ください』を『くださーい』にしたからなんだというのか」

 また彼は引っかかる部分があると語る。フワちゃんのラジオ休止を知らせるポストだという。

〈私自身の投稿で、ご本人はもちろん、投稿を見た方々を深く傷付けてしまったことを心から後悔しています。
本当に申し訳ありませんでした。〉

「これ、どうにも『後悔』が引っかかる。後悔は自分ごとだろう」

 あくまで彼の感想ではあるが現役のベテランだからこその引っかかりがあるのだろう。

ノリでいじってネタで済ませてきたのか

 冒頭の男性会社員はこう語る。

「私は中学時代、いじめに耐えて勉強しました。県で最上位の高校に行けばこんなことはないって。実際に合格しましたが、あの中学とはまったく違う世界でした。きちんと言葉が通じて、それぞれが互いを尊重して、合う合わないがあってもそれは不用意に接触しないとか、あたりまえのことができる集団でした。母校にも誇りを持っていました」

 それでも、もし勉強ができず、地域の高校に行っていたらと思うと恐怖だと話す。

「幸い受験はうまくいきましたが、勉強が不得意であの中学のいじめ集団が入るような地元の高校に行っていたらどうなっていただろうと思うとゾッとします。どんな階層でもいじめはあるのでしょうが、治安という点で偏差値の高い学校のほうが安全であることは確かです。荒れた中学や高校よりマシは事実ですよ」

 彼は幸いにして逃れることができたが、逃れられずに命を絶った子どもたちも大勢いる。いまもいじめにあっている子どもたちもまた無数にいる。日常的にひどい言葉をリアルで、ネットで言われ続けている。

 それをフワちゃんほどの著名なタレントが公然と「死んでくださ―い」では、世間の理解は得られないだろう。ノリでイジってネタ、公の場でそれをすればどうなるか、フワちゃんはわからなかったのか。取り巻きもまた、フワちゃんの日常のこうした行動や言動をノリでイジってネタで済ましてきたのか。

 こうした事例に繰り返し書くが、思考は言葉となり、言葉は行動となり、行動は習慣になり、習慣は性格になり、そして性格が運命になる――やはりこの言葉、そのままの事例のように思う。

 フワちゃんの言葉。これは決して、人に向けてはならない刃だった。

日野百草(ひの・ひゃくそう)/日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経て、社会問題や社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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