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【広尾・マンション女性殴打死亡事件】きっかけはエアコンの設定温度か なぜ男性と女性では室温の感じ方に差があるのか

NEWSポストセブン 2024年9月8日 11時15分

「未曽有の暑さ」は、どこまで人をおかしくするのか。都心で暮らす女性が、交際相手の暴力で命を落としたきっかけは、あまりにも些細なことだった。だがその“1℃”は、男女にとっては途方もなく大きな差なのかもしれない。

「寝室を別に」「キッチンには一緒に立たない」「お互いの趣味に干渉しない」──巷には「熟年離婚」を避けるために、あえて夫婦で距離を置くテクニックがあふれている。だが、同じ家の中で暮らす以上、どうしても“共有”を避けられないものもある。それが「空気」だ。酷暑が長引くこの夏は、そんな目に見えないものにすら気持ちがからめとられる──。

 8月30日、東京・広尾のマンションの一室で、20代の女性の死亡が確認された。119番通報したのは、この部屋で女性と同棲していた増田遼太郎容疑者(25才)。朝起きると、女性が廊下で倒れていたという。

「司法解剖の結果、女性の死因は外傷性ショックと判明しました。増田容疑者は傷害の疑いで逮捕され、今後の捜査次第では、傷害致死や殺人に逮捕容疑が切り替わることもあり得ます」(全国紙社会部記者)

 ふたりはSNSを通じて2021年頃に知り合い、交際後は現場となったマンションで同棲していたという。警察の取り調べに、増田容疑者は女性の顔を殴るなどの暴行を加えたことを認める供述をしている。

「女性は顔だけでなく、腹部や足などにも複数か所の皮下出血がありました。過去に警察への相談などはなかったようですが、日頃からDVのようなことがなかったか、警察は捜査を続けています」(前出・全国紙社会部記者)

 マンション住人が話す。

「以前から何度も、黒髪のかわいらしい若い女性が、インターホンを鳴らしてマンションの中に入って行くのを見たことがあるんです。ここに住んでいるはずなのに、鍵を持っていないことが不思議でした。しかも、帰ってきたと思ったらすぐにまたゴミ捨てに出てきたり、コンビニに買い物に行ったりしていたんです。もしかしたら、男性に服従させられ、使いっ走りのような生活を送っていたのかもしれません」

 高級住宅街で起きた凶行ということ以上に、世間の関心を集めたのは、増田容疑者が警察に話した「トラブルのきっかけ」だった。

「増田容疑者は“部屋の温度が暑いとか寒いなどのやり取りで口論になり、顔をたたいた”と明かしています。つまり、エアコンの設定温度を巡ってけんかになり、それが最悪の結果につながったというわけです」(前出・全国紙社会部記者)

 8月下旬の都心は連日、台風の影響で雷を伴う豪雨に見舞われた。もとより気温が高く、しかも湿度が高い上、天候が不安定な状態では、エアコンをつけて部屋を閉め切るほかない。女性は死亡する前夜の午後11時過ぎに、近所のコンビニで目撃されていた。部屋に帰り、いざ寝ようとしたときに待っていたのは熱帯夜。同棲相手との間に、エアコンの設定温度という問題が頭をもたげた。

「現場マンションは1Kの間取りで、主室以外には“逃げ場”がありませんでした。同じ部屋にいなければならない状況で、お互いに設定温度の落とし所が見つけられなかったのでしょう。顔面を殴打され、しかも寝室で寝られないと感じた女性が仕方なく廊下で眠り、そのまま亡くなったのかもしれません」(前出・全国紙社会部記者)

夫がこっそり設定温度を下げる

 室温の感じ方には、男女でかなりの差がある。だからこそ、今回の事件のような設定温度にまつわるトラブルが起きるのだ。通販サービスを行うショップジャパンが2019年に行った「夏場のエアコン温度の男女差」の調査では、全体の54%が、夏場のオフィスの温度を「快適だと感じない」と回答した。その理由として、女性の49.7%が「寒い」。一方、男性の72.1%が「暑い」。同じように不快さを感じていても、その理由が女性と男性では正反対なのだ。

 さらに家庭でのエアコン事情となるとより顕著で、全体の77.9%が「夫婦(パートナー)と体感温度差を感じることがある」と回答。体感温度差やエアコンの設定温度が原因で、言い合いやけんかになった経験がある人は30.7%にのぼった。関東地方に住む60代の主婦が話す。

「この暑さですから、一日中エアコンはつけっぱなし。ですが冷房が効きすぎていると手足が冷えるし、体のだるさが抜けなくなるんです。だから極力、設定温度は高くして、扇風機を一緒に使ったりしているんですが、夫はそんなのお構いなしに、どんどん設定温度を下げる。しかも私に黙ってこっそりですよ。

 寝るときなんか、Tシャツに短パン姿の夫の横で、私は長袖長ズボンのパジャマで掛け布団にくるまっています。快適な睡眠がとれないから、最近は日中に外出するのも億劫になってきました」

 なぜここまで感じ方に違いがあるのだろう。早稲田大学名誉教授で生物学が専門の池田清彦氏が解説する。

「一般的に、暑さに強いか弱いかは2つのファクターがあります。1つは基礎代謝が高いか低いか。基礎代謝が高い人は体温が上がりやすいため暑さに弱い。逆に基礎代謝が低い人は寒さに弱い。この基礎代謝というのは筋肉量が多い男性が高く、女性が低い傾向にあります。つまり、男性の方が暑がりというわけです。

 もう1つは脂肪量。脂肪は断熱材のようなもので、体温を外に逃しにくくする。だから外気温が高い夏は、肥満の人は体温が上がっても熱を逃しにくいため暑さに弱く、逆にやせている人は断熱材が少ないので寒さに弱いというわけです」

 それでは、どうすれば不要な衝突を避けられるのだろうか。

「適温だと感じる温度が異なるなら、部屋を分けるのがいちばんですよ。ただ、部屋が1つしかないとか、エアコンが1台しかないというご家庭もあるでしょう。となると、寒さを感じる人の方が、冷気は下にたまるのでレッグウオーマーをするとか、床に足を着けないよう椅子の上に座るとか、厚着をするとか、そうした対策をとるしかありません」(前出・池田氏)

 秋が待ち遠しい。

※女性セブン2024年9月19日号

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