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《和食の鉄人》93歳になった道場六三郎氏、現在も自らの店の厨房に立ちYouTube活動も 「料理からは一生離れられないでしょうね」

NEWSポストセブン 2024年8月29日 7時15分

 真っ白なコックコート姿の道場六三郎氏が調理場に入ると、一気に緊張感がみなぎる。93歳の今もなお現役料理人として活躍する“和食の神様”は、弟子たちに次々と指示を繰り出していく。現在も月に数回、店に立ち、毎月の献立を考える道場氏だが、後進の指導にも熱が入る。

「僕は10代から調理場では『きれいに早く』と念じながら仕事をしてきました。料理の現場には時間の無駄、火力の無駄、水の無駄が結構あります。若い衆には、僕の信条『きれいに早く、無駄なく』をいつも伝えています」(道場氏、以下同)

 1993年に放送を開始した人気テレビ番組『料理の鉄人』(フジテレビ系)で初代「和の鉄人」として一世を風靡。当時すでに60代だったが、新しいことに果敢に挑んだ。「日本料理界の異端児」の異名を轟かせた、伝統にとらわれない自由な発想とチャレンジ精神は今も健在だ。料理だけでなく、道具にも縛りを設けず柔軟に活用する。

「高圧釜(圧力鍋)をよく使うので、自分を『高圧男・道場六三郎』と呼んでいます(笑)。今まで以上に美味しく炊けるものが多く、時間や水の無駄も省ける。電子レンジもピーラーも、僕は使えるものは何でも使う。人件費がネックになっている飲食店は多いですが、人数の少ない調理場では便利な道具を活用し、今より多くの仕事ができればいいと思うんです」

90歳を迎える目前に、YouTubeチャンネルを開設

 道場氏は2020年12月、90歳を迎える目前に、YouTubeチャンネル『鉄人の台所』を開設した。

「『料理の鉄人』のディレクターをしていた田中経一さんから、ご家庭の皆さんに向けてYouTubeをやりませんかと提案されたんです。僕はそれまでYouTubeがどんなものか知らなかった。言われるがままにやってみたんですけど、若い子たちが『YouTube見ました』と僕の店に来てくれるようになったりと、ありがたいですね。家庭で作れるものが中心で、ほとんど思い付きの料理ですが、『面白いよ』と評判がいいようです」

 2024年8月時点で、登録者数は19万9000人、動画数は126本に上る。人気1位の「極上おにぎりの作り方」回の再生数は109万回に達した。動画の企画・撮影・編集を担当する田中経一氏は、こう評する。

「道場先生は新しいことしかやらない。新作を考えるにしても切れ味がすごい。茶碗蒸しの時は出汁と卵の部分には具が一切入らず、その上にガスパチョをのせて、冷製茶碗蒸しが誕生しました」

 撮影は2か月に1回程度、約5本まとめて行なう。半日ほど調理場で立ちっぱなしで撮影に臨む。

「僕の料理は『遊びと反逆』。新しい料理を考えるのが楽しくて仕方ありません。家庭料理の動画を始めてから、いい発見がたくさんあります。『交わりは進化なり』という言葉がありますが、大根おろしとマヨネーズを合わせた『マヨおろし』の美味しさは大発見でしたね」(道場氏、以下同)

「料理からは一生離れられないでしょうね」

 道場氏の健康の秘訣は、毎日の散歩と週2回のゴルフという。

「ゴルフで約9000歩、ゴルフに行かない日は2000歩~4000歩ほど歩きます。ただ、7月にゴルフ場で熱中症になり、今はゴルフを休んでいます。9月に涼しくなったら再開したいですね」

 熱中症の時も寝ながら考えていたのは、料理のことばかりだったという。

「料理からは一生離れられないでしょうね。アイデアも次々と生まれてきます。昨日よりも今日、今日よりも明日と、1つでも多く新しいものを作っていきたいです」

 そして充実した毎日が送れることに「日々感謝している」と噛みしめながら語った。

「街中を歩く時も実は幸せがいっぱい転がっています。僕はそれに気が付いた時、ありがとうと心で手を合わせます。たとえば『まだ自分の足で歩けることにありがとう』というように、1日10回以上、心の中でありがとうと言っています」

【プロフィール】
道場六三郎(みちば・ろくさぶろう)/1931年1月、石川県生まれ。銀座「くろかべ」、神戸「六甲花壇」、金沢「白雲楼」、赤坂「赤坂常盤家」で修業を重ね、1971年に「銀座ろくさん亭」を開店。2005年、厚生労働省の卓越技能賞「現代の名工」を受賞。2007年、旭日小綬章を受章。2020年12月、YouTubeチャンネル『鉄人の台所』を開始。

取材・文/上田千春

※週刊ポスト2024年8月30日・9月6日号

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