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今秋終了の『ジョンソン』『オドハラ』“にしたん豪邸企画”で丸かぶり!TV局が抱える切実な事情

NEWSポストセブン 2024年9月9日 7時15分

 わずか2週間の間に同じ人物の豪邸企画が、フジテレビとTBSで相次ぎ放送される事態に──。『オドオド×ハラハラ』(フジテレビ系)と『ジョンソン』(TBS系)で、にしたんクリニックなどを手がける西村誠司社長の豪邸を芸人が訪問する企画でかぶってしまったのだ。いずれの番組も今秋で終了予定だ。“丸かぶり”の背景には、どんな事情があったのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

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 9日21時から『ジョンソン』(TBS系)「総額30億円超!有名社長の豪邸でお宝探しSP」が放送されます。これは、にしたんクリニックなどを手がける西村誠司社長が渋谷の一等地に建設したばかりの豪邸に潜入するという企画で、「ロールスロイスや屋上のプールにメンバー大興奮」などの内容が予告されています。

 しかし、西村社長の豪邸は11日前の8月29日に『オドオド×ハラハラ』(フジテレビ系)で紹介されたばかり。しかも約8000万円の高級車・ロールスロイスや4000万円かけた金のすべり台つきインフィニティプールなどが紹介されるなど、似た内容である様子がうかがえます。

 さらに注目すべきは、どちらの番組も先日の番組改編説明会で、「今秋での終了」が正式発表されたばかりであること。もともと両番組は「複数の芸人を前面に押し出したバラエティ」「昨秋に局を挙げた大型番組としてスタート」という共通点もありました。

 なぜ両番組はわずか1年で終了し、最後にこのような豪邸訪問企画、しかも西村社長宅という選択がかぶってしまったのでしょうか。

工夫を凝らすも週替わり企画が不発

 あらためて振り返ると、『ジョンソン』はダウンタウンがメインを務め、TBSが「伝説的バラエティ」と自負する『リンカーン』の後継番組であり、『オドオド×ハラハラ』はお笑いフリークから絶大な支持を集める佐久間宣行プロデューサーを招へいした番組。前者は、かまいたち、モグライダー、見取り図、ニューヨーク、後者は、オードリー、ハライチという中堅のトップ芸人をそろえて、「看板バラエティとして長く放送していきたい」という狙いを感じさせました。

 昨秋、『ジョンソン』は『リンカーン』の名物企画「芸人大運動会」でスタート。それ以降、週替わりのさまざまなロケ企画を放送していましたが、その中に2月26日放送の「億超えのお宝を探せ!豪邸トレジャーハンター」という豪邸訪問企画があったのです。

 一方、『オドオド×ハラハラ』も佐久間プロデューサーらしいひねりの効いた企画を試したものの視聴率は奮わず、4月に木曜20時台から21時台へ移動。そこで「芸能人自宅横断ウルトラクイズ」という豪邸訪問企画がスタートし、メインコーナーとして放送されていました。

 このようにどちらも今回の“にしたんかぶり”につながる経緯があり、さらに西村社長はハライチがMCを務める『ぽかぽか』のメインゲストとして出演するなど、メディア出演の多い人気経営者。また、「30億円」「完成したばかり」というインパクトも制作サイドが食いつきたくなるポイントでしょう。

 そしてもう1つ重要なのは、サスペンスドラマ風のCMがおなじみであるように、にしたんクリニックを運営するエクスコムグローバルは各局にとって大切なスポンサーであること。西村社長は「戦略的に“出たがり社長”を演じている」というだけに、バラエティへの出演によって各局とウィンウィンの関係性を築けているのでしょう。

「これ以上数字を落とさない」手法

 話を豪邸訪問企画に移すと、昭和時代のころから制作サイドにとって「計算できるもの」とみなされてきました。

 家そのものに加えて家具、車、宝飾品、美術品などがすべてトピックスになり、本人、家族、ペットなどを絡めたトークも可能。たとえば、「誰が家主なのか」「高額品がいくらなのか」を当てるクイズ形式を採用したり、キッチンで料理してリビングで食べるシーンを撮ったりなどが定番になっています。

 制作サイドにしてみれば、用意するものが少ないという労力・費用の面で優しい上に、街ブラのようなリスクがほとんどないのもうれしいところ。トーク力のある芸人などに任せることで笑いも担保できるため、計算が立ちやすいのです。

 さらにもう1つのメリットは、「豪邸訪問企画は中高年層を中心に一定のニーズがあり、視聴率獲得の点で大崩れがない」こと。ただ、家主が高年齢であるケースが多く、まだ家への興味があまりない若年層の視聴が期待しづらいため、コア層(主に13~49歳)の個人視聴率重視になった2020年代は豪邸訪問企画が減っていました。

 その意味で芸人を前面に押し出した両番組の豪邸訪問企画は、「お笑いフリークの支持を失うことになっても、一定の視聴率を獲得したい」という切実さを感じさせるものでした。また、今秋でのレギュラー放送終了が決まった現在では、「これ以上視聴率を落として出演者とスタッフの経歴に傷をつけないように」という配慮も感じさせられます。

 バラエティの大半は終了時期が決まると、よほどの人気番組でない限り、「徐々に放送回数を減らし、無難な企画を増やしていく」、あるいは「スポンサーを喜ばせる営業絡みの企画を織り交ぜていく」のが業界のセオリー。視聴率低迷を理由に終了するケースが多いため、制作サイドは「できるだけ波風を立てずに終わらせたい」「最後に少しでも貢献して終わりたい」という思いになりやすく、『ジョンソン』と『オドオド×ハラハラ』はそれが一致したのかもしれません。

【プロフィール】

木村隆志(きむら・たかし)/コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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