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《映画デビュー50年》草刈正雄インタビュー、転機となった三谷幸喜氏との仕事「2度目の俳優人生が『真田丸』から始まった」

NEWSポストセブン 2024年8月27日 7時13分

 今年で映画デビュー50年と迎えた草刈正雄(71才)。“二枚目”というイメージから、コミカルなイメージへとシフトするきっかけとなったのが市川崑監督『病院坂の首縊りの家』だった。この作品で草刈は、原作には登場しないオリジナルの金田一耕助の助手を演じ、コミカルな一面を開花させた。市川監督は草刈の俳優人生にとって重要な存在と言えるが、そのほかにも転機があったという──。【全4回の第3回。第1回から読む】

『真田丸』は役者人生で最もワクワクした作品

 そしてもう1人、役者としてもうひと皮むけた演技を引き出してくれた恩人がいるという。それが脚本家の三谷幸喜さんだ。

「三谷さんとは、2014年に舞台『君となら〜Nobody Else But You』でご一緒させていただきました。三谷さんから“喜劇をやりませんか”と誘われての参加で、このときぼくはもう還暦を過ぎた62才。この年になっても新たな一面を見出してもらえるんだとうれしかったですね。

 三谷さんの台本は、無理して観客を笑わそうとするものではなく、自然と演じているだけで笑いがとれるようになっているんです。なぜなら、三谷さんが役者をよく見てくださっているから。この役者にこのせりふを言わせたらおもしろい、という考え方で台本を作っているので、役者が自然に言葉を発するだけで笑えるんです。

 たとえば、ぼくのせりふに“おい、お母さんはきっと草刈正雄をイメージしてるぞ”というものがあり、これがウケましてね(笑い)。これまでもコミカルな役は演じてきましたが、そのキャリアを生かしつつも新しい自分を引き出してもらえました。このときの経験もまた、ひとつの転機になったと思います」(草刈、以下「」内同)

 そしてこの舞台で、さらなるチャンスをつかむ。

「三谷さんが楽屋にいらして、“再来年、大河をやるから出てほしい”と誘ってくれたんです。三谷さんは俳優のクセをわかったうえで台本を書いてくれる、というのはこの舞台でわかっていました。それって俳優を愛しているってことなんですよね。そして何よりユーモアがある。そんな彼が書く台本は絶対におもしろい。喜んでお引き受けしました」

丹波さんが上から降りてくる気配を感じた

 実は草刈はそれまで、芝居自体を楽しめたことがなかったという。なぜなら毎回演技に必死で楽しむだけの余裕がなかったから。しかし、三谷さんの台本によるNHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)は次の台本が待ち遠しくなるほど楽しめたと笑みを漏らす。

「『真田丸』では、主人公・真田幸村(堺雅人)の父・真田昌幸役を演じたのですが、これはかつて大河ドラマ『真田太平記』(1985年)で故・丹波哲郎さんが演じた役なんです。ぼくはこのとき、主人公の幸村を演じたのですが、時を経てまさかその父親役をやるなんて……」

 三谷さんは草刈に、

「丹波さんを超えましょう」

 とはっぱをかけたという。

「丹波さんには、そこにいるだけで人が集まってくる、まさに親父のような存在感がありました。彼の笑顔は皆を安心させてくれるんです。そんな人を超えるなんてぼくには無理だと思いつつ、常に丹波さんを意識して誠心誠意演じていたら、丹波さんが上から降りてくる気配を感じたことがありました。“おれが愛した役をちゃんとやれよ”という声まで聞こえた気がして頼もしかったですね」

『真田丸』は草刈の役者人生でいちばんといえる作品になった。

「デビュー以来、2度目の俳優人生はこの作品から始まりました」

(第4回につづく。第1回から読む)

【プロフィール】
草刈正雄(くさかり・まさお)/1952年9月5日、福岡県小倉市(現・北九州市小倉北区)生まれ。1970年、資生堂の男性化粧品のCMでモデルデビュー。1974年、『卑弥呼』で映画デビューし、『復活の日』や『汚れた英雄』などの話題作で主演を務める。以後、俳優、歌手、司会者として、活躍の場を広げる。NHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)、NHK連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)でも話題に。2009年から、教養バラエティー番組『美の壺』(NHK BSプレミアム)でナビゲーターを務める。

取材・文/上村久留美 撮影/政川慎治

※女性セブン2024年9月5日号

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