Infoseek 楽天

続く日テレ『with MUSIC』の試行錯誤、「若手男女グループ」+”何か”でオリジナリティ出すのが最適解? 有働由美子&松下洸平のMCを生かすキャスティングもカギ

NEWSポストセブン 2024年8月17日 11時15分

 昨今、テレビ各局が力を入れているのが音楽番組だ。それぞれの番組が独自性を打ち出そうとしているが、この春スタートした日本テレビの『with MUSIC』は試行錯誤を続けている。その最適解とは? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

 * * *
 日本テレビのゴールデンタイムで放送される音楽番組は34年ぶりであり、視聴者の多い土曜20時台であることも含め、大きな期待を背負って今春にスタートした『with MUSIC』。

 音楽番組は2010年代にゴールデンタイム絶滅の危機にさらされるなど苦境にあえいでいましたが、地道に放送を続けてきた『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に加えて、『CDTV ライブ!ライブ!』(TBS系)が若年層の人気を集めたことで息を吹き返しました。

 同じ今春には『ミュージックジェネレーション』(フジテレビ系)もスタートするなど、ひさびさに民放主要4局がゴールデンタイムでそろい踏みする中、『with MUSIC』は春からの約5か月間、「最も試行錯誤を続けている音楽番組」と言っていいでしょう。

 同番組のコンセプトは「MC・有働由美子とアーティストナビゲーター・松下洸平が豪華アーティストのルーツに触れるトークや最新ヒット曲などで掘り下げていく」。福山雅治さん、宇多田ヒカルさん、稲葉浩志さんなどの大物を招いたり、長めのトークパートを入れたり入れなかったり、生放送パートを入れてライブ感を高めたり、2時間特番でスケール感を出したり、さまざまなテーマの映像特集を組んだりなど、良くも悪くも「まだ番組の構成が固まっていない」という感があります。

 これらの試行錯誤にはどんな背景や狙いがあるのか。他の音楽番組と比べながら現状と今後を探っていきます。

大物で結果が得られるわけではない

 日本テレビは民放主要4局の中でも、最もスポンサー収入につながりやすいコア層(13~49歳)の個人視聴率は断トツであり、それを得るためのマーケティングが徹底されています。

 つまり、日本テレビはコア層の個人視聴率を獲得するために「自局はもちろん他局の番組も参考にして制作している」ということ。特にゴールデンタイムの音楽番組はひさびさだけに、前述した番組コンセプトを掲げながらも、数字が獲れなければ他局を参考にして柔軟に変えていくのでしょう。

 その点、宇多田ヒカルさんなどの大物ゲストや長めのトークパートは、他局にはない『with MUSIC』のオリジナルですが、現状あまり数字は獲れていないようです。「誰もが知っている大物アーティストを出したからといって数字が獲れるわけではない」のが音楽番組の難しいところでしょう。

 そこで参考になるのが、ライブ演出や生放送にこだわって若年層の支持を得ている『CDTV ライブ!ライブ!』。メインゲストのファンを集めた熱気あふれるライブ空間を作り上げたり、サブスクやMVとは異なるハイテンションのパフォーマンスを引き出したりなどの工夫で視聴者を引きつけています。

 ただ、そのコンセプトで放送を続けてスタッフの演出が洗練され、アーティストとの信頼関係が強固な『CDTV ライブ!ライブ!』と比べると、『with MUSIC』はまだまだ発展途上。SNSの書き込みを見ても「この番組でしか見聴きできないもの」というまでの印象には至っていないのかもしれません。

 また、これまで5回行った“2時間特番”という編成も、今春から放送時間を倍増させた同番組と同じですが、「『with MUSIC』はできれば土曜20時台の1時間番組として成功させたい」という思惑もあり、日本テレビとしては悩ましいところでしょう。

映像特集でも視聴率は獲得できる

 次にさまざまなテーマの映像特集は『ミュージックステーション』の定番企画でしたが、以前から「もっと歌を聴きたい」「その分もう1曲歌ってもらえたはず」などと必ずしも好評ではなく、視聴率獲得という点でも疑問視されていました。

 ただ、同じ今春スタートの『ミュージックジェネレーション』は、アーティストがスタジオでパフォーマンスせず短い映像を集めた構成ながら、「難しい」と言われる平日19時台で安定した視聴率を獲得。「新旧のヒット曲を織り交ぜた映像特集ならコア層の個人視聴率が獲得できる」という裏付けができたことで、『with MUSIC』としてもこれを構成しやすくなりました。

 実際、前回3日の放送ではオープニングで「夏に聴きたいラブソング」と題して、「波乗りジョニー」桑田佳祐(2001年)、「揺れる想い」ZARD(1993年)、「高嶺の花子さん」back number(2013年)の映像を流し、さらにメインゲストのSnow Manが選んだ「ジェットコースター・ロマンス」KinKi Kids(1998年)、「ミュージック・アワー」ポルノグラフィティ(2000年)、「SUMMER SONG」YUI(2008年)、「LA・LA・LA LOVE SONG」久保田利伸withナオミ キャンベル(1996年)、「BANG!BANG!バカンス!」SMAP(2005年)なども放送されました。

 各年代のヒット曲を短い時間で次々に見せていくという構成は『ミュージックジェネレーション』と同様であり、「若年層だけでなく30代・40代も押さえておかなければコア層全体の個人視聴率が上がらない」という現実が透けて見えます。

若手アーティスト偏重の危うさ

 もう1つはっきりと試行錯誤の跡が見えるのが、出演アーティストの選択。

『ミュージックステーション』は各年代のアーティストをバランス良くそろえる王道のキャスティングを続けていましたが、長く視聴率が低迷したことで近年は若手アーティスト主体に変わりました。

『CDTV ライブ!ライブ!』はさらに若手アーティストに振り切ったキャスティングで若年層の個人視聴率を獲得。しかし、そこに振り切ることで30代・40代に対するリーチが弱くなるなどの問題があり、さらに『CDTV ライブ!ライブ!』『ミュージックステーション』に加えて後発の『with MUSIC』も若手アーティスト路線になると、競合過多による総崩れのリスクが高まります。

 そこで他の音楽番組にはない『with MUSIC』なりの最適解を探さなければいけないのですが、「ライブ演出にどれくらいこだわるか」「生放送のパートを入れるべきか」「トークの割合をどの程度にするか」「MCのテンションはどの程度にするか」などさまざまな点で手探り中という感があります。

 ただその中でも固まりつつあるのが、キャスティングのベース。このところK-POP系を含む男女の若手グループを軸に据え、そこに中堅・ベテランを加えるような形が採用されています。

 実際ここ1か月の放送を振り返ると、7月20日がINIとBOYNEXTDOORにゆずと工藤静香さん。同27日がMrs.GREEN APPLEとNiziUにHYとORANGE RANGE。8月3日がSnow Manとaespaに緑黄色社会が出演し、17日がBE:FIRSTとNewJeansにポルノグラフィティとflumpoolがキャスティングされています。

すでに2回出演した4組の共通点

 ちなみにK-POPグループはこれら以外でもLE SSERAFIM、ILLIT、TWS、Kep1er、BABYMONSTER、BOYNEXTDOORなどが出演しました。これは10代・20代に向けて「毎週K-POPが聴ける番組」という印象を付けたいのではないでしょうか。

 さらに「結果がよかったグループは短いスパンでオファーを出していく」こともベースの1つ。スタートから約5か月間でBE:FIRST、Number_i、NiziU、NewJeansは2回出演していますが、いずれもファンの熱狂度が高く、SNSの動きが活発なことで知られているアーティストです。その意味で近いうちにJO1、INI、ME:I、&TEAM、SixTONESなどの再出演もあるかもしれません。

 ただ、そもそもMCに現在55歳で報道番組の印象が強い有働由美子さん、アーティストナビゲーターに音楽活動こそしているものの俳優の印象が強い37歳の松下洸平さんを据えた以上、2人を生かすためには若手アーティストに偏り過ぎずバランスの良いキャスティングがベターでしょう。

 K-POPを含む若手アーティストをベースにしながら、いかに中堅・ベテランのアーティストを絡めて、10代・20代だけでなく30代・40代にもリーチしていくのか。ライブをベースにしながら、いかにトークや映像特集、あるいは別の企画を絡めてオリジナリティを感じさせられるか。

 日本テレビはマーケティングに長けているからこそ、他局を参考にするほど似ている番組になりやすいだけに、スタッフの力が試されています。まずはスタートから1年となる来春の改編に向けて秋冬の結果が重要なだけに、さらなる試行錯誤が見られるのではないでしょうか。

【プロフィール】
木村隆志(きむら・たかし)/コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

この記事の関連ニュース