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《月額料金2980円の背景》コンビニジム「chocoZAP」の低価格を実現させた「DX」 既存業務との軋轢をどう回避しているか

NEWSポストセブン 2024年9月5日 11時13分

 長引く物価高により多くの商品が値上げを余儀なくされている中、業界の“価格破壊”とも言えるサービスがある。RIZAPが展開する初心者向けコンビニジム「chocoZAP(チョコザップ)」だ。2022年7月にサービスが始まり、「月額2980円(税抜)」という価格が大きな武器となっている。

 RIZAPグループ株式会社の代表取締役社長・瀬戸健氏は、月額2980円という価格を同サービスの要として捉えている。その低価格はどのように実現されているのか? まずは“DX(デジタルトランスフォーメーション)”の観点から、その背景を探っていく。【前後編の前編】

「chocoZAP」は、他のスポーツジムとは違い、スタッフを常駐させていない。入会手続きはウェブ上で受け付け、入退店はアプリからQRコードをかざして行う。また、マシンの使い方がわからないときは、アプリ上の動画で説明を見てもらう。有人ジムでスタッフが担当していることをデジタルに置き換えているイメージだ。こうしたサービス特性が結果的に、コスト削減につながっているという。同グループの取締役としてDXを手がける鈴木隆之氏に話を聞いた。

「わかりやすさを徹底的に追求しているんです。入会手続きで少しでも難しさや面倒さを感じさせてしまったら、その時点で離脱されてしまう可能性があります。また、アプリには食事管理やトレーニングの記録など、さまざまな機能があるのですが、“ジムを利用する”という部分に関してはシンプルさを最優先にしています」(鈴木氏、以下同)

 同グループは2022年6月にRIZAPテクノロジーズという子会社を立ち上げて、エンジニアを内部で抱えることにした。これもまたコスト削減に大きく繋がったという。

「事業の急速な成長にともない、『chocoZAP』のシステムはめまぐるしいスピードで変化しています。外部のエンジニアとやり取りして発注するまでの間に仕様がまた変わってしまうこともありました。それはさすがに無駄が多すぎるということで、内部でエンジニアを抱える体制になりました」

「chocoZAP」の場合、DXが事業そのものと一体になっている。店舗運営にテクノロジーが欠かせない以上、エンジニアはエンジニア同士で固まって、ただ依頼された通りにプログラムを組むだけ……という環境では立ち行かない。そのため採用においては、スキルだけでなく、事業全体を俯瞰する観点の有無も見極めているという。

なぜDXが機能しているのか

 DXを推進するうえで多くの企業が直面するのが、既存業務との軋轢(あつれき)だ。そうしたなか鈴木氏は“経営企画・広報・マーケティング・DX・RIZAP事業統括”という立場で事業全体に携わっている。DX人材と既存セクションが融合するうえで、そのように「システム」と「事業」をつなぐ役割が重要だという。

「『chocoZAP』では、アプリなどを通して会員様の利用頻度やマシンの利用率といったデータを蓄積し、店舗運営へと生かします。しかし、どういう理由でどんな情報が求められているか具体的に理解できていないと、データをまとめるのにも難が出てきます。そのためDX人材と店舗運営を行う社員がひとつのチームとして気軽にやり取りできる社内環境であるように注意しています。

 私以外にも、事業とシステム両方に携わっている責任者が存在します。双方で人材が重なっていることが、既存セクションとDX人材の交流に繋がっているのだと思います」

 テクノロジーの力で人件費を削減しているぶん、会員に“やはり有人ジムのほうが使いやすい”と思わせないことが肝心だ。AIカメラでセキュリティを担保し、マシンの使い方を掲示物で案内、そして問い合わせにも対応できるよう仕組みづくりをしている。また、一部店舗ではトレーナーが定期巡回し、有人と無人のハイブリッド体制で運営が行われている。

 目指しているのは、“無人ジムでも安心”ではなく、“無人ジムだから安心”という環境だと語る。

「一概にスタッフがいれば万能というわけでもなく、人目を気にせず、ふらっと利用できることに価値を感じるお客様もいらっしゃいます。“無人ジムだけど、スタッフがいるより快適だ”という環境を突き詰めていきたいですね。

 たとえば車の自動運転だって、昔は危険なイメージがありましたが、現代は技術が進化して、『居眠りやよそ見がないぶん、人間が運転するより安心だ』と感じる人もいるのではないでしょうか。人間だと接客などのスキルにバラつきが出る一方、システムにはそれがなく、高い品質を安定して保てます。IOTなどによって、これから数年で“無人ジムだからこそ魅力的だ”というイメージを培っていけないかと目論でいます」

 無人であることをマイナスではなく、プラスへと転じていく。「低価格」を維持しながらサービス向上を目指すDXの行方に業界内外から注目が集まる。

(後編に続く)

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