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《三重県大台町》「遺骨がむき出しで散らばっている」現場の実態、“許可なき自然葬”は「埋葬」か「散骨」か 運営する和尚が怒りの声

NEWSポストセブン 2024年9月6日 7時15分

 山にむき出しの遺骨が散らばっている──今年7月、準キー局の情報番組が、ある「自然葬」を“映像付き”で報じると、大反響を呼んだ。舞台となったのは三重県南部に位置する大台町。およそ9割を山林を占めるというのどかな町だ。しかし突如、SNSで「気持ち悪い」「ただの放置」などと注目を浴び、住民のあいだで混乱が続いている。NEWSポストセブン取材班は現地に向かった。

現場を訪れてわかった「遺骨」の様子

 騒動の発端は昨年12月の町議会だった。墓地ではない場所で、火葬した遺骨が「自然葬」として木の根元などに埋葬されている──そんな話が寄せられた議員が「埋葬は墓地以外の区画で行なってはならないが、山林において執り行なわれていることを地元住民から聞いた。町は現場を確認しその実態を把握しているのか」と質問した。

 大台町の担当課長(当時)は「自然葬(樹木葬)がされているのは認識している。墓地としての許可をとるよう促していきたいと考えている」と発言した。。

 当時は地元紙で報道されただけだったが、半年以上経った今年7月、改めて地元紙のほか中京地区のテレビニュース、ワイドショーで「むき出しの人骨」と映像付きで報じられると全国区の話題になったのだ。地元住民からも戸惑いの声が挙がる。

「たまに車で通りますが、人の骨があるとなると……不気味ですよね」

 現場を尋ねてみた。県庁所在地の津市から特急列車で50分、無人駅のJR三瀬谷駅を降りて車で40分ほど、山に囲まれた国道沿いの斜面に散骨現場はある。

「この辺の住民は車で買い物などに出ていく。観光客がタクシーで乗り降りすることはほどんどなく、登山に行く人をたまに駅から乗せるくらいですね」

 タクシーの運転手がこう言うように山林近くの国道は人通りがほとんどなく、時折車が通る程度だ。近くには、国交省の水質調査で「日本一」の清流と認定されたこともある宮川が道路を挟んで流れている。現場である山林は国道を挟み、その川を挟んだ対岸には集落が見える。

 道路から山林に目を凝らすと、木に墨のような黒い字で書かれた人名が見えるが人骨まではさすがに確認できない。管理者の許可を得て山林に入ると、木の根元には木桶が埋められており、苔がかぶせられている。苔をどけると細かくなった遺骨の破片が露わになった。

 報じられていた「むき出しの遺骨」という響きから、大腿骨などがゴロゴロ転がっている印象も受けるが、木桶の上に細かくなった骨が置いてあるという状態だ。山林は私有地で一般の人は入ることはできないため、「目にする機会」はほとんどない。

「近隣の地区には300人程度が住んでいますが、現場から100メートル以内に住居はありません。川沿いを散歩をする住民もいるでしょうが、歩道もない国道ですのでそれも少数だと思います」(大台町の住民)

自然葬を行なう和尚は行政の対応に不満

 この現場での自然葬が始まったのは2007年にさかのぼる。「自然宗佛國寺」という宗教法人が約4500坪のこの山林を買い取り『森のお墓・いのちの森』と名付け、同時に本山を現在の大台町に移転した。自然葬は現在12区画に及び、永代供養の場合は1人21万円となっている。佛國寺の黙雷和尚がこう話す。

「昨年11月に木の骨壺3個が掘り返され、遺骨が散乱しました。その後、町は現場確認もせずに寺に来て一方的に『墓地埋葬法(墓埋法)違反だ。町に墓地の申請をしなさい』と言われました。こうした状況を地元紙が報道し、騒動の発端となったのです」

 昭和23年に施行された『墓地、埋葬等に関する法律』(墓埋法)では「埋葬」に関しての項目で「死体を地中に葬ること」と記されている。さらに同法では「墓地外の埋葬等の禁止」についても定められており、「埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に行ってはならない」などと書かれている。また「墓地」の運営には自治体の許可が必要になる。

 一方、海や地表に骨を撒く「散骨」については墓埋法では言及が無い。厚労省が出しているガイドラインでは散骨について「墓埋法に基づき適法に火葬された後、その焼骨を粉状に砕き、墓埋法が想定する埋蔵又は収蔵以外の方法で、陸地又は水面に散布し、又は投下する行為」と規定されており、水源近くで行なわないことや、地域住民や周辺土地所有者への配慮などが記されているが、罰則はない。

 墓地の経営に関する許可の権限は三重県から大台町に委譲されており、墓埋法では骨を地中に埋める「埋葬」となれば町への墓地開設の申請が必要になるが、埋めずに地表に撒く形の「散骨」であれば、厚労省のガイドラインに沿う形になる。

町が現地視察に訪れたのは半年後

 昨年12月に議会で議題にあがった当初、大台町はこの自然葬について「埋葬」にあたるのではないかと判断していた。そのため、黙雷和尚に対して、「墓埋法違反だ」との注意を行なったが、大台町の現在の担当課である税務住民課が現場を視察したのは半年以上経過した今年6月のことだった。そして、「埋葬ではなさそう」と、昨年の議会での発言から一気にトーンダウンした。

「骨を土に埋め込んでいる『埋葬』と思い込んでいましたが、現場に行き、見たら埋めてはいないようでした。散骨の場合は国のガイドラインに沿う形になりますので、今後は国や県と照会して判断する形となります」(大台町・税務住民課)

 埋めれば「埋葬」、撒けば「散骨」となる現状の法規制は曖昧な部分も多い。自然葬を巡っては以前から業者と近隣住民でトラブルが起きている。2005年には北海道長沼町では散骨禁止条例が可決されるなど、条例によって散骨を禁止する自治体も出ている。しかし近年では従来の葬送にとらわれない自然葬への関心も高く、近年では「知の巨人」とも称されたジャーナリストの立花隆さん(享年80)が2021年の死後、樹木葬で葬られている。

 核家族化や檀家の減少なども相まって、遠方にある先祖代々の墓を守れないという理由から「墓じまい」が進み、自然に還るという考え方が現代の価値観とも通じる。厚生労働省が昨年公表した「令和4年度衛生行政報告例」によれば、全国の改葬(墓の移転)件数は昨年に過去最高の15万1076件となっており、大台町の自然葬でも「墓じまい」をして移ってきたものも多いという。

求められる「時代に即したルール作り」

 今回の問題には行き違いも多く見られた。昨年末の議会でのやり取りで述べられた「町側の認識」だ。墓埋法違反であれば許可を取るよう促す、町がそう言ってから現場を訪れたのは今年6月になってからだった。現場を訪れた担当課長が「埋葬ではない」と判断しているが、議会で発言した当時の担当課長とは違い、別の担当課長が現場を視察している。黙雷和尚は以前からトラブルを想定してか、2003年から県や厚労省関係者と折衝を重ね、当時の日記に担当者の実名や担当部局などを書き留めていたという。

「(2007年当時、墓埋法を管理していた)県から申請の必要はないと聞いていた方法ですが、町が現場を見ずに違法と断罪したことに怒りはあります。町からは最初に断罪したことに対する謝罪もありません」(黙雷和尚)

 町の見解を拡散した報道も誤解を生むきっかけとなった。当初は墓埋法違反の可能性を示唆した報道だったが、6月に町が「埋葬ではなさそうだ」と判断をした直後の7月になると、遺骨がむき出しになった映像を住民トラブルとして報じている。宗教法人は2007年に移住してきたこともあって、古くからの地元住民との顕在化しない軋轢があったことも考えられる。あるいは散骨する遺骨の大きさが住民感情を刺激した可能性もある。

 墓埋法が施行されたのが1948年ということもあり、墓じまいが進み、自然葬への考え方が変わりつつある現代とは考え方に大きなズレがある。とはいえ違法でないからといって周囲に配慮しないやり方をすれば新たなトラブルが生じかねない。墓埋法や厚労省のガイドラインを含め再考の時代が来ている。

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