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《映画デビューから50年》草刈正雄インタビュー「ぼくは根っからの小心者」、主演抜擢『復活の日』でのプレッシャーと深作欣二監督の“歓喜”

NEWSポストセブン 2024年8月26日 7時13分

 17才で単身上京するや、資生堂の男性用化粧品ブランド「MG5」のCMに抜擢され、瞬く間にスターとなった草刈正雄。たくさん映画やドラマに出演し、多くの女優たちと共演してきた草刈が俳優人生を振り返る。【全4回の第1回】

「初めまして。暑いですねえ」。行きつけだという喫茶店に、はにかむような笑顔をたたえて現れた草刈正雄。その姿はデニムにポロシャツとラフでシンプル。

 17才でモデルデビュー、22才で映画デビュー……。半世紀以上もの間、芸能界の第一線で活躍を続け、今年72才になる大俳優だが、物腰は柔らかく、ポツポツとゆっくりした口調で話す。

「50年以上もよくやらせてもらえましたよね。いろいろあったけどあっという間だったなあ。ありがたいです、感謝しかありません」(草刈、以下「」内同)

 と言いつつ大きな背を少し丸め、時折まぶしそうに目を細める。頼りなさげな表情を見せるが、それが何とも魅力的だ。見た目の通り紳士的で、想像以上に腰が低い。

美しい女優たちと共演するたびに緊張してしまい……

「ぼくはね、根っからの小心者。ノミの心臓なんです」

 と言う草刈。振り返れば、女優とのラブシーンは何度やっても、その都度緊張したほどだという。

「ぼくの映画デビューは篠田正浩監督の『卑弥呼』(1974年公開)で、主役のヒミコ役は女優の岩下志麻さんでした。神々しいほどの美しさでね、フワーっとしたオーラがすごかった。ぼくはヒミコの異母弟のタケヒコという役で、岩下さんとはラブシーンもあったんですが、初めての映画出演ということもあって、ガチガチに緊張しました」

 1976年に映画『あにいもうと』で共演した女優・秋吉久美子も印象に残っているという。

「秋吉さんはぼくより2才年下で、当時22才。演技力が飛びぬけていましたね。ほかの女優さんにはないおもしろい演技をしてくれるんです。表情や動きに意外性があって、読めない。とても魅力的で、いい緊張感を与えてくれました」

 女優たちの美しさには毎回圧倒され、ラブシーンなどひと苦労。求められる二枚目役と素の自分があまりにもかけ離れ、いつも余裕がなかったという。

「演技……は、できていたのかな」

 とつぶやく。

 深作欣二監督の『復活の日』(1980年公開)では、イギリスの女優オリビア・ハッセーと共演したが、そのときは緊張のあまり30回近く撮り直したという。

「オリビアさんといえば1968年に大ヒットした映画『ロミオとジュリエット』に主演した有名人。“なんて美しい人なんだ”って、当時16才のぼくは観客のひとりとして見ていました。そんなアイドル的な存在が目の前にいるわけです。

 しかも彼女はとてもやさしかった。船で南極に行ってロケをしたとき、ぼくは船酔いをしてしまったんです。そうしたら彼女が、フルーツを差し入れしてくれてね。気遣いがこまやかで驚きました。そんな彼女とのラブシーンなんて、そりゃ緊張しますよ」

 この映画は、作家・小松左京さんのSF小説が原作で、細菌兵器で絶滅寸前となった人類の生きざまが描かれている。撮影当時の草刈は27才。主演に抜擢され、南極を中心とする海外ロケは半年以上にも及んだ。20億円以上もの製作費が投じられた超大作で、プレッシャーは相当なものだったはずだ。

「ぼくが演じたのは、南極観測隊で働く地震予知学者。深作監督は自由に演じさせてくれるかただったのでありがたかったですね。ぼくは不器用なもので、あれこれ細かく言われるとパニックになってしまうんです。

 このときの撮影でとても印象深かったのが、カナダでのこと。長い英語のせりふがあったんです。専門用語も多く、覚えるだけでもひと苦労。いよいよ本番当日、ぼくは台本がボロボロになるまで繰り返し読んでせりふを完璧に体に入れて臨みました。その甲斐あって撮影は一発で成功。そうしたら、いつもクールな監督が、飛び上がって喜んでくれて……。あんな監督は初めて見ました。よっぽどぼくのことが心配だったんでしょう(笑い)」

 小心者故、まじめに完璧に準備を欠かさない。その誠実さこそ、多くの監督から愛されてきた所以なのだろう。

(第2回につづく)

【プロフィール】
草刈正雄(くさかり・まさお)/1952年9月5日、福岡県小倉市(現・北九州市小倉北区)生まれ。1970年、資生堂の男性化粧品のCMでモデルデビュー。1974年、『卑弥呼』で映画デビューし、『復活の日』や『汚れた英雄』などの話題作で主演を務める。以後、俳優、歌手、司会者として、活躍の場を広げる。NHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)、NHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)でも話題に。2009年から、教養バラエティー番組『美の壺』(NHK BSプレミアム)でナビゲーターを務める。

取材・文/上村久留美 撮影/政川慎治

※女性セブン2024年9月5日号

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