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ちょい乗り需要増で人気の電動キックボード 深夜の繁華街では飲酒運転が横行「うるせえ!」「酔い覚ましにちょうどいい」と開き直る利用者も

NEWSポストセブン 2024年8月27日 16時15分

 近所にちょっとだけ移動する「ちょい乗り」需要に注目が集まっている。そのなかで急速に利用が広まっているのが、電動キックボードだ。なかでも、16歳以上であればスマホからの操作で簡単に利用出来るレンタル利用が庶民の足として重宝される一方、新しいルールを守れない利用者に対策が追いつかない現状がある。ライターの宮添優氏が、渋谷の電動キックボードステーションで出会った利用者たちの実態についてレポートする。

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 東京や大阪などの繁華街を歩けば、必ずといっていいほど見かける電動キックボード利用者。2023年7月の法改正で、一定の基準を満たすキックボードなら16歳以上は免許がなくても乗ることができる、ヘルメット着用は努力義務になるなど、利用のハードルが大きく下がった。一方で、電動アシストのパワーが規制値を超えるような違法な機種が蔓延していたり、危険な違法走行が相次ぐなどの問題が指摘され続けていることも、報じられてきた。

 そのような状況の中で、東京都心などでヘルメットなしで乗車可能な電動キックボードのレンタル事業がスタートしたのは昨年7月だった。自治体や警察からお墨付きをもらった数社の事業者は早速、街のあちこちに電動キックボードを借りたり返却できるステーションを設置。安全性を不安視する声は事業開始前から根強かったものの、目新しさだけでなく、アプリなどを使って極めて手軽に「安全に利用できれば確かに便利」といった利用者の声もあった。

 ちなみに筆者も取材やプライベートで数度利用し、便利な反面、自身の右側スレスレを車がビュンビュン走っていく恐怖を感じた、というのが正直な感想だった。だからといって利用が伸び悩むという気配はなく、街中で簡単に借りることができ、ヘルメットなしで乗車できる電動キックボードのレンタルができる場所は急増していったのである。

 いつの時代も、新しい仕組みにはトラブルがつきものだが、この新しい乗り物の安全性については、どのような配慮がされているのか。現場を調査すると、不安でしかない、利用者の実情が明らかになった。

「毎日の足代わりですよ」

 8月初旬の金曜日。相変わらずの混雑っぷりの渋谷駅前交差点。筆者は近くに複数箇所ある、電動キックボードステーションを見て回った。

 日中は、買い物客やYシャツ姿の営業マンといった利用客が多く、各ステーションからあちこちに走りだしていき、夕方前には一台残らず「貸し出し中」になった。観光客が、興奮気味にステーションに駆け寄ってきて、恐る恐る駆け出していく、というシーンも幾度も目撃した。数百メートル歩いただけでも汗だくになるほどの酷暑下で、徒歩より素早く移動できるニーズはかなり大きいことが窺える。

 19時を過ぎた頃から、ラフな格好をした若者が渋谷駅近くのステーションに電動キックボードを「返却」しにやってきた。そのうちの一人、渋谷駅近くの飲食店オーナーの男性(30代)は、基本的には毎日、レンタルキックボードを利用しているという。

「店が20時オープンで翌3時までの営業なんですよ。だから、仕事終わりに電車もバスもない。これまではタクシーを使っていましたが、世田谷の自宅までは深夜料金で4000円以上かかるし、週末はタクシー乗り場で待っていても、混雑していてなかなか乗れません。これ(キックボード)なら数百円で済むし、いくつかステーションを回れば借りられる。自宅近くにステーションが出来てからは、もう、毎日の足代わりですよ」(飲食店オーナー)

 他にも数人、夜から朝にかけて働いているという若い男女が、同じようにステーションにやってきた。いずれも「帰宅時も利用する予定」だという。酔客で街が賑わう21時過ぎには、返却された電動キックボードでほぼ満杯になるようなステーションもあった。23時を超える頃には、千鳥足の酔客が一斉に駅方面に吸い込まれていったが、ちょうどこのあたりから、電動キックボードの利用者も増え始めた。

 渋谷・道玄坂のステーションで声をかけた20代の会社員女性は「満員電車が嫌」という理由で、帰宅時に電動キックボードをレンタルすることがよくあるという。

「仕事終わりに同僚と食事をして帰るところです。この時間、電車は満員ですし、酔っ払いも多くて嫌な思いをするので、キックボードを借りますね。もちろんお酒は飲んでいません。飲酒運転になりますから」(会社員女性)

 24時頃までは、仕事終わりと思しき男女の利用者が目立ったが、終電の時間を過ぎると、利用客の様子がガラッと一変する。

タクシーだと3000円以上かかるし、飲み帰りにちょうどいいんですよ

 24時半過ぎ、ステーションにやってきたカジュアルな格好の若い男性は、すでに千鳥足。スマホを使ってキックボードの予約を行っていたようだが、足下はフラフラしておぼつかず、うまく借りることができないようだ。「飲んでますよね、大丈夫ですか?」と思い切って声をかけたところ、いきなり激高された。

「飲んでねぇよ! うるせえな、死ね!」

 そう履き捨て、筆者に握り拳を作って威嚇してみせる男性。スマホでそそくさと手続きを済ませると、電動キックボードに飛び乗り、颯爽と街の雑踏に消えていったが、道行くバスやタクシー、乗用車の間をすり抜ける危険な運転。まして飲酒していると思われる状態で、いつ事故を起こしてもおかしくない。

 間髪入れずにやってきたのは、やはり飲み帰りと思われるYシャツ姿の若い男性二人組。カメラを片手に声をかけたところ、やはり電動キックボードの飲酒運転で帰宅しようと考えていたようで、観念したようにこぼし始めた。

「いやあ……正直、終電後の飲み帰りにちょうどいいんですよね。タクシーだと3000円以上かかりますし、この時間だと並んで何十分も待たなきゃいけない。カメラで撮ってましたよね? 僕らが乗ったら、その写真使うんでしょ? だったら乗らないですよ、乗りませんよ」(Yシャツ姿の男性)

 この酔った男性二人組は、筆者がカメラを持っていたことから「撮影された」と勘違いし、レンタルを諦めたようだ。だが、他の酔客は違った。筆者が飲酒運転をとがめようとしても「お前警察か?」「ダルい」「あっちいけ」と怒鳴られたり、あとはほとんどが無視を決め込む。中には「酔い覚ましにちょうどいいんだよバカ」ど吐き捨てていく若い男性もいた。

 ステーションの目の前にある居酒屋の従業員は、この時間帯の電動キックボードの利用者の多くは酔っ払い客だ、と声を潜めて打ち明ける。

「終電後の利用者はほとんど酔っ払いだね。ひどい場合には、ステーションまでやってきて吐いて寝ちゃったりとか、利用しようとしたけど酔っててワケわかんなくなってキックボードを投げ壊したりとか。街中で取り締まりをやってるけど、夜のステーション前でやれば、もっと検挙されるでしょ。うちの店のお客さんがひかれそうになったりしたこともあったし、俺は使いたくないですね、危ないし迷惑」(居酒屋店員)

 筆者は、渋谷駅周辺を朝4時頃まで見回ったが、どこのステーションにも酔客が現れては、乗車してフラフラとどこかへ消えていく。ステーションに車両があっても、充電残量がなかったり不調だったりして利用できない、といったパターンに遭遇してしまい、舌打ちをして後にしていく人たちのようだ。始発が動き出す頃には、主要なステーションからほとんどの電動キックボードは消えていた。それだけ深夜の利用者が多いのだろう。

 同様の観察を新宿・歌舞伎町、六本木、新橋でも行ったが、程度はあれど、どこも電動キックボードを取り巻く実情は似たようなものだった。日中の違法な走行も目立つが、深夜の利用者の飲酒運転率の高さは、相当なものだと思われる。複数のレンタル電動キックボード事業者に取材をした大手紙社会部記者は「事業者側の対応が全く追いついていない」と苦言を呈す。

「2021年に地域限定でヘルメットなしで電動キックボードに乗車できるようになって以降、違法走行をする人、飲酒運転する人は急増しており、死亡事故まで起きている。事業者側は、GPS情報などを参考にして違法走行をしたユーザーの権限を剥奪するなど対策を行っていると言いますが、ほとんど効果がないことは、現状を見れば明らか。飲酒運転問題だって、現場を取材すれば明らかに異常な状態であることがすぐにわかるのに、行政も指を咥えてみているだけのように思えます」(大手紙社会部記者)

 一足先に電動キックボードを解禁した諸外国では、飲酒や無免許運転者への厳罰化が進み、パリでは住民投票の結果を受けて2023年8月末でレンタル廃止となった。遅れて電動キックボード乗車が解禁された日本では現在、違法運転者が野放し状態になっている。

 数年前には「次世代モビリティ」としてもてはやされたことはまだ記憶に新しいが、期待されたイノベーションも、ルールを守らない無法者や後手後手な事業者、行政のおかげで、その芽は刈り取られつつあるようだ。

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