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《もうチータは終わった…》デビュー60周年の水前寺清子が激白、演歌の大御所が“歌うこと拒んだ”「大ヒット曲拒否事件」

NEWSポストセブン 2024年8月19日 10時58分

 長年“チータ”の愛称で親しまれてきた水前寺清子さん(78)は、今年で歌手デビュー60周年を迎える。印象的なベリーショートに着物をまとい、「NHK紅白歌合戦」に出場すること連続で22回。そんな演歌界の大御所・水前寺さんにも、『もうこれで水前寺清子は終わり』と覚悟した時があったという。あの大ヒット曲を歌うことを拒み、国民的ドラマへの出演を断り続け……“汗かき、べそかき、歩いてきた”芸能生活60年を水前寺さんが語った──。【前後編の前編】

「東京に出てきた時から私はずっとこのヘアスタイルです。髪の毛を長くしようと思ったことも一度もありませんね(笑)」

 そう気さくに話す水前寺さんは、1964年に『涙を抱いた渡り鳥』で歌手デビュー。この60年、どのような思いで演歌を歌い続けてきたのでしょうか。

「60年と言われても正直いいまして、ピンときません。歌うことが大好きで歌い続けてきたら、いつの間にか60年が経ってしまったという感覚です。ただ、振り返ってみると私は運が良かったなぁと感じます。周囲には私を支えてくれるたくさんの人たちがいて、数えきれないくらいの出会いがあって今の私がありますから」

 1969年に日本レコード大賞を受賞した『三百六十五歩のマーチ』は、昭和、平成、令和と歌い継がれている名曲です。しかし当時、それまで着物で歌い続けてきた水前寺さんがパンタロンの衣装に変えたことから、大変騒がれたと聞きます。実際はどうだったのでしょうか。

「騒がれたというよりも、私自身が『もうこれで水前寺清子は終わった』と思いました。『三百六十五歩のマーチ』との最初の出会いはレコーディングの時で、スタジオに入るや否やスピーカーから行進曲のような音楽が流れていました。私は思わず『どこの運動会の歌?』と、ディレクターに質問したくらいです。すると、ディレクターは『これから君が歌う曲だよ』と。デビュー以来、ずっと演歌を歌い続けてきたのに“どうしてマーチを?”と困惑しました。そして歌うことを拒みました」

──拒否反応を示してしまったんですね。

「そう。でも、ディレクターが『とにかく一度だけ歌ってみてよ』と言うので、歌ってみると、一発でOK。でも私自身、何となく違和感があり『もう一度歌わせてください』とお願いしました。それは『ワン・トゥー、ワン・トゥー』という英語的な発音を『ワン・ツー、ワン・ツー』と日本語的な発音に直し、一部分に演歌で慣らした“コブシ”を入れてみました。私なりの小さな抵抗だったのです。その2度目の録音が世の中に出ました。レコードジャケットはマーチングバンドのような衣装。なんとミニスカートを履いています。もうこの頃はレコーディングも終わって『なるようになれ!』と思っていました(笑)」

──歌手活動にとどまらず、1970年には最高視聴率56.3%を記録した国民ドラマ『ありがとう』(TBS系)で主演を務められました。当初、オファーを断っていたというのは本当ですか?

「当時、歌の仕事で忙しく、とてもドラマなど引き受けられる状況ではありませんでした。そのときに歌番組でテレビ局に行くとトイレの前に必ず立っているご婦人がいるのです。そのご婦人が『チータ、ドラマやらない?』と毎週、毎週、必ずトイレの前に……。

 1カ月ほど経ったある日、今日こそキッパリとお断りしようとトイレに向かいました。やっぱりご婦人が立っていらっしゃる。私は『ドラマはやりません! ドラマというのは美人の方がおやりになるものでしょう?』と。そうしたらそのご婦人は『チータ! あなたは美人じゃないからいいのよ』と、仰るんです」

──断るはずが一転、どうして出演することになったんでしょうか。

「私の戸惑いをよそにそのご婦人は『チータ、あなたがやらないのなら、このドラマはやめます』と、仰る。私はその場で『わかりました! やります!!』と、つい言ってしまったのです。それから会社には叱られるし、いざ撮影が始まると歌の公演先から夜行列車に乗って帰京したり、移動中に台本を覚えたりと、大変な生活になりました」

──そのドラマ『ありがとう』では、母親役の山岡久乃さんと娘役の水前寺さんの日常生活の掛け合い、石坂浩二さんとの恋の行方が描かれました。同作品は好評で3シリーズ(計135回)も放送されました。

「いろいろありましたが、やってよかったと思っています。街を歩いているとドラマの役名(ひかる)で呼ばれたり、共演してくださった方からも暖かく接していただいたりと、とにかく皆さんに愛されたドラマになって、改めてトイレの前で熱心に私を誘っていただいたご婦人“石井ふく子先生”には感謝してもしきれません。

 本当はこのドラマ出演は短い期間のお約束でしたが、3シリーズの続く作品になりました。その後は『歌の仕事に専念したい』と強く思い、石井先生に相談をして降板させていただきました」

──女優として多くのドラマ、映画にも出演してきた水前寺さんは、78歳となった現在も演歌を歌い続けています。22回出場したNHK紅白歌合戦では4度の司会を務められましたが、近年は演歌枠が縮小され、若者の演歌離れが話題となっています。どう感じていますでしょうか。

「『歌は世につれ世は歌につれ』と言いますが、まさにそうですね。私は演歌歌手ですから紅白歌合戦で演歌の枠が縮小されているのは残念です。しかし、その時代にマッチした音楽が流行っていくのは当然です。今の時代に流行っている歌もすごくいいですし、その歌が社会現象を生んでいますよね。Adoさんの『うっせぇわ』好きですよ」

“コブシ”と『うっせぇわ』の相性はぴったりのようだ。

 後編では、50歳で取得した運転免許証との別れ、突然、歩行困難となった「腰部脊柱管狭窄症」との闘い、78歳となった現在の生活を語っている。

(後編に続く)

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