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暴力団幹部が語る職務質問体験 警察官が車のトランクから見つけた意外なもの、そして表情が変わった理由

NEWSポストセブン 2024年8月11日 16時15分

 警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、暴力団幹部が語る職務質問体験について。

 * * *
 こういうことはよくあることと、指定暴力団のある幹部が話す。車で走行中、パトカーに交通違反?で停められたのだが、完全な違反ではなかったようだ。停められた理由は別にあった。

 片側二車線の道路、前を走るバスが交差点前の停留所で停まったため、幹部は追い越そうとウィンカーを出した。だが後方からパトカーが来るのが見えたので、一瞬ハンドルを切り返した。「それがいけなかった」と幹部は笑った。ウィンカーが消えてしまったのだ。彼はそのままバスを追い越した。

 赤信号の交差点、横にパトカーが並び、助手席の警察官がじろじろと幹部を見ていた。「嫌な予感がしたが、前を向いていた」という幹部。その予感は的中する。青信号で発進すると、「紺の○○の運転手さん、左に寄せて停まって下さい」とマイクで呼び止められたのだ。こうなれば応じるしかない。数メートル走り、幹部は車を道路脇に寄せて停車した。

 警察官が2人、車に近づく。コンコンと窓を叩かれ、素直に窓を開けた。経験上、こういう時は無駄に反抗してはいけない。

「困りますねぇ、運転手さん。ウィンカー出してませんよ」といわれ、「パトカーが見えたので切り返したら、消えちゃっただけですよ。きちんと出しました」と落ち着いて答える。語気荒く反論するのは禁物だ。

 先輩らしき警察官は幹部の顔を見た後、窓に顔を近づけ車の中を見回した。その瞬間、ピンときたと幹部はいう。

「運転免許証を出してください」と先輩警察官。
「違反なんかしてませんよ」と答えると、「違反じゃありません。免許証を」。

 やっぱりだ。ウィンカーは車を停めるためのきっかけに過ぎなかった。ヤクザを捕まえたい時、とりあえず別件の容疑で逮捕するのは警察の常とう手段の1つだ。

「あぁ、職質ですか」と幹部。
「そんなものです」と先輩警察官

 顔を見て、職務質問したほうがいいと判断されたのだ。ヤクザも年季が入れば、醸し出す雰囲気も風貌もそれなりに変わっていく。

「このクソ暑いのに、外には出ませんよ」と応じた幹部。職質となれば話は別だ。違反で切符を切られることはないだろう。法律上、職質は拒否できるが、ヤクザが拒否すれば面倒になるだけだ。都心でも真夏日になったこの日、日光が照り付ける場所は40℃近かった。

「タバコって蓋に書いてありましたね」

 先輩警察官が渡された免許証を持って、パトカーに戻った。免許証番号で身元を照会するのだ。その間、新人らしき警察官は車の周りを一周、運転席の横に来ると「トランクを開けて下さい」と告げた。

「だからさ、暑いんだから勝手に開けてよ」
「いえ、開けて下さい」と、新人警察官は譲らない。

 カンカン照りの中、幹部は外に出てトランクを開けた。入っていたのは大小の段ボールと紙袋だ。新人警察官の目が光る。

「自分で開けてよ」という幹部に、新人は「開けて下さい」。

 小さい方の段ボールをあけた。中から出てきたのはまん丸いスイカだ。

「これ、何ですか」と、彼は面食らったようだ。見りゃわかるだろう。
「スイカだよ」、そこには友人からもらったスイカが入っていたのだ。

 幹部が大きなダンボールに手をかける。出てきたビニールプールみたいな代物に新人警察官が目を真ん丸に見開いた。

「これ何ですか?」、訝し気に聞く新人。
「ウォーターベットだよ。知らないの?」という幹部に、彼は黙り込み、紙袋に目をやった。幹部が紙袋の口を大きくあけて見せた。入っていたのは線香やろうそくなど墓参りの道具。新人がふっとため息をついた。何か出てくると期待したのだろうか。

 そこに先輩警察官が戻ってきた。運転免許証と幹部の顔を見比べ「どこの組ですか」と聞いてくる。「かなり昔の前科までしっかり出ていたようだが、運転免許証の照会では組まではわからないらしい。説明するのも面倒なので、車の後部座席のポケットに入れていた代紋のステッカーを差し出して、ここですよと見せた」と話す。先輩警察官は「あぁ」と頷くと、運転免許証を返してパトカーに戻っていくが、新人警察官は幹部の顔をジィっと見ると、助手席側に向かった。

 車内を一通り見回すと、グローブボックスを開けろという。入っていたのはハサミと丸い缶。新人警察官がハサミを手に持ち、チョキチョキと動かした。

「これも凶器になりますね」
「どこにでもあるフツーのハサミだよ。それが凶器って」と幹部。

 墓参りの時に使おうと入れてあったが、100円ショップで売っているようなハサミが銃刀法違反になるとは聞いたことがない。さすがにそれを凶器にするには無理がある。新人は丸い缶に手を伸ばす。

「これは?」
「タバコの缶だよ。開けてみな」

 入っていたのはタバコのクズのみ。新人警察官の顔が落胆に変わったのを、幹部は見逃さなかった。

「違法薬物では?」と疑いの目を向けられるが、
「タバコだって。缶に書いてあるだろう」と応じる幹部。
「違うと言っても疑ってるんだろう。だったらパトカーに戻って薬物検査をしなよ。検査キットがあるだろう。やればわかるから、やってみな」
「では、パトカーまで同行してください」と新人は缶を持って歩き出す。炎天下に立っているより涼しいパトカーの方がマシだと、幹部も歩いた。

 しばらく待つと助手席に座る新人が、バツの悪そうな顔で振り向いた。

「タバコって蓋に書いてありましたね」
「だからそうだって言っただろう」

 もしこれが違法薬物だったなら、その場で現行犯逮捕だ。声を荒らげて暴言を吐いたり、手を出してしまえば公務執行妨害でこれも現行犯逮捕される。顔見知りの刑事ならいざ知らず、ヤクザにとって職質をかけてくる警察官には注意が必要なのだ。

 パトカーを降りようとする幹部に新人が「署まで同行してもらって尿検査はダメですよね」と聞いてきた。

 さすがの幹部もこれには呆れた声を出したようだ。

「それって人権侵害じゃないの。車から何にも出なかったよな。大麻でも出たなら、オレはいくらだって協力する。だけど何も出ないのにそれはない」

 職質をかけられる一般人は多くないが、ヤクザにとっては日常茶飯事。「顔にヤクザって書いてないのにな」と幹部は笑った。

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