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南海トラフ地震発生で高まる「富士山噴火」のリスク 噴石、溶岩流に加えて火山灰が引き起こすハイテク社会への大ダメージ

NEWSポストセブン 2024年8月20日 7時15分

 宮崎県日向灘を震源とするM7.1の地震をきっかけに、政府が史上初となる南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を発表、改めて震災への備えが意識されている。そして、南海トラフ地震発生後にさらなる脅威となるのが、「富士山噴火」のリスクだ。

 政府の地震調査研究推進本部が公表する南海トラフの「想定震源域」に含まれる宮崎県日向灘を震源とする地震(最大震度6弱)に続き、関東でも神奈川県西部地震(最大震度5弱)が発生。富士五湖周辺など山梨県内も震度4に見舞われた。

 京都大学名誉教授で地球科学者の鎌田浩毅氏はこう言う。

「南海トラフ地震は約100年に1度の頻度で起きており、前回は1946年の昭和南海地震(M8.0)です。今回の日向灘地震で再び、“南海トラフ地震の季節”に入ったと言えるでしょう。神奈川県西部の地震のほうは無関係と考えられますが、南海トラフ地震が発生すれば、富士山は噴火する可能性が非常に高い状態です」

 富士山の噴火については、2011年の東日本大震災をきっかけにリスクが高まってきたという。鎌田氏が続ける。

「東日本大震災の際、富士山の地下20kmにあるマグマ溜まりが揺すられ、その4日後に富士山の地下14kmで最大震度6強の地震が起こったことでマグマ溜まりの上部の岩盤にヒビが入りました。それによって富士山は噴火しやすい“スタンバイ状態”になった。マグマには5%ほどの水分が含まれており、地震によってマグマ溜まりが大きく揺すられたり、割れ目ができたりして内部の圧力が下がると、水分が水蒸気となって沸騰し、体積が1000倍ほど増える。その結果、マグマは外に出ようと上昇し、地表の火口から激しく噴火するわけです。

 前回の富士山噴火は1707年の宝永噴火で、その49日前には南海トラフが震源とされる宝永地震(推定M8.6)が起きており、それが引き金となるプロセスを踏んだと考えられている。南海トラフ地震の震源域は富士山に近いため、『次に大きな揺れが起きたら、もうマグマ溜まりは持ちこたえられないだろう』というのが多くの専門家の見方です。

 平安時代は50~100年に1回程度、富士山は噴火していましたが、今は300年ほど噴火していない。私の計算では300年分のマグマの体積は東京ドーム約240杯分にあたります。それが噴出すれば、被害は相当大きなものになるでしょう」

羽田も機能停止

 富士山が噴火した場合、被害は計り知れない。まず、噴火直後に襲ってくるのは「噴石」だ。

「噴火によって様々な大きさの岩の塊が放出され、上空から猛スピードで降ってきます。直径1m以上の大型の噴石が火口から2kmほどの範囲まで飛んでくる。噴石は屋根や壁を貫通し、建造物を破壊します。人間に当たれば死亡するケースもある。2014年9月に起きた御嶽山の噴火では60人近い登山客が犠牲になりましたが、多くの命を奪ったのは噴石でした」(鎌田氏)

 夏の時期、多くの登山家や観光客で賑わっているだけに、深刻な被害が懸念されるわけだ。

 噴石は静岡県、山梨県に留まるとされているが、高温のマグマが液体のまま地表に流れ出る「溶岩流」はより広範囲に及ぶ。

「富士山火山防災対策協議会」は、2021年3月、噴火時のハザードマップ(火山災害予想図)を2017年ぶりに改定。想定される溶岩の噴出量は約2倍に増えた。2004年版のハザードマップでは溶岩流の到達範囲は静岡県と山梨県だけだったが、2021年版では神奈川県の相模原市や小田原市まで到達するとしている。

「溶岩流は最短2時間15分で東名高速に到達するとされている。そうなれば東西を結ぶ日本の大動脈が分断されます」(同前)

 最も被害が広範囲に及ぶのは「火山灰」だ。

 図の通り、火山灰は千葉県や埼玉県まで到達し、富士山周辺地域では50cm以上、東京や横浜でも2~10cm降り積もる可能性があるという。

「上空には偏西風が吹いているので東へ飛んでいくのが普通ですが、夏は風向きが変化しやすいので、全方向に散るでしょう。火山灰というのは、いわば“ガラスの破片”です。吸い込むと器官や肺が傷つけられ、呼吸困難や肺気腫を起こすケースもある。目に入れば角膜が傷つけられます。

 現代のハイテクノロジー社会にも大敵です。細かな火山灰の粒子が電子機器やコンピューターに入り込んでしまうと正常に作動しなくなり、通信や金融など様々な産業に打撃を与えます。道路上に1cm積もるだけで車の運転も不可能になる。富士山の東には羽田空港などがあるので、火山灰の量次第では空路が利用できなくなる可能性もあります。そうしたリスクがあるということを頭に入れておかないと、有効な対策を講じることはできません」(同前)

 リスクは地震だけではないのだ。

※週刊ポスト2024年8月30日・9月6日号

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