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五輪選手スタッフが「お礼」をSNSに投稿したら誹謗中傷から炎上 選手を労う空気が一変「攻撃的なコメントが相次いだ」

NEWSポストセブン 2024年8月13日 16時15分

 ネットの、とくにSNSでの誹謗中傷はたびたび社会問題として注目を集め、対策や対処法について議論になるが、いまだ有効な方策は見えないままだ。そんな状態で始まり、閉幕したパリ五輪は、組織委員会や選手団、選手やスポンサーなどが今まで以上に多く投稿したSNSを楽しむ五輪でもあった。その一方で、無名の個人アカウントから発信される誹謗中傷の多さにもげんなりさせられる五輪でもあった。ライターの宮添優氏が、五輪代表本人ではなく周囲の関係者が次々と誹謗中傷トラブルに巻き込まれている現実についてレポートする。

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 過去の五輪と比べてパリ五輪では、SNS上で飛び交った出場選手への誹謗中傷が大きな問題となった。それに対し、日本選手団が大会途中に声明を出すなど、社会問題に発展している。これらの問題は日本だけでなく、世界中が頭を痛めているのだが、五輪という”戦い”の空気に触発されたのか、ネットに不適切投稿を行うユーザーは勝手にヒートアップし、その刃の矛先は、選手以外にも及んでいるようだ。

 陸上競技選手で、パリ五輪の代表選考から惜しくも漏れたAさん(20代)は、ライバル選手の活躍をテレビを通じて応援していた。ライバル選手は惜しくも決勝に進むことができず予選敗退。だが、しのぎを削ったライバル選手の健闘が賞賛に値するものであることは、Aさん自身が一番知っている。帰国したら食事に誘おう、4年後の出場を目指して切磋琢磨しよう…。そんなことを考えていた。

 しかし翌日、自身のSNSのコメント欄で、知らないユーザー達が「口論」になっていることに気がついた。前日に負けたライバル選手の「アンチ」と思われるユーザーが、Aさんの投稿のコメント欄に「弱いライバル選手よりA選手が代表だったらよかった」と書き込み、ライバル選手のファンと思われるユーザーが反論したことがきっかけのようだった。

「私が出ていればメダルが取れていた、ライバル選手は辞退すべきだった等と書いてありました。そんなこと書かれても嬉しくないし、ライバルではあっても、憎み合う関係でもありません。周囲の全く関係のない人に変なこと言われて、いろんな人まで巻き込んで争うなんて見たくない」(Aさん)

 Aさんはすぐコメント欄を閉鎖し、所属チームのコーチや監督に相談。ほとぼりが冷めるまではSNSに触らず、距離を置くことにした。

 とばっちりとしか言いようがない誹謗中傷から始まった炎上を、自身のアカウントで繰り広げられてしまったのは迷惑でしかない。第三者から見たら、滅多にないことだろうから気の毒にと思うしかない。だが、似たようなとばっちりが五輪期間中は激増していた。本人とまったく関係のないところで起きていた誹謗中傷に、いつの間にか自身が巻き込まれてしまうことが珍しくなかったのだ。そして、選手だけでなく、その関係者にも誹謗中傷の影響は及んでいた。

攻撃的なコメントが急に相次いだ

 球技でパリ五輪に出場した日本人選手をバックアップしていた、メディカルトレーナーの男性・Bさん(40代)は、競技終了後に選手のSNSアカウントへ向けて「お礼」を投稿したが、思わぬ騒動に巻き込まれたと肩を落とす。

「残念ながらメダル獲得には至りませんでしたが、ここまで選手を応援してくれた人たち、地元の人たちに向けて、SNSにお礼というか、メッセージを書いたんです。多くの人から激励のメッセージをいただきまして、私も頑張ってよかったといろんな思いが去来して涙しました。早く選手をねぎらってあげたい、早く次の目標に向かう選手をサポートしたいと。前向きな気分でね」(Bさん)

 ところが、書き込まれた数十件の激励コメントの中に、たった一つだけBさんや選手を攻撃する内容のものが投稿され、空気は一変する。

「私やコーチングスタッフのせいで負けた、やめろ、引退しろ、というような書き込みでしたね。最初は無視していたんですが、そこに別の人が“私もそう思う”的な返信をして、そこから荒れだしたんです。ありがとうじゃないだろう謝罪しろとか、反省して練習しろとか、攻撃的なコメントが急に相次ぎました」(Bさん)

 まさに眺めている目の前で、選手をねぎらおうというSNS上の空気が一変したとBさんは振り返る。そして、自分の身に起きた理不尽な炎上に納得がいかないのは当然だが、パリ大会期間中、惜しくもメダルを逃したり、思うような成果を残せなかった選手たちが「ごめんなさい」と口にすることも、苦々しく感じていると打ち明ける。

「結果が出せなかった選手たちが、ごめんなさい、すいませんと謝っている姿に、胸が張り裂けそうな思いでした。選手たちのほとんどは、テレビカメラの前だということを意識して話しているのではなく、コーチやチームスタッフ、家族や友達など、競技生活を支えてくれた人たちに対して、期待に応えられなかった申し訳なさを言っていると思うんです。でも、テレビを見た人たちからは、自分たちファンに、日本人に対して謝っている、と間違って理解されている気がします。だから、うまくいかない選手に謝れ、という人が出てくる」(Bさん)

 アスリートや関係者への誹謗中傷は、日本人選手関係だけでなく世界中で起きている。メダルをとれなかったこと、人種や性別、見た目についてなどに関する悪質な投稿が次々と発信され、五輪の組織委員会や各国の選手団だけでなく、政治家たちも苦言を呈するような事態だ。日本選手団は大会期間中に発表した声明で、法的措置も検討していると明かしているが、被害に遭っているまさにいま、効き目がある対策は打てないままだ。結果、多くのアスリートがSNS投稿を控えるなどして、誹謗中傷被害にあわないよう、情報発信すらやめてしまう動きも見せている。

 当たり前の話として、誹謗中傷はその言葉を発する人が悪い。言われ、投稿され、名指しされた側が何かを制限されるなんて、本来はあってはならないことだ。だが現実には、一部の卑劣な人々の言動が、他の多くの人たちの表現活動が抑え込まれている。そして、我々の知る権利まですでに脅かしているのだが、そんな危険な状態に陥っていることを、多くの人が気づけていないのが現状であろう。

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