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《近隣住民は「ずっと変だと思ってるよ」》宮城・柴田町男性殺害事件 被害者家族ら6人が相次いで逮捕、“長男の妻”の周囲で起きた「4度の火事」に深まる謎

NEWSポストセブン 2024年8月13日 11時15分

 2023年4月、宮城県柴田町の住宅玄関先で、血まみれの男性が倒れていると近隣住民からの119番通報があった。すでに亡くなっていた男性は、もともと住んでいた家が全焼したため、1か月前、その住宅に引っ越してきたばかりだった。

 男性の遺体は作業着姿で、刃物による刺し傷があり、仰向けに倒れていた。死因は右腰を刺されたことによる失血死。4か月後の2023年8月に殺人容疑で逮捕されたのは男性の親族たちだった。その後の捜査では、殺人だけでなく親族ら周囲の人物による美人局詐欺も発覚してゆく。カギを握るのは男性の“長男の妻”だとみられている。家族を中心とする不可解なこの事件の影には、度重なる“火災”があった。

 * * *
 柴田町西船迫1丁目にある住宅の玄関先で、住人の会社員、村上隆一さん(54=当時)の遺体が見つかったのは2023年4月17日の朝。右腹部、右膝などが血まみれで、近くにはスマートフォンが落ちていた。刺し傷はあるが、刃物は見当たらない。

 パン工場に勤めていた隆一さんは1か月前、この住宅に引っ越してばかりだった。それまで空き家だったという住宅にはもともと、高齢の夫婦が住んでいたが、「夫婦が亡くなってからは親族だという女性がときどき来て管理していたようです」(近隣住民)という。隆一さんが住宅を借りて住み始めていたことも「知らなかった」と語る近隣住民は少なくなかった。

 もともと隆一さんが住んでいたのは、住宅から西に3キロほど離れた大河原町の一軒家。母と姉との3人暮らしだったが、2023年2月25日夜、家が全焼。その後、母と姉と離れ、ひとり隣町の西船迫に引っ越してきた。

近隣住民が首をかしげること

 大河原町の火災では、木造2階建ての一軒家が全焼し、隣家外壁も焼けた。玄関付近から炎が上がっているのを見つけた隆一さんが通報したという。消防は「こぼれたガソリンに線香の火が引火した」としているが、火災から1年が過ぎた今でも、近隣住民は首をかしげる。

「ずっと変だと思ってるんだよ。あの日は一気に激しく火が燃え上がったから、近所の人たちで公園に逃げたわけ。そうしたら、村上さんの家族がそこに立って火を見てるんだよ。村上さんのお母さんは足が不自由だから、逃げ遅れたのかと心配していたら『おばあちゃんは避難させてきた』って言うわけ。あんなにすごい勢いで火が燃えてるのに、もう避難させてきて、火を見てたんだ」

 別の住民も言う。

「村上さんの家族は公園で消防から事情を聞かれていて、『隆一さんの息子がガソリンの入った携行缶を持ってきて玄関に置いていたらこぼれたので、拭き取った。しばらくしたら奥の部屋からバーンと爆発した』と説明していたんです。それが本当であれば、村上さんの家族は負傷していてもおかしくないと思うのですが、逃げて隆一さんのお母さんを避難させ、無傷で火を見ていたので不思議に思いました」

 この火災からほどなく、隆一さんは殺害された。それから約4か月後、殺人容疑で逮捕されたのは隆一さんの次男、村上直哉(24=逮捕当時)と、隆一さんの“長男の妻”、村上敦子(47=同)。現在は殺人罪で起訴されており、裁判員裁判を待つ身だ。敦子被告と直哉被告は事件前日夜から、隆一さんの住む住宅でマージャンをしていたという。そこには敦子被告の16歳年下の夫である、隆一さんの長男も同席していた。日付が変わり、2023年4月17日未明、直哉被告が玄関先で隆一さんの腰を刺して殺害したとされる。

 逮捕されたのはふたりだけではない。敦子被告の知人である夫婦も証拠隠滅容疑で逮捕された。大河原町に住む無職、松野新太(49=同)と妻のみき子(43=同)は敦子被告の依頼を受け、凶器である包丁や衣服などを燃やして土の中に埋めたという。さらに殺人事件の捜査の過程で、敦子被告をはじめとする親族が絡んだ美人局詐欺事件も発覚し、逮捕者が増えた。

 SNSの出会い系サイトを介して男性から金を騙し取ったとする詐欺や詐欺未遂の容疑でこの4人に加え、殺人事件前日にマージャン卓をともに囲んでいた隆一さんの長男、村上保彰(31=同)、敦子被告の姉・市瀬恵美(48=同)も逮捕される。計6名が美人局詐欺にかかわり、そのうち2名が殺人事件に関与、さらに別の2人が証拠隠滅に関与したという構図だ。松野夫婦には今年1月、懲役3年、執行猶予5年の判決が言い渡されている。

 美人局詐欺においても、敦子被告が主導的な役割を担い、他の5人が詐欺の被害者に対し因縁をつけるなどしていたという。公判で明らかになったところによれば、松野新太と妻のみき子は、敦子被告に借金があった。美人局で騙し取った金を、借金返済に充てていた。

いつでもタバコを吸っていた

 殺人を契機に、敦子被告を中心とする、入り組んだ人間関係や美人局詐欺までも明るみに出たこの事件。敦子被告の周辺では、2019年にも火災が発生していた。

 当時、敦子被告が営んでいた宮城県角田市のパン店が燃えたのだった。複数店舗が入る小さな建物において、パン店のみが焼けたという。タバコの不始末が原因だったとされる。当時を知る住民は言う。

「ボヤがあったのは、お店がオープンして半年も経たないくらいですかね。タバコを消して、時間をおかずにゴミ袋に入れていたんでしょうね。そのうちにくすぶって燃えたようです。パン店の隣は燃えなかったですがススが漏れて真っ黒になっていました。その後は店主(敦子被告)と連絡が取れなくなり、そのまま退去したそうで、不動産屋が全部手続きをしたと聞きました」

 近隣で店舗を営んでいた住民は、当時の敦子被告の様子をこう記憶していた。

「オープン時に挨拶はなく、しばらく経ってから来ました。でも感じは良くなかった。会っても挨拶しなかったし、いつでもタバコを吸ってるという印象でした。くわえタバコで出勤して車を駐車場に停めて、車を降りてからもタバコを吸いながら店に入っていく。店の前を通ると、外でタバコを吸っているのをよく見ました」

 店舗が燃えたことでパン店をたたんだ敦子被告だったが、その数年後、「気づいたら、店があった場所のすぐ近くにある新築の家に住んでました」(同前)という。パン店のあった場所から数百メートルの場所に並ぶ、複数の建売住宅。その一軒に敦子被告は住んでいた。

 界隈では有名人になっていたようだ。敦子被告とその家族について知らない近隣住民はいなかった。

「あの家には、村上隆一さんの長男と、その妻の敦子さんだけではなく、その長男の弟(直哉被告)、敦子さんの娘とその夫と孫が住んでいたと思います。最初は敦子さんの祖母も住んでたって聞いたんですけど、とにかくいつも車が複数台停まっていて、出入りする人数も多くて、正確に何人暮らしだったのかはよく分からないです」(近隣住民)

 敦子被告は複数回の婚姻歴があり、かつては、証拠隠滅の罪に問われた松野新太と夫婦関係にあった。元夫婦には子供がおり、そのひとりである娘と新築の家に住んでいたという。

実家は2回燃えた?

 敦子被告の娘の夫が3年前に所有者となったこの新築一軒家を訪ねた。2階のベランダに幼い子供のものと思しき洗濯物がはためく。インターフォン越しに女性が応答したが、「そういうの(取材)受けてないんで」と話を聞くことは叶わなかった。

 燃えたパン店や、その後住んでいた新築一軒家のある近くで、敦子被告は幼少期を過ごした。昔を知る住民は言う。

「逮捕のニュース見て、いやあ、本当にびっくりだったよ。敦子さんのお父さんはもともと、このあたりで寿司屋をやっていた。そのときに敦子さんも産まれたと思う。そのあと店を閉めて、家族は実家に戻ったんだけど、そこも昔火事になってるんだ」

 角田市から白石市に向かう途中、のどかな集落の一角に、敦子被告の実家がある。ここで住民らに話を聞くと、実家が燃えたのは一度だけではなかったことが分かった。

「あそこは2回燃えたよ。どっちも全焼。最初に燃えてから、新しい家が建ったんだけど、そこも燃えた」

 1998年の毎日新聞地方版に、当時の火事を報じる記事がある。

〈1階座敷から出火、木造2階建て住宅1棟約173平方メートルを全焼した。角田署の調べでは、座敷にはこたつやストーブなどがあったという〉(記事より)

 この報道が一度目の火事なのか、二度目なのかは現時点で不明だが、「一度目の火事では保険金がおりた。寿司屋で使ってた道具なんかも燃えてたね」と住民らは言う。

 敦子被告の生家を訪ねると、かつて家があったと思しき場所は更地になっていた。敷地の端に小さな平家がある。「いまは敷地の干し柿小屋を改装したところに、敦子のばあちゃんがひとりで住んでる」(住民の証言)というその家を訪ねたが、奥から大きなテレビの音が聞こえてくるだけで応答はなかった。

 住民のひとりは言う。

「何で(村上隆一さんの)次男坊が自分の親を刺したのか分かんねえ。敦子なら分かるよ」

 敦子被告の義理の弟であり、村上隆一さんの次男である直哉被告は、殺人を認めており、「霊媒師からお父さんを殺さないといけないと言われた」と供述しているともいわれる。一体なぜ、村上隆一さんは殺害されたのか。引き続き取材を進めていく。裁判員裁判の目処はまだ立っていない。

◆取材・文/高橋ユキ(フリーライター)

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