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年間1000人以上の子どもが行方不明…「怖いと思ったら防犯ブザー」という教え方だけでは危険 犯罪学の第一人者が解説する「危ない場所」

NEWSポストセブン 2024年8月29日 11時15分

 警察庁が7月に発表した統計によると、2023年、9歳以下の「行方不明者」は1115人と、前年に比べて50人以上増えている。昔と異なり身代金目的の誘拐事件はあまり聞かなくなったが、それでも毎年1000人以上の子どもが消えているのだ。“ミッシング・チルドレン”と呼ばれる子どもたちの中には、事件に巻き込まれてしまったケースも少なくないだろう。

 治安がいいと言われる日本にあっても、子どもを取り巻く環境は決して楽観できる状況ではない。「暗い夜道は危ない」「怪しい人に気をつけて…」といった教え方で、子どもに注意を呼びかける保護者も多いだろうが、実はその「防犯常識」ではじゅうぶんに安全を守れない可能性がある。
 子どもに教える正しい防犯知識とは? 犯罪学を専門とし、『子どもは「この場所」で襲われる』などの著書がある小宮信夫教授が、具体的な事例をもとに最新の「防犯常識」について解説する。

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危険な場所を見分ける「景色解読力」が必要

 子どもを犯罪に遭わせないようにするためには、「入りやすい」「見えにくい」場所を見分ける判断力を養わなければなりません。つまり、「景色解読力」が必要です。

「人」で判断するのは不可能なので、その「場所」が危険かどうかで判断するということです。その「場所」が危険かどうかの基準が「入りやすい」「見えにくい」です。

 交通安全を子どもに教えるときには、「この角は運転手から見えにくいから気をつけて」とか、「ここはまっすぐな道が長く続くから、車がスピードを出して走ってきやすいよ」などと、場所を読み解くように教えているはずですから、それと同じことを防犯においても教えればいいのです。

 では子どもに言って聞かせる前に練習をしてみましょう。

 次の景色のうち、安全なのはどちらでしょうか?

「通りの両側に塀の高い家が続く住宅地」と「たくさんの窓が通りに面している住宅地」
「木々に囲われている公園」と「フェンスに囲われている公園」
「植え込みもガードレールもない道路」と「植え込みに隔てられている道路」
「見通しのよい周囲が田んぼの道」と「住居が両側に並んだ道」

 正解はすべて後者です。
「入りやすい」「見えにくい」場所を避けるという原理原則を知っていれば、なんでもない景色が危ない場所か、そうでない場所かはおのずと判断できるようになります。景色が語りかけてくるようになります。

「人」はウソをつきますが、「景色」はウソをつきません。どちらを重視すればいいのかは明白です。

「狼少年」になっている防犯ブザー

「怖いと思ったときには防犯ブザーを鳴らしなさい」

 これも相変わらず多い間違いです。2013(平成25年)年の調査では全国の82%の小学校で、防犯ブザーを子どもに配布しています。

 しかし、子どもが防犯ブザーを本当に鳴らせるかどうか、冷静に考えてみることです。

 子どもが勇気を出して防犯ブザーを鳴らそうとしても、故障や電池切れで鳴らないことは十分考えられます。国民生活センターが実施した調査では、防犯ブザーの故障の苦情を受けていた地方自治体は8割にも達しました。

 機械的なトラブルがなく防犯ブザーを鳴らせたとしても、警報音の聞こえる範囲に大人がいない可能性もありますし、その警報音を子どもの防犯ブザーと認識できないかもしれません。

 防犯ブザーは、子どもが面白がって鳴らしてしまうので、仮に鳴っていたとしても大人は「ああ、また鳴っているな」と思いますから、誰も出てこない場合も多いでしょう。防犯ブザーが「狼少年」になってしまっているわけです。

 また、犯罪者に無理やり連れ去られそうになったときに防犯ブザーを鳴らした場合は、犯罪者を刺激することになります。場合によっては、パニックになった犯罪者が子どもに危害を加えないとも限りません。

 いまだに子どもに護身術のようなことを教えている学校もあるようで、驚くことがあります。小学校で行われる防犯教育では、手をつかまれたら連れていかれないために地面に伏せなさいと教えることがあるようです。もしそれを実行した場合、犯罪者が諦めて手を放して立ち去ってくれればいいのですが、そうとばかりは限りません。

 頭に血が上った犯罪者は、伏せた子どもを蹴るでしょう。人間は反射的にそういう行動に出るのです。大人が子どもの腹をめがけて蹴った場合には内臓破裂で即死です。

 ほかにも、足を踏みつけろとか、かみつけとか、いろいろな方法を学校の安全教育の中で教えています。あるとき私が講演に行った小学校で、「ぼくは大人の手を振りほどけるから大丈夫」と言いきった児童がいたので、私がその子の手をつかんでみました。当然、大人の力にかなうはずもなく、振りほどけるわけがありません。少年は自信満々だったのですが、しょんぼりしてしまいました。学校の安全教育では警察官がやってきて、子どもに護身術のようなことを教え、「うわあ、やられた〜」などと言ってお茶を濁しているので、子どももそうやって危険を回避できると錯覚してしまうのです。

 大人が護身術として習うのであればまだしも、子どもが大人を相手にするのですから、勝てるわけがありません。しかし現実には、そういう防犯教室が多いのです。

 大人でも同じですが、人質になってしまったら犯人の言うとおりにして、犯人を刺激 しないようするのが鉄則です。犯罪者に抵抗するのは、相当リスクが大きいということを認識してもらいたいと思います。

【プロフィール】小宮信夫(こみや・のぶお)/1956年。東京生まれ。立正大学文学部教授(社会学博士)。ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者でもある。現在、警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「地域安全マップ指導者講習会」総合アドバイザーなどのほか、全国の自治体や教育委員会などに、子どもを犯罪から遠ざける防犯アドバイスを行なっている。『犯罪は予測できる』(新潮社)など著書多数。

※小宮信夫・著『子どもは「この場所」で襲われる』をもとに再構成

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