Infoseek 楽天

《好感度だけにあらず》テレ朝がサンドウィッチマンを“局の顔”にする狙い「爆笑問題からのシフト」も

NEWSポストセブン 2024年8月10日 11時15分

 テレビ朝日がゴールデンタイムを中心にサンドウィッチマンの起用を増やしている。他局と比較してもその傾向は顕著だ。なぜテレビ朝日はサンドウィッチマンを“局の顔”として押し出しているのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

* * *
テレビ朝日系で10日(土)に『サンドウィッチマンの禁断ランキング 高校野球ファンが選ぶ高校球児ランキング』(18時30分~21時54分)、12日(祝)に『サンドのパリ五輪総集編 メダリストが最速大集合!名場面マル秘全舞台ウラSP』(19時~21時54分)が放送されます。

どちらもサンドウィッチマンがMCを務める特番であり、三連休のゴールデンタイムで放送される局を挙げた大型企画。前者はテレビ朝日が得意のランキング特番、後者は各局最速で放送されるパリ五輪総集編であり、どちらも「サンドウィッチマンに託した」というスタンスがうかがえます。

 もともとテレビ朝日はサンドウィッチマンがメインを務める『帰れマンデー見っけ隊!!』『10万円でできるかな』『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』『アンタウォッチマン!』を放送中。そのほとんどがゴールデンタイムの放送であり、MCを務めるなど、最もサンドウィッチマンを起用するテレビ局となってきました。

 ちなみに他局でMCを務める番組は『バナナサンド』(TBS系)と『ウワサのお客さま』(フジテレビ系)くらいで、『THE突破ファイル』(日本テレビ系)と『坂上どうぶつ王国』(フジテレビ系)はレギュラー出演者というポジションに留まっています。

 なぜテレビ朝日は「サンドウィッチマンを局の顔として押し出す」という編成戦略を採用しているのでしょうか。単に好感度の高さだけではない、テレビ朝日らしい理由がうかがえます。

民放主要4局には“局の顔”がいる

 民放主要局には特徴や強みとなるジャンルがあり、それに合う“局の顔”として芸人が起用されています。

 まず日本テレビはファミリー層や女性層に人気の番組が多く、安心して楽しめるようなムードが強みで、局の顔は『世界の果てまでイッテQ!』『THE突破ファイル』『スクール革命』『笑神様は突然に…』『うわっ!ダマされた大賞』『内村&さまぁ~ずの初出しトークバラエティ 笑いダネ』の内村光良さんと、『上田と女が吠える夜』『しゃべくり007』『Going!Sports&News』『くりぃむしちゅーの!THE☆レジェンド』『カラダWEEK』、さらに『24時間テレビ 愛は地球を救う47』で総合司会を務める上田晋也さん。内村さんと上田さんが父親のようなポジションでさまざまなタレントの魅力を引き出しています。

 次にTBSは明るく元気なイメージの番組が多く、学校や職場の休み時間を思わせる気楽なムードが強みで、局の顔は『バナナマンのせっかくグルメ!!』『バナナサンド』『ジョブチューン』『クレイジージャーニー』のほか「TBS SDGs大使」を務めるバナナマンと、『オオカミ少年』『水曜日のダウンタウン』『プレバト』(MBS制作)『ドリーム東西ネタ合戦』『お笑いの日』『お笑いアカデミー賞』の浜田雅功さん。バナナマンや浜田さんが出演者と笑顔で楽しむような陽気な雰囲気を前面に出しています。

 フジテレビは数々のバラエティを手がけた港浩一社長の就任後お笑い路線に回帰し、局の顔は『千鳥の鬼レンチャン』『千鳥のクセスゴ!』『酒のツマミになる話』『すぽると!』『火曜は全力!華大さんと千鳥くん』(カンテレ制作)の千鳥。「(ネタ以外のトークなど)平場最強」と言われる千鳥を中心にツッコミとボケの手数を増やし、「もう一度『楽しくなければテレビじゃない』というイメージで勝負」という狙いが見えます。

 そして局の顔にサンドウィッチマンを選んだテレビ朝日は、もともと報道や教養系の番組が得意で、唯一全曜日のプライム帯で報道番組を放送し、バラエティでも池上彰さんや林修さんらを重用していることからもそれがうかがえます。ロケ、クイズ、教養、ドキュメントなどの大崩れの少ない保守的なジャンルが選ばれやすく、そこにフィットするのが、笑いだけでなく常識やモラルの面で安定感があるサンドウィッチマンなのでしょう。

オールターゲット戦略に合うサンド

 もう1つ“局の顔”を選ぶ基準として重要なのは、各局の主要ターゲット層。現在、民放各局の営業指標は主に個人視聴率が使われていますが、主要ターゲットとなる年齢層は微妙に違います。

 まず日本テレビとフジテレビの主要ターゲットは主に「コア層」と言われる13~49歳。「最も商品の購買意欲が高く、スポンサーが求める視聴者層」とされ、親子で見やすい番組やSNSでつぶやきたくなる番組が優先されやすい傾向があります。その点、親子で見やすいムードを作るのがうまい内村さんや上田さん、つぶやきたくなるトークがうまい千鳥が選ばれるのは当然かもしれません。

次にTBSはコア層に幼児と小学生を加えた4~49歳を「新ファミリーコア層」と称してターゲット化。以前は13~59歳を「ファミリーコア」と称してターゲットにしていただけに、他局以上に子どもたちへのリーチを考えている様子がうかがえます。実際、「最も明るいグルメ番組」と言われる『バナナマンのせっかくグルメ!!』や「最もにぎやかな音楽バラエティ」と言われる『オオカミ少年』(ハマダ歌謡祭)の演出は子どもにも訴求できるものでしょう。

 一方、テレビ朝日はコア層や子どもだけでなく、あらゆる世代を対象にした“オールターゲット戦略”を掲げてきました。ただ実際のところ主要視聴者層は50代以上の中高年であり、スポンサー受けのいいコア層の個人視聴率は低迷。局の特色を守りながらコア層にも訴求できる局の顔としてサンドウィッチマンが起用されています。

 長年テレビ朝日の顔は爆笑問題が務めてきましたが2人は今年59歳と還暦目前であり、今年50歳のサンドウィッチマンにシフトしているのは間違いないでしょう。テレビ朝日には爆笑問題がMCの『○○総選挙』という看板特番がありますが、ここにきて『サンドウィッチマンの禁断ランキング』が立ち上げられ、その内容は重複しているだけに少しずつシフトしていくのではないでしょうか。

 もともとサンドウィッチマンは吉本興業の芸人たちのようなにぎやかなチーム芸ではなく、静かなトーンで笑いを取っていく芸風。「さまざまな情報を提供しつつ、そこに笑いを加えていく」というテレビ朝日のバラエティに合うだけに、今夏の特番をきっかけにますます局の顔というイメージが浸透していくでしょう。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

この記事の関連ニュース