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【永田町取材歴40年】「週刊文春」元名物編集長が明かす、人付き合いの極意

NEWSポストセブン 2024年8月15日 11時15分

「週刊文春」「文藝春秋」両誌の編集長を歴任した、元名物編集長の鈴木洋嗣(ようじ)氏(64才)。このほど、文藝春秋を退社し、ちいさなシンクタンクを立ち上げて独立するにあたり、これまで40年近く永田町を取材してきた経験を一冊に凝縮した『文藝春秋と政権構想』(講談社刊)を7月に上梓した。

 現場の編集者としても、編集長としても数々のスクープを世に放った鈴木氏。同書はそんな鈴木氏がとりわけ深く関わった4人の政治家との回想と、混迷を極める日本経済への提言という形で構成されている。

「編集者は黒子だと考えていたので、こういった内幕を書くのはどうかなと躊躇したのですが、『文藝春秋』の伝統である手記や告白に代表される、同時代の人と関わりながら記事を作るという“やり方”を記録に残してもいいんじゃないかと考えました。1年ぐらい前から書き始めて、現場の人に『こういうやり方もあるんだ』と伝えたい気持ちもありました。

とりわけ深く関わりのあった4人の政治家とのやりとりや政策を練っていく過程を書き上げたあと、読み直してみて、これはひょっとしたら経済政策、あるいは政権構想の通史みたいになるかなと思いなおしました。

 具体的に言えば、1992年に日本新党を立ち上げた細川護熙さんのバブル崩壊時から梶山静六さんの金融危機、2012年からの安倍晋三さんのアベノミクス、そして菅(義偉)さんの政権構想までをひとつの流れとして捉えることができるのではないか。この30年にわたる一連の経済政策にフォーカスしてひとつの歴史として観ることに意味があると感じています。

最後には、『じゃあこれからどうしたらいいか』というこれからの経済政策についても、私なりに書かせていただいて一冊の本にまとめました」(鈴木氏、以下同)

 書籍に登場するのは、細川、安倍、菅の3人の元首相と官房長官を務めた梶山静六氏。4人それぞれと密接な関係を築いてきた鈴木氏だが、中でも、1998年の自民党総裁選出馬に際し、「総裁選に立つことにした。ついては文春の社長に頼むから、3年、補佐官をやってくれ」とまで懇願されたという梶山氏との交流はひときわ濃密だ。

「若手時代、日銀マンや証券マン、大手シンクタンク研究員のみなさんと勉強会を重ねていて、経済政策について検討していました。梶山さんには、その成果を『金融ルネサンス』というメモにして、毎週提出していたんです。

30週以上届けて、ある時やっと、『メモについて、質問がある』ということで、面会する機会を得た。バブル崩壊からの経済再生に本気で取り組む梶山さんとは、そこから長期にわたって深く関わっていくようになりました。菅さんとの縁ができたのも、実は梶山さんから紹介されたのがきっかけなんです。

議論が白熱し、『別に先生のためにやっているんじゃない、お国のためにやっているんですよ』と放言したこともありましたが、梶山さんは『ほおッ』と受け止めてくれた。時には、番記者たちとの会食に呼ばれ、『となりに座れ』と言って、彼らに仲間として紹介してくれたこともありましたね」

 編集者生活で名刺交換した人は1万5000人を超えるという鈴木氏、国の舵取りを担う大物政治家たちにも食い込む、人付き合いに極意はあるのだろうか。

「『週刊文春』や『月刊文藝春秋』といった雑誌の編集者は、扱うテーマが多岐にわたるので担当という概念が薄い。担当者間のしがらみもそこまでない分、これはと思った人に自由に接触できる。そこで深く人間関係を築くことができれば、電話一本でやり取りできるようになるわけです。

事件取材を長く担当したある敏腕司法記者は、『検事が地方に赴任したときに会いに行くんだ』と話していました。要するに、その人が恵まれないポストにいるときにこそ通うんです。安倍さんもそうでしたよね。失意のうちに首相を辞任して、第2次政権を樹立するまで、その5年間に通った記者だけが、彼にとって信頼できる番記者だったんです。

すなわち、不遇の時代に訪ねていくのが大切なんです。それは政治家だけでなく、経済界などビジネスの場面でも同じです。その人の人生が上手く行かない時に親しくなると、大事な局面で『じゃあ、君に教えてやるよ』となるわけです。栄耀栄華を極めている時に行っても、みんなが群がっているから相手にしてくれる時間もないですしね」

 自身を霞ヶ関、経済オタクと評する鈴木氏はいまも、「これは!」と思う政治家への政策提言を続けているという。さらに、次回作への意欲も尋ねると、次にテーマとしたいのは、官僚だと明かす。

「松本清張さんがお書きになった『現代官僚論』という本が私のバイブルでした。清張さんが昭和30年代に書いた古い本なんですけど、それを私は高校生の頃から愛読していたんです。その頃から国家の仕組みや官僚オタクだったんですよね(笑い)。

これまでも清張さんの真似をして官僚を論じた書籍は数多くありましたが、官僚凋落の時代と言われるいまこそ、現代官僚論を書いたら面白いかなと思っているんです。役人になっても安月給かつその権力も弱くなったと言われて、なり手はどんどんいなくなっている。

以前は、この国を動かしていると特別な目で見られていましたし、ある政治家の事務所に行ったら『これから日本の宝が来ます』と言われ、大蔵官僚(当時)を紹介された時代もありました。学生時代、何かこの国の役に立ちたいと考えて役人を志した人たちが、この国のあり方について毎日寝ずに考えていることを全部だめだと簡単に否定するのではなく、一度彼らの考えをきちんと聞いてみるのも意味があるんじゃないかなと思うんですよ」

政治の世界でキーマンたちに伴走し、肉薄してきたジャーナリストの取材意欲は増すばかりだ。

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