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駐日ジョージア大使が語る“日本語の美点” ビジネスで「日本語は使い勝手がいい」【連載「日本語に分け入ったとき」】

NEWSポストセブン 2024年8月16日 15時57分

 日本語を母語としないながらも、今は流暢でごく自然な日本語で活躍している外国出身者は、どのような道のりを経てそれほどまで日本語に習熟したのか。日本語教師の資格を持つライターの北村浩子氏がたずねていく。最終回は、SNSで33万人以上にフォローされる「広島育ちのバズる駐日ジョージア大使」ティムラズ・レジャバさんにうかがった。【全4回の第2回。第1回から読む】

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 レジャバ大使の目に、日本語はどのような言語に映っているのだろうか。さらに掘り下げて聴いてみたい。

「日本語は、配慮がある言語なんじゃないかと思います。たとえば、断りたいときのバリエーションが多い。それも直截的ではなく抽象的な言い方で、やわらかく伝えたいという気持ちが前面に出る。敬語に象徴されるように、人間関係をベースにした、相手と話すことに主眼を置いた言語ではないかという気がします。

 やわらかくしたい、という感覚は語尾にもあらわれていると思います。断定を避けて『~でしょう』と言うことがありますよね。英語で『maybe』と繰り返していたら、その人は単に気の弱い人なのではないかと思われてしまいます。でも日本語ははっきり言わないことで摩擦を避ける、そんな性質がある。

 それになんと言っても、オフィシャルの場ではビジネスマナーを理解していないとコミュニケーションが成り立たない、というのが大きな特徴ですね。たとえ文法や発音にまったく問題がなくても、丁寧な言葉を使っても、『話せる』だけでは、それはコミュニケーションとは言えないんですよ。商習慣における礼儀、しきたり、それらをセットで理解し、その都度アジャストしなければならない。特に年配の方と話すときは、普段の会話で使っている言葉を使ってしまったら失礼にもなります。そこが日本語の難しいところですね」

〈話せる〉だけではコミュニケーションとは言えないという言葉にハッとさせられた。ある言語を「意思疎通が可能なレベルまで運用できる」というのは、時と場合、話す相手によって使い分けることができてこそなのだ。

「難しい面もありますが、仕事をする上では『使い勝手のいい』言語だとも思います。たとえば、ちょっと頼みづらいことをお願いするとき、迂回した表現を使っても分かってもらえますよね。ダイレクトに言わなくても通じるというのは、日本語らしさの一つだと思います」

(第3回に続く)

【プロフィール】ティムラズ・レジャバ/ジョージア出身。1992年に来日、その後ジョージア、日本、アメリカ、カナダで教育を受ける。2011年9月に早稲田大学国際教養学部を卒業し、2012年4月キッコーマン株式会社に入社。退社後はジョージア・日本間の経済活動に携わり、2018年ジョージア外務省に入省。2019年に在日ジョージア大使館臨時代理大使に就任し、2021年より特命全権大使。

◆取材・文 北村浩子(きたむら・ひろこ)/日本語教師、ライター。FMヨコハマにて20年以上ニュースを担当し、本紹介番組「books A to Z」では2千冊近くの作品を取り上げた。雑誌に書評や著者インタビューを多数寄稿。

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