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【独占インタビュー】マダックスで勝利のピース! 小松大谷・西川大智が語った「大阪桐蔭さんに助けられました」 番狂わせの秘訣は“幻惑投法”

NEWSポストセブン 2024年8月17日 7時15分

 春夏9度の全国制覇を誇るあの大阪桐蔭を完封する──それもたった92球という「マダックス(1試合を100球未満で完封すること)」で。そんな大仕事をやってのけ、第106回大会最大のジャイアントキリングを演じたヒーローが石川・小松大谷の西川大智だ。大阪桐蔭戦(8月14日)の翌日、練習後の西川にカメラを向けると、ニヤリと笑って彼のほうからこんな提案をしてきた。

「ピースしましょうか?」

 地元である石川の出身で、源義経と武蔵坊弁慶に縁ある「安宅(あたか)の関」近くで育った。なんとも素朴で、愛らしい球児だ。そんな西川が独占インタビューに応じてくれた。

「昨日の夜は知り合いからLINEの連絡がすごくて、インスタ(グラム)のフォローもすんごい数がきました(笑)」

 完封した経験は、野球人生で2度目だという。小学生の頃も、中学生の頃も完封の経験はなかったが、高校3年生となったこの夏、石川大会決勝の星稜戦と、甲子園の大阪桐蔭戦で達成した。いずれも圧倒的に優勝候補と目されていた相手だ。

「疲れはまったくないですね。92球で完投したことも人生初です。(マダックスを)練習試合では狙ったことがあるんですけど、その時は狙いすぎて打たれました(笑)。昨日は大阪桐蔭さんに助けられました」

 相手打線に助けられた──その真意を聞くとこう語った。

「僕はインコースに投げ込むボールをいかに速く見せるかにこだわっているんですけど、大阪桐蔭の打者はインコースに厳しい球を投げても、当たりにはこないで、避けてくれる。自分としては死球になって走者を背負うほうが嫌です。そういう意味で、助けられました」

 打力に自信を持つ桐蔭の打者は、無理に死球をもらうよりも、投じられたストライクボールをきっちり打ち返そうとする姿勢を貫いているように西川には見えた。それを逆手にとって、少ない球数で桐蔭打線を仕留めていった。

最速138キロ、変化球2種類ながら抑えられた理由

 西川の直球の最速は138キロだ。変化球はスライダーとチェンジアップの2種類しかない。計3種のボールをクイックで投げたり、セットに入ってからしばらく動かず、ゆったりとしたフォームで投げてみたり。幻惑投法で大阪桐蔭の強力打線を封じた。

「打者の顔つきや踏み込み具合の反応を見ながら、すべて思いつきでやっていることです。たとえば、相手が打ち急いでいるようなら長く持ったり、クイックで投げる時にあえてチェンジアップを投げてみたり。打者心理として、クイックで投げる時はストレートだと思うことが多いんで、そこにあえてチェンジアップを投げるんです。同じ球速のボールでもインコースとアウトコースでは打者の体感速度が違いますよね。そういう緩急も使いながら投げました」

 相手の裏をかきながら、時に裏の裏をかいて困惑を誘うのだ。桐蔭には4番を打つ徳丸快晴などミート力も足もある好打者が揃い、代打には一発のある右の大砲であるラマル・ギービン・ラタナヤケが控えていた。

「徳丸に関しては、3回にストレートを強くミートされて(結果はライトライナー)、“これはストレートを待っているな”というのがわかった。だから変化球でカウントを整えて、最後はストライクゾーンからボール一個分ぐらい外れたストレートで勝負したりしてました。(2対0の7回裏に代打で登場した)ラマルは、もう長打しか狙っていなかったと思うので、真ん中から外のボールを投げて、バットの先に当ててくれたら十分と割り切っていました。大きな打球がレフトに飛んで大きな歓声が起きましたけど、僕は絶対にフェンスに届かないと確信していました」

 年間20試合以上は大阪桐蔭の試合に足を運ぶ筆者もあれほど簡単に打たされてアウトになっていく大阪桐蔭は見たことがない。

「後半に入って、さすがに僕自身もこのままでは終わらないだろうって思っていました」

 それは球場にいたすべての人が思っていたことだろう。

「ハハハハ、そうですね。前半はストレートとスライダーを中心に組み立てられたことで、後半に入ってチェンジアップが有効的に使えたと思います。集中が途切れることなく、最後まで投げ切れたと思います」

「野球って楽しいな」

 歴代最多勝となる70勝を聖地であげている西谷浩一監督にとって、夏の完封負けは初めてであり、92球という極めて少ない球数で9イニングを抑えられた経験も「記憶にない」(西谷監督)という。「打たせて捕る」。そのお手本のような投球を西川は9イニング貫いた。

「野球って楽しいな、って改めて思いましたし、ピッチャーというポジションが一番面白いと思います」

 8月17日の3回戦では奈良・智弁学園と対戦する。智弁打線も「大阪桐蔭を零封した技巧派投手」の印象を強くもって臨むだろう。要するに、名もなき投手だと舐めてはくれまい。

「対策はされるでしょうから、智弁さんの想像を上回るような投球術を今考えています」

 智弁学園戦では、西川のまた新たな幻惑投法が見られるかもしれない。

■取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)

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