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「お茶をこぼされるシーンは何テイクも撮りました」『地面師たち』佐々木老人役・五頭岳夫が語ったプロが集った撮影現場

NEWSポストセブン 2024年8月29日 16時13分

 Netflixで配信中のクライム・サスペンスドラマ『地面師たち』が7月25日に配信されて以来、5週連続で日本におけるNetflix週間TOP10(シリーズ)の1位を記録。ダブル主演の綾野剛と豊川悦司をはじめ、ピエール瀧や北村一輝、小池栄子、リリー・フランキーなどのメインキャストも豪華だ。そんな話題作のなかで、第1話に東京・恵比寿の地主になりすます佐々木老人役の俳優・五頭(ごず)岳夫さん(76)にも注目が集まっている。五頭さんに現在の心境や『地面師たち』の撮影裏話などを聞いた。【前後編の前編】

「まさか自分がこんなふうに注目されることになるとは。僕は1話でいなくなるのに(笑)」

 笑顔でハキハキと話す五頭さんは、作中の弱々しい佐々木老人のイメージからはほど遠い。

──最初にこの役の話をもらった時はどう思いましたか?

「『地面師たち』の台本を読んだときから、反響がありそうな作品だな、と思いました。でも、まさか自分がこんなふうに注目されるとは。予告映像には僕が映っていて、Netflixを開いて最初に見るホーム画面で何度も流れたので、多くの人の目にとまったのではないでしょうか」

──ものすごい反響ですよね! SNS上では毎日のようにお見かけします。

「そうなんです。こんなふうに取材を受けるのも、僕の出身地の新聞『新潟日報』の夕刊で経験したことがあるくらいで、全国メディアは初めてです。嬉しいですね(笑)。『地面師たち』を見た人が、僕のXを見つけてくれて、1日で5万7000~8000件もインプレッションがついたりしています。しかも、『あのおじいちゃん、かわいそう』とか『かわいい』という若者らしき人たちからのコメントも。こんなこと、人生で初めて。ひとつひとつ読んで、自分でお礼を書いていたら、知り合いからフェイスブックやLINEに『バズッてるよ!』とコメントがきてビックリですよ(笑)」

──ひとつひとつ読んでお礼を書かれるのは大変ではないですか?

「僕としては、当たり前のことしかしていない、という意識なんです。23歳で新劇の劇団『青年劇場』に入って約20年、舞台役者をしていまして、全国を回っていたんです。僕は主に北海道や東北地方の担当で、劇団員約20人を乗せたバスの運転もして各地の中学・高校を回っていました。芝居を観て感想をくれた人や劇団の会員からの手紙ひとつひとつに自分でまめに返事を書いたり、お土産を買って渡したりしていたんですね。だから、芝居を観てくれた人にアフターケアをするということが、僕の中に染みついているんです」

当て書きだった佐々木老人

──今回はどのような経緯で出演が決まったのですか?

「『地面師たち』に起用されたのは、大根仁監督との縁です。大根監督には10年前、ドラマ『リバースエッジ 大川端探偵社』(テレビ東京)で初めて使ってもらい、その後も、映画『バクマン。』、ドラマ『ハロー張りネズミ』(TBS系)……それが『地面師たち』のオファーにつながりました。覚えていてくれたんだなあ、と嬉しかったですし、台本をもらったら大事な役でしょ。視聴者が全7話を一気見するかは、第1話が面白いかどうかにかかっているわけだから。ビックリすると同時に、ワクワクしました

 大根監督は脚本も書いていて、僕を想定して佐々木老人のシーンを書いたと聞いています。僕だけではなく、綾野剛さん、豊川悦司さん……みなさん、当て書きだった、と大根監督が『地面師たち』の完成報告会で話していました」

──難しい役だったと思います。役作りで意識されていることはありますか?

「いただいた台本を読みながら、行間を考えることですかね。役者の醍醐味でもあります。佐々木老人は借金があって、半分、認知症も入っている、と台本にあったので、自分の周りに似た感じの人はいないかな、と思いをめぐらせ、あの人のこの部分、あの人のこの部分と持ってきて、自分自身も入れて役作りをしました。12人兄弟の末っ子なので、姉が老人ホームに入っているんです。そこで、観察していたりしましたね(笑)。

 リアルさを求めて声をはらず、肩を少し丸めて……。そうして本番にのぞみ、何度も撮るうちに、自然と身体が動くんです。アドリブが多くなり、相手の俳優もキャッチボールして受けてくれる。作中で『恵比寿の物件』の買い手と対面し、物件の写真を見せられたとき、自然と身体を乗り出して写真を見た演技はそのひとつです」

──視聴された方の中には、綾野さん演じる辻本拓海に、ズボンの前にお茶をこぼされ、「あああ~」と立ち上がるシーンで五頭さんを覚えている人も多いのではないでしょうか。

「実はあの時に履いていたズボン、自分の私服のズボンなんです。僕が40年ぐらい履いているものです。これだとお茶染みが映えるんじゃないかな、と思ってテストのときに持っていったら、スタッフが同じメーカーの同じ型番のズボンを、本番までに2着入手して準備していたんです。古いズボンなのによく……感心しました。スタッフ1人1人が本当に専門職で、プロフェッショナルな現場でしたね」

綾野さんはかっこよくて、豊川さんは…

──現場の雰囲気はどんな感じでしたか?

「僕の撮影は去年5.6月頃。スタジオにセットを組んでカメラテストを経て、数日撮影をしました。綾野さんにズボンにお茶をこぼされるシーンは何テイクも撮りました。そのたびにズボンを履き替えてね。大根監督は何テイクも粘る監督で、北村一輝さんは40テイク撮ったシーンがあったそうですよ。でも、大根監督の現場ではそれが苦痛じゃなくて、喜びなんです。いろいろ試しながら演じられるので楽しい。現場には笑いがありました」

──共演された方々とのエピソードを教えてください。

「僕は綾野さんとの絡みが多かった。これまでも何度か作品で一緒になったことがあったので、会ったらハグしてくれました。綾野さんの印象? 格好いい(笑)。豊川悦司さんは寡黙で、自分の世界観をもっている人だから、近寄りがたい雰囲気でした。でも、主演級の俳優はみんなそうで、気安く話しかけられませんよ。だから共演者とは、買い手側の社長役を演じた駿河太郎さんと、合間に『また今度、(撮影で)ご一緒するみたいですよ』と話したぐらいですね。

 僕が登場する最後のシーンは、小田原で撮りました。深夜10時から3時まで通行止めになる有料道路があって、最寄り駅に10時に集合し、1晩で撮りました。でも、そのときも食事はケータリングが用意され、温かい豚汁などを振る舞ってもらいました。Netflixの撮影現場は専門のスタッフがたくさんいて、制作現場に手厚いですね。ケータリング専門の部隊もいるみたいです(笑)。役者としては、それだけ気にかけてもらっていると感じて嬉しいですよ」

──撮影後に打ち上げなどはありましたか?
「去年10月か11月には、渋谷のレストランで打ち上げがありました。サプライズで“地面師たち”と書かれたケーキが用意されていて、そんな演出も楽しかった。北村さん、リリーさん、ピエールさん……みんなリラックスしてよく飲んでいましたね(笑)」

後編では、これまでの役者人生や顎骨骨髄炎との闘い、金銭事情まで赤裸々に語っている。

(後編に続く)

【プロフィール】
五頭岳夫(ごず・たけお)/1948年新潟県北蒲原郡水原町(現・阿賀野市)生まれ。高校卒業後、上京。自動車整備士を経て劇団「青年劇場」入団。劇団員として活動しながら、『砂の器』『八甲田山』などの大作映画に出演した。42歳で劇団を退団。2000年にエキストラとして再スタートし、2007年から本格的に映像作品に出演。映画『凶悪』『教誨師』などで存在感を示し、2024年、Netflixドラマ『地面師たち』で人気に。

(取材・文/中野裕子)

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