Infoseek 楽天

【レジェンドOBのプロ野球改革案】350勝・米田哲也氏「中継ぎや抑えなど不要。高い給料もらって1イニングだけ投げる投手がいる継投策は止めるべき」

NEWSポストセブン 2024年8月22日 16時15分

 長い歴史のなかで、日本のプロ野球のあり方は大きく変わった。そうしたなか、令和の球界をプロ野球のレジェンドたちはどう見ているのか。本誌・週刊ポストの名物企画「言わずに死ねるか!」球界編では、その計り知れないスタミナから現役時代に「ガソリンタンク」と呼ばれた元阪急・米田哲也氏(86)に話を聞いた。故・金田正一氏(元国鉄、巨人)に次ぐ歴代2位となる通算350勝をあげた鉄腕は、自身の経験をもとに、投手の“分業制”が球界の常識となっていることについて疑義を呈した。【全5回の第4回。第1回から読む】

 * * *
 先発を任されたら完投を目指す。その能力がなければ先発ローテに組み入れちゃダメだね。今の選手は、まず文句から始まる。昔は肩が壊れたら辞めてやるというくらいの覚悟を持っていました。今は球団が選手を甘やかし過ぎで、過保護に育てているから、そんな覚悟のある選手はいないんでしょうね。

 監督やコーチは故障した時の責任を負いたくないから中6日にして、分業制にしている。でもね、先発能力があれば誰でも150球ぐらい投げられますよ。投げさせないなから完投能力がつかなくなる。

 そもそも、中6日で故障する投手がいることに驚いている。原因はひとつ。投げ込み不足です。キャンプのブルペンで1日に150球投げる投手がいませんからね。ブルペンで100球も投げずに完投しようというほうが無理。試合で1イニング15球を投げて、それが9回で135球ですからね。シーズン中に完投できそうな場面になっても、球数を投げていないから135球が未知の世界になる。これでは話にならない。

キャンプでは1日350球投げた

 球数を投げることで初めてコントロールがつくんです。ボクはキャンプでは1日350球を3回ぐらい投げました。1時間半はかかるので、キャッチャーが大変。そのため専属のブルペンキャッチャーを置いていたほどでした。ただ、投げるほど体のキレがよくなります。300球超を投げることで、体のバランスができてくる。たとえば上半身と下半身のバランスがよくないとうまく投げられない。球数を投げることで、理想的な投げ方も体感できるわけです。

 昔は先輩が球数を投げるから、若い者も投げざるを得なかった。ボクや山田(久志)の投球を見ていた佐藤義則が“先輩が投げるから”といって付き合っていたが、そういう選手ほど長く現役を続けられた。

 プロ野球で自分の限界を見極めるぐらいの投げ込みをやれば、中継ぎや抑えなど不要。先発完投できます。高い給料もらって1イニングだけ投げるようなピッチャーがいる継投策は止めるべき。

 ボクの949試合登板はカネさん(金田氏)を抜いた数少ない日本記録ですが、中日の岩瀬仁紀の1002試合に抜かれてしまった。でも、ボクが5130イニングに対し、ストッパーの岩瀬は985イニング。同等に扱われたくないとい気持ちが強い。それぐらい先発完投に誇りを持っています。

投げる前はサウナに入っていた

 そもそも、今の先発投手は同点で交代を告げられても喜んでベンチに帰っていくが、同点で降板するピッチャーの気持ちが分からない。勝ち星より防御率を気にする選手がいるが、何のために投げているのか。防御率が悪くても勝てばいいでしょう。よくても負けたら意味がない。勝ち星を挙げるために投げているということがわかっていない。

 分業制を最初にやったのが中日の近藤貞雄さんだった。コーチ時代に先発と抑えの分業制を提案し、リリーフエースを作った。監督時代にはスタメンと後半でメンバーを入れ替えるアメフト制を導入した。アイデアマンとしてマスコミが持て囃したが、カネさんは“諸悪の根源”と怒っていた。

 ボクに言わせれば中6日で投げているのは邪道。夏場に完投すると1.5キロは痩せます。体調がいいと翌日には体重は戻ります。(調子が)悪いと1キロぐらいしか回復しない。ボクは22年間、39歳まで投げ続けましたが、キャリア終盤は登板前にサウナに入ることにしていました。本来は投げる前にランニングで目一杯汗をかかないとダメなんですが、年をとると汗をかきにくくなるので、サウナに入っていた。

勝ち試合は人に任せない

 阪急時代に藤本定義監督の下でやったことがあるが、口を出されることなく任せてもらっていた。“今日、何点や”と聞かれ、“2点ください”と言えば、2点を失うまでは何も言われなかった。それで2点を取られると、“どうする?”と聞かれ、“相手も悪いからもう少し行かせてください”と言って投げさせてもらっていた。それで完投能力をつけた。

 簡単にマウンドを譲って、中継ぎが逆転される。そうなったら責任は重いし、何より中継ぎに責任を押し付けないためにも先発完投を目指すべきだと思うね。ペース配分をするのではなく、先頭打者を絶対に出さないという考え方をする。それで0に抑えるイニングを1つずつ伸ばすという考えだった。

 シーズンの目標は20勝だったが、2桁勝利だけは続けたいと思ってマウンドに上がったもんです。20勝するには200イニング以上を目指さないといけない。勝ち試合は人に任せない。ボクは1イニング専門のストッパーも不要だと思っている。逆転負けした時は先発の恨みより、任されたピッチャーのつらさのほうが大きい。ストッパー役の投手にそんな思いをさせないためにも、最後まで投げる。

 昔は先発完投型だけがピッチャーとして扱われていた。分業制は不要だと思う。そういう時代が再びやってこないかと思っている。先発完投を多く揃えたそろえたチームは強いですよ。それだけ体力があるピッチャーがいるということだからね。

(第5回へ続く。第1回から読む)

【プロフィール】
米田哲也(よねだ・てつや)/1938年、鳥取県生まれ。現役時代のニックネームは「ガソリンタンク」。計り知れないスタミナの持ち主だった。18歳でのデビュー以来、15シーズン連続で200イニングに登板。2年目からは13シーズン連続250イニング以上で、300イニング以上は6シーズンを数えた。プロ22年間で944試合に登板し、通算投球回数5130イニング。完投は262試合(歴代8位)で、通算勝利350勝は金田正一氏の400勝に次ぐ2位だが、19年連続2桁勝利は日本記録となっている。

※週刊ポスト2024年8月30日・9月6日号

この記事の関連ニュース