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《都内私立中学で自慰行為強要いじめ》被害生徒の癒えない“別室指導”の心の傷「涙が止まらずPTSDと診断」母親が見つけた遺書

NEWSポストセブン 2024年9月2日 11時14分

 東京・中野坂上にある私立学校「宝仙学園 順天堂大学系属理数インター中学校」(旧名「宝仙学園中学校 共学部理数インター」)に2021年4月~2023年3月に通っていたAくんは、複数の男子生徒からいじめを受けたという。中学3年生のときの修学旅行では自慰行為を強要されただけでなく、その様子を撮影した動画を校内で拡散された。【前後編の後編。前編を読む】

 教師陣も動画について把握するに至ったが、かねてより母親がAくんがいじめにあっている可能性について担任と共有していたにもかかわらず、Aくんが問題児と見なされる事態となってしまった。学校の管理職も含めた協議の結果11月下旬から始まった別室指導が、Aくんの精神を本格的に追い詰めていったという。

 Aくん自身が、地獄の日々を振り返る。

「ほかの生徒たちとは異なる登下校の時間を指示され、僕だけ別室指導を受けることになりました。先生たちに入れ代わり立ち代わり『なぜあんなことをしたんだ?』と問いただされ、反省文を書かされました。いじめ加害者たちが“Aは学校のトイレでも自慰行為をしている”と嘘をついたらしく、その噂についても聞かれました。僕は否定しましたが、先生には『火のないところに煙は立たない』と言われて、すごくショックでした。

 普段の教室には立ち入り禁止になっていたせいで存在を忘れられてしまい、卒業アルバムの撮影にも参加できませんでした。トラブルを起こした責任として、ほかの生徒と連絡を取ることも禁止されていたので、仲の良い友達から個別にLINEが来ても『本当のことを言えない。ごめん』と返していました。友達とコミュニケーションを取る機会がないのと、事情聴取のようなことばかりで勉強が遅れるんじゃないかと不安で、どんどんストレスが溜まっていきました」(Aくん)

 事態を少しでも好転させようと東京都生活文化局・私学部私学行政課をはじめとした各機関に親子で働きかけたが、芳しい結果は得られなかった。そんな日々が続き、孤独感を募らせたAくんは明らかに様子がおかしくなっていった。自宅で血が出るほど頭をかきむしることもあり、不安になった母親はAくんのスマホをチェックした。すると、遺書のようなメッセージが見つかった。

〈俺は母の元に生まれて家族3人と1匹に囲まれて幸せな14年間を過ごすことができて良かったです。今までの14年間育ててくれてありがとう 最後まで愛してくれてありがとう。じゃあね〉

 Aくんの母親は、声を震わせて訴える。

「あと一歩見つかるのが遅かったらと思うと……。自殺まで追い込まれるようなことを息子はしたんでしょうか? 私たちは家族全員が死を考えるほどの苦悩を味わいました。

 都で私学行政課というものが設けられてはいますが、公立学校に比べると、私立学校で起きたトラブルを相談できる公的機関が少ない印象です。この仕組みにも大きな問題を感じています」(Aくんの母)

 親子が限界を迎えつつあった2023年1月7日、学校に呼ばれたAくんの父親は“これ以上の指導・支援は難しいので外部進学をしてほしい”との旨を言い渡された。「宝仙学園 順天堂大学系属理数インター中学校」のほとんどの生徒がエスカレーター式で高校に進学し、Aくんも中3の夏に内部進学のための書類を提出していた。しかし、学校説明会などがとっくに終わった時期にいきなりイチから高校受験をするはめになってしまった。

 かねてより学校側はAくんが何か問題を抱えていると見なしており、外部進学を勧める名目も“治療に専念できる環境で社会性を身につけてほしい”というものだった。しかし、病院で発達障害などの検査を受けたところ、特にAくんに問題は見つからず、一家は最後まで困惑するばかりだった。

 中学を卒業したタイミングでAくん一家は動画を撮影・拡散された件について警察に被害届を提出し、動画を撮影した生徒1人が書類送検された。しかし問題の動画は既にスマホから削除していたようで、嫌疑不十分で不起訴になったという。ただ、ほかの加害生徒からは〈ひろめてごめん〉とLINEで謝罪があった。

 いじめの加害生徒たちは「宝仙学園 順天堂大学系属理数インター高等学校」へと進学し、Aくんが去った学び舎で今も過ごしている。Aくんは苦しい胸の内を吐露する。

「トラブルを起こした連帯責任として、僕も加害者もみんな内部進学できないというなら、まだ納得いったんです。でも実際は、“臭いものにフタ”のように僕だけが排除されました。

 スマホをめぐる嫌がらせやいじめが問題になっているのをニュースなどでよく見かけます。僕のような被害を受ける人、僕のような苦しみを味わう人を少しでも減らしたい。そのために思い切って声を上げることにしました」

 現在通う高校では教師や友人に恵まれ、部活動にも打ち込み、充実した日々を送っているというAくん。しかし、彼の心の傷は完全には癒えていない。かつて通っていた学校を離れた今でもふとしたときに別室指導や修学旅行での出来事、日々受けていたいじめの恐怖がよみがえり、1時間以上も涙が止まらないことがある。2023年11月、Aくんには心的外傷後ストレス傷害(PTSD)の診断が下った。

 そして2024年5月、Aくん一家のもとに1通の封書が届いた。差出人は、「宝仙学園中学校・高等学校」。校長の署名のもと、“2023年12月下旬頃、Aくんの修学旅行中の行為が撮影された件及び撮影内容が一部生徒に送信された件について、東京都私学部からいじめ防止対策推進法の重大事項に当たるとして報告を求められ、その報告を行った”と伝えられた。具体的にどのような報告をしたのかは説明されておらず、「ご不明な点等ございましたら、直接、面談してご説明いたしますので、ご遠慮なくご連絡頂ければと存じます」としている。

 ただ、Aくん一家に学校関係者と直接やり取りする気力はもう残っていなかった。6月中旬、今度は東京都私学部に提出したという調査結果報告書が学校側から届いた。Aくんの母が語る。

「2023年12月、息子は一連のトラブルについて東京都生活文化局・私学部私学行政課に再度連絡しており、それを受けて、私学部が学校に働きかけたようです。第三者に開示しないように学校側に言われているので、詳細は明かせませんが、“東京都私学部から指摘を受けて、再検討した結果、いじめの疑いがある重大事態として同私学部に報告するに至った。当学園として認識が甘かった”というような内容ではありました。

 ただ、“再検討した結果”といいますが、その中で息子本人に一度も聞き取りがなかったことが引っかかっています。また、生徒間のやり取りには触れていても、息子(A)を一番追い詰めた別室指導については記載がなく、誠意を感じられません」(Aくんの母)

 加害生徒ではなく被害生徒のAくんだけが外部進学することになった背景。どういった経緯で別室指導が行われたのか、どのように再発防止に向けた取り組みをしていくのか。一連のトラブルについて、「宝仙学園 順天堂大学系属理数インター中学校」に問い合わせると、以下のように回答があった。

「まず、本件質問状の【質問】に記載された各事項につきましては、Aくんをはじめ当学園の生徒の個人情報に係る内容であるため、回答を差し控えます。

 本件質問状の【質問】において前提とされている内容は、当学園が把握、認識している事実とは異なるもの、或いは、そもそも、当学園が認識、把握していないものが含まれますが、当学園は、修学旅行における動画の撮影及び送信行為につき、然るべき調査を行い、警察からの要請にも全面的に協力したうえ、いじめ防止対策推進法第31条第1項に基づき、東京都私学部に対し、動画の送信行為につき、重大事態が発生した旨等を報告しました。

 なお、上記のとおり、個人情報に係る事項であるため、当学園から、貴殿に対し、その報告内容の詳細を明らかにすることは差し控えます」

 Aくん一家に対しては、「ご意向を踏まえ、誠意をもって対応していく所存です」とのこと。また、再発防止策については、「教員への研修及び生徒に対するSNSの利用についての啓発等の支援指導等を実施しており、今後も一層務めて参ります」とした。

 Aくんは現在も通院を続けている。事態が納得のいく解決を迎え、彼が心の底からの笑顔を取り戻す日が来ることを祈る。

(了。前編を読む)

 

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