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【パリ2024パラ五輪】増田明美・日本パラ陸連会長が熱烈解説「パリで輝くのはこのアスリート!」

NEWSポストセブン 2024年8月26日 7時15分

 45個のメダルを獲得したパリ五輪に続き、8月28日に開幕するパラリンピックでも、メダル獲得が期待される日本人アスリートは多い。パラ五輪での注目アスリートと、彼ら/彼女らの活躍を見届けるうえで知っておきたいパラリンピックの歴史を、日本パラ陸上競技連盟会長の増田明美さんが語った。『パラリンピックと日本人』(小学館新書)の著者でノンフィクションライターの稲泉連氏がレポートする。

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「失ったものを数えるな、残されたものを最大限生かせ」

 パラリンピックの創始者であるイギリスの医師、ルートヴィヒ・グットマンは、脊髄損傷で車いすを使うようになった患者に、そんな言葉を投げかけてスポーツを勧めた。

 増田さんは、グットマンのこの言葉に強く心を惹かれてきた、と話す。

「様々な競技を通して記録に挑むパラアスリートの姿を見ていると、彼らの身体表現にいつも魅了されます。選手たちはグットマンの言葉通り、失ったものを数えていない。今あるものを最大限生かす様子に、私も力をもらい続けてきました」

「パラアスリート」の存在に注目が集まった大きなきっかけに、2012年にロンドンで開催されたパラリンピックがあった。同大会では義足などの装具を使う選手たちを、公共放送の「Channel4」が「スーパーヒューマン」と名づけ、大々的なプロモーションを行なった。チケットも連日完売し、パラスポーツの世界観を示す一つの転換点だったとされる。その後、2016年のリオ大会、2021年の東京大会を経て、「日本でもパラリンピックのスター選手が増えてきた」と増田さんは言う。

「例えば、競泳の視覚障害のクラスで連覇に挑む木村敬一選手は、スピーチも抜群に上手な選手団におけるムードメーカー。陸上競技でもマラソンのT12クラスで世界記録を持つ道下美里選手、上肢欠損のT47クラスの辻沙絵選手など、華のある選手が大勢いるんです」

オリ・パラ選手が合同練習

 近年、パラスポーツの競技のレベルは一段と向上しており、イギリスではオリンピック・パラリンピックの陸上選手が、事前に合宿トレーニングを行なっているという。

「日本でも100メートルで9秒95の日本記録を持つ山縣亮太選手が、義足のパラアスリートである高桑早生選手と一緒に練習し、同じコーチから指導を受けています。山縣選手は怪我でパリのオリンピックに出場できませんでしたが、健常者と障害者のアスリートがお互いに学び合い、互いに刺激を受けながら記録を伸ばすことも起こってきているんですね」

 また、パリ大会では各競技の世代交代にも注目したい。車いすテニスの小田凱人選手には国枝慎吾さんに続く活躍が期待されている。今年5月に神戸で行なわれた世界パラ選手権で銀メダルを獲得した福永凌太選手や石山大輝選手などにも増田さんは注目している。

「二人が活躍した神戸での世界選手権では、走り幅跳びで8メートル72センチという世界記録を持つ義足のジャンパー、マルクス・レーム選手が、大会後にこう言っていました。『皆さん、人と違うことに自信と喜びを感じてください』と。グットマンの言葉と共鳴するこのメッセージは、パラリンピックの持つ大きな意義を感じさせるものでしょう」

注目のパリ2024パラ五輪代表選手たち

 メダルの獲得が期待されるパラ五輪日本代表や、世界トップクラスのパラアスリートを紹介しよう。

【「クラス分け」を知る】
 各競技での選手の公平性のため、パラリンピックでは障害に応じたクラス分けが行なわれる。アルファベットは競技種目の頭文字(例えば、陸上の「T」はトラック種目)、後に続く数字のうち、十の位は障害の種類(10番台は視覚障害、60番台は義足の利用など)、一の位は障害の程度を表す。数字が小さいほど障害は重い。

●小田凱人 車いすテニス
 9歳の時に骨肉腫を発症し、昨年引退した国枝慎吾さんに憧れて車いすテニスを始める。2023年、弱冠17歳で全仏オープンに史上最年少で優勝。ウィンブルドン選手権、全豪オープンとすでに四大大会で3勝をあげている。

●佐藤友祈 陸上400m・1500m(T52)
 東京大会では400mと1500mで金メダルを獲得。21歳の時に脊髄炎によって車いすに。2012年のロンドン大会を見て車いす陸上を始めた。2021年にプロ転向。

●辻沙絵 陸上400m(T47)
 生まれつき右肘から下がない上肢欠損で、小学生の時に始めたハンドボールでは高校時代に全国大会に出場。リオ大会では400mで銅メダル、昨年の世界パラ選手権では男女4人混合400mユニバーサルリレーで金メダル。

●福永凌太 陸上400m、走り幅跳び(T13)
 日本体育大学に所属する25歳。難病の錐体ジストロフィーで小学生の頃に視力が弱くなり、両親の勧めで陸上を始めた。視覚障害クラスの400mの日本記録保持者。「大変な素質を感じる選手」と増田さん。

●木村敬一 水泳(S11、SB11、SM11)
 東京大会では100m平泳ぎで銀メダル、100mバタフライで金メダルを獲得した全盲のスイマー。オリンピックのメダリスト・星奈津美さんから指導を受けた。「日本選手団のムードメーカー」(増田さん)。

●石山大輝 走り幅跳び(T12)
 高校1年生の時に先天性の網膜色素変性症と診断。もとは三段跳びの選手だったが、大学時代にパラ陸上走り幅跳びに転向。今年5月の世界選手権では日本記録を更新して銀メダルを獲得。24歳の若手のホープ。

●道下美里 マラソン(T12)
 2016年のリオ大会で銀メダル、東京大会では金メダルを獲得したマラソンの視覚障害クラスの女王。2020年の別府大分毎日マラソンでは、2時間54分22秒の世界記録で優勝。「みっちゃん」の愛称で呼ばれる。

●高桑早生 陸上走り幅跳び(T64)
 パラリンピックへの出場はロンドン大会から4大会連続。13歳の時に骨肉腫が原因で左足を失う。走り幅跳びでは2015年の世界選手権で銅メダルを獲得している。

●上地結衣 車いすテニス
 先天性の潜在性二分脊椎症で11歳から車いすテニスを始める。リオ大会では女子シングルスで日本人初となる銅メダルを獲得。2014年にダブルスで年間グランドスラムを最年少で達成。

●杉浦佳子 自転車(WC3)
 日本選手の金メダル最年長記録を持つ53歳。45歳の時に自転車レースで転倒し、高次脳機能障害と右半身のまひが残る。リハビリのために乗り始めた自転車で回復を見せ、東京大会で2つの金メダルを獲得。

●池崎大輔 車いすラグビー
 東京大会では銅メダルを獲得した車いすラグビー。日本代表のエースである池崎選手にとって、パリ大会は4度目のパラリンピックとなる。スピードに溢れたチェアワークに定評があり、金メダルに期待がかかる。

●廣瀬隆喜 ボッチャ(BC2)
 パラリンピックでは2016年のリオ大会でTeam BC1-2の銀メダル、東京大会では銅メダルを獲得。先天性の脳性まひの障害がある。ボールを弾き飛ばす「パワーボール」を武器にパリ大会でのメダルを狙う。

●マルクス・レーム 陸上走り幅跳び(T64)
 走り幅跳びで8メートル72の世界記録を持つドイツの最強ジャンパー。健常者の世界記録である8メートル95に迫るジャンプは常に注目され、パラアスリートの可能性を示し続けている。

●マルセル・フグ 陸上800m、マラソンなど(T54)
 スイスの英雄。10歳から車いすでのレースを始め、2004年のアテネ大会への出場以来、パラリンピックではロンドン大会で2つの銀メダル、リオ大会で2つの金メダルと銀メダル、東京大会では4つの金メダルを獲得した。

【プロフィール】
増田明美(ますだ・あけみ)/1964年、千葉県生まれ。1984年のロス五輪に女子マラソン代表で出場。現在、日本パラ陸上競技連盟会長も務める。

取材・文/稲泉連(いないずみ・れん)
1979年、東京都生まれ。2005年、『ぼくもいくさに征くのだけれど-竹内浩三の詩と死-』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。主な著書に『復興の書店』『豊田章男が愛したテストドライバー』『日本人宇宙飛行士』『サーカスの子』など。1964年の東京パラリンピックについて取材した『パラリンピックと日本人 アナザー1964』が好評発売中。

※週刊ポスト2024年8月30日・9月6日号

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