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江本孟紀氏が“高校野球の7回制導入議論”に私見「アホですよ。それじゃ野球にならへん。野球は9回。それが野球の一丁目一番地なんです」

NEWSポストセブン 2024年8月23日 11時15分

 プロ野球のレジェンドたちが登場する本誌・週刊ポストの名物企画「言わずに死ねるか!」球界編。辛口評論で知られる江本孟紀氏(77)は、話題の「7回制導入」に物申す。現役時代に南海でエースを張り、阪神移籍後に「ベンチがアホやから野球ができへん」の“暴言”の責任を取って引退したが、今もその舌鋒は鋭い。高校野球の「暑さ対策」の話題は、江本氏の目にはどう映るのだろうか。【全5回の第5回。第1回から読む】

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 猛暑対策として、高校野球で「7回制導入」の議論が始まったという。選手の健康面を考慮して、試合時間を短縮するのが狙いだという。もちろん、選手の健康面に配慮して、何か対策を検討することにイチャモンをつけるつもりはない。だけど、9回を戦うという野球の本質・根幹を変えようというのはあまりにも拙速。チンケなことを考える高野連には、ちょっとええ加減にせいよと言いたいね。

 そりゃダメでしょう。野球は9回でしょう。暑いからとゴルフを16ホールでやりますか。我々年寄りが“14ホールでいいかな”と思っても、18ホールやらないとホールアウトしたことにならない。暑いからといってマラソンを30キロでやりますか。そんなことを言い出すのは野球だけですよ。

 野球は9回を9人で打って守るスポーツ。暑さ対策なら、他にもいくらでもある。たとえば、ベンチ入りを大幅に増したっていい。昨年、20年ぶりに18人から20人に増員したが、倍の40人ぐらいにしたらどうか。ベンチ入りできなかった選手が炎天下のアルプススタンドで汗だくになって応援しているんだから、ベンチ枠を増やしてやればいい。選手の出場チャンスは広がるし、2イニングずつ出ればレギュラーの負担も軽減される。

高校球児の声を無視してはいけない

 全国の高校球児にアンケートを取って、“7回がいいです”“私たちしんどいです”という声が圧倒的なら7回制にすればいいですよ。でも、高校球児は炎天下の甲子園で野球をするためにガキの頃から練習している。それを無視するようなことを言っちゃダメですよ。先日もある高校球児と話をしたら“みんな9回やりたい。そのつもりで練習しています”と言っていた。子供たちのやる気をどうすれば活かせるかを考えてもらいたい。

 そもそも、ノーヒットの試合だと9人のバッターのうち6人は、試合終了までに3回打席に立てない可能性がある。そんなおかしなルールを教育現場でやっていいのかと言いたいね。特に高校野球は地方大会で負けたら終わり。新幹線や飛行機でやってきた甲子園に出場しても1回戦で負ければ終わり。そんな大事な試合を9回ではなく7回にしたらどうかと議論することが馬鹿げている。

 要するに、あまりにも大衆迎合主義なんですよ。世の中の風潮にすぐ惑わされるというか、子供の意思を無視し、伝統ある野球のルールを勝手に変えてはアカンでしょう。これまでの甲子園で生まれた数々の記録を塗り替えることができなくなる。

大阪ドーム開催でも、秋開催でもいいじゃないか

 あと腹立たしいのは、“昔はこんなに暑くなかった”ということを言うヤツがいること。我々の高校時代も暑かったです。当たり前でしょう。確かに気温は上がっているかもしれませんが、それに対応すればいいじゃないですか。昔は水を飲まなかったけどバテることは少なかったという経験がある。今と何が違ったのか。そういうことを考えずに、テレビでは医者でもなく野球経験もない人がとにかく水分補給をしろとばかり言っている。アホですよ。

 暑さが問題なら大阪ドームでやればいいし、どうしても甲子園球場でやりたいなら、春と夏の年2回開催をやめて、気候のよい10月に1回だけやればいい。ナイターだけにしてもいい。

 4年後のロス五輪で野球が復活し、IOCは7回制にするのではないかという情報もある。中継を2時間以内に収めたいという意向のようだ。まさか天国のようなドーム球場でやっているプロ野球が7回制と言い出さないでしょうが、もしNPBや選手会がそんな風潮に惑わされることになれば、おまえらどれぐらい高いカネをもらっとんねんといいたいですね。野球は9回。それが野球の一丁目一番地なんです。

(了。第1回から読む)

【プロフィール】
江本孟紀(えもと・たけのり)/1947年、高知県生まれ。1970年ドラフト外で東映に入団。1972年に南海に移籍し、野村克也氏とのバッテリーでエースとなった。1976年に阪神に移籍し、1981年に「ベンチがアホやから」の暴言の責任を取って引退。引退後は参議院議員、タレントとマルチに活躍し、辛口野球評論家として知られている。

※週刊ポスト2024年8月30日・9月6日号

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