Infoseek 楽天

“叱らない名将”広島・新井貴浩監督 「野球のことはコーチにすべて任せる」「自身は選手のフォローと報道陣対応」広島OBが語るチームを勝たせる秘訣

NEWSポストセブン 2024年9月2日 11時15分

 6年ぶりのリーグ優勝に向けて奮闘を続ける広島。好調のチームを率いるのは就任2年目の新井貴浩監督(47)だ。“天然キャラ”の現役時代からは誰も想像できなかった彼の「名将の資質」とは。チームの雰囲気はここ数年で最も良いという。広島番記者が語る。

「ロッカーでは選手の笑い声が絶えない。一方、ホームでの試合後は選手たちが居残りでバットを振っています」

 そうしたなかで新井監督は、現役時代の明るいキャラクターそのままに、得点したら派手なガッツポーズを繰り出し、勝利の瞬間は選手よりも早くベンチを飛び出す。ただ、新人の頃はプレーが雑で「粗ゐサン」という呼び名もあったくらいで、チーム全体を見渡す指揮官として勝ち星を重ねるイメージは持ちにくかったが、結果は出ている。新井監督のルーキーイヤーに広島監督だった達川光男氏はこう言う。

「新井監督は、野球のこと何もわからんのよ。でも、それがチームを勝たせる秘訣につながっているから面白いよね」

 どういうことなのか。

野球以外のフォローが大事

 達川氏は「とにかく藤井(彰人)ヘッドコーチを連れて来たことが大きいよ」と続ける。

「(2022年まで)阪神のバッテリーコーチだった藤井はライバルの阪神を知り尽くしているし、新井監督とは真逆で、野球のことはなんでも知っとる切れ者。現役時代に阪神でめちゃくちゃ仲がよかった同学年の藤井を連れて来て、選手起用や作戦面など“野球のこと”は藤井ヘッドにすべて任せる。バッティングに関してもやはり同学年の朝山(東洋)打撃コーチに一任。自分は選手のフォローと報道陣対応に徹する。変に口を出さず、それでチームが上手く回っている。

 あとは選手がミスしたり、打てなくても絶対に怒らない。“一生懸命やっている選手に文句を言う必要はない”というスタンスを貫いているね」

 高圧的に指示せず、周囲の考えを“傾聴”するのは、令和型マネジメントの基本。年代の近い巨人・阿部慎之助監督(45)も指揮官となってからは以前の強面を封印している。ただ、現役時代からイジられキャラが定着していた新井監督だと説得力が違うのだろう。そうして、集めた人材が力を発揮する。

「新井監督は現役時代も素直ないい子だったが、人を見る目は昔からあったね。OBに丁寧に挨拶するけど、オレのことは避けるから選球眼はあると思うよ(笑)」(達川氏)

 今季の広島は防御率1点台の大瀬良大地(33)をはじめ、すでに10勝を挙げた床田寛樹(29)ら投手陣の奮闘が目立つ。元広島投手コーチの安仁屋宗八氏は、ここでも「任せる」がカギだとする。

「新井監督はとくにピッチャーがわからないので、菊地原毅、永川勝浩の両投手コーチにすべて任せている。その上で投手陣が崩れて負けてもむやみに責任を追及せず『次は頼むぞ』と発破をかける。両コーチが思い切った指導ができていることが好調の要因でしょう」

 その姿勢は監督の専決事項である「二軍選手の抜擢」でも同様だという。

「他球団の監督は独断で一軍に上げることも多いが、新井監督の場合は二軍首脳陣の推薦を条件としている。そして、一軍に昇格した際は必ずチャンスを与えます。そこで期待に応えて結果を残す選手が多いので一軍と二軍の風通しが良くなっています」(安仁屋氏)

 カープの躍進を支えるのは末包昇大(28)ら昇格組だ。

“ツラいさん”を越えて

 一方で5月には、選手会長で開幕4番を任せた堂林翔太(33)を二軍に落とした。打撃不振が原因と報じられたが、達川氏は内幕をこう明かす。

「堂林は新井監督が現役時代から可愛がっていた選手ですが、守備や走塁で怠慢プレーが目立ったため、二軍に降格させたんです。懲罰人事をしない彼が、怒って選手を二軍に落とした唯一のケース。堂林は二軍で若手に交じって泥だらけでプレーしていました」

 降格から1か月後、堂林は同じ中京大中京出身で育成2位の新人・佐藤啓介(23)とともに一軍に昇格。直後の試合で新井監督は堂林ではなく、佐藤をスタメン起用した。

「誰もが驚きましたが、堂林は腐ることなく、ベンチから身を乗り出して大声でチームを鼓舞した。その姿を見た新井監督は次の試合から堂林を使い始め、堂林も期待に応えて8月に入って成績をグンと伸ばした。“叱らない”を基本としながら、人の使い方も非常に上手いよ」(達川氏)

 ドラフト6位入団の苦労人で、広島から阪神に移籍した際はスタンドから凡退時に“ツラいさん”と呼ばれるなどした経験も、今に繋がっている。スポーツ紙デスクが言う。

「阪神時代の2008年、北京五輪後に疲労骨折が発覚し、当時の岡田彰布監督(66)からV逸の戦犯として名指しで批判された。それを反面教師として選手を絶対に悪く言わないようにして、“信じて任せて、結果はすべて監督が負う”という姿勢で指揮を執っているといいます」

 今季のペナントを制した時、“天然”や“イジられ”が令和の名将の新条件となるのだろうか。

※週刊ポスト2024年9月13日号

この記事の関連ニュース