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“無敵の人”斎藤元彦・兵庫県知事、強制的に辞職させるのは簡単ではない 不信任決議には「議会解散」、リコールには「66万人の署名」の高いハードル

NEWSポストセブン 2024年9月10日 7時15分

 一体、どんなメンタルの持ち主なのか……。パワハラ疑惑で追及される斎藤元彦・兵庫県知事だが、議会やメディアの前で臆せずに自身の正当性を主張し、県民の声や世間の批判に耳を貸す様子もない。本人の意思以外に“無敵の人”を辞めさせる方法はないのか?

「まさに鉄面皮の男です。県職員の4割近くがパワハラを見聞きしたと回答していますが、知事が在任中に接する職員は4割もいれば多いくらい。関わったほぼ全員がパワハラを見聞きしていたのかもしれません」

 そう語るのは、2007~2011年に宮崎県知事を務めたタレントの東国原英夫氏(66)。斎藤知事の疑惑は日に日に注目を集め、県議会が実態調査のため設置した調査特別委員会(百条委員会)でのやり取りが世間を賑わせている。

 斎藤知事は反省を口にしつつも一貫して「必要な指導だと思っていた」などと自身の正当性を主張。公務で訪れた博物館で、玄関の20メートルほど手前で公用車を降ろされ、怒鳴り散らした件についてはこんな具合だ。

「歩かされたことを怒ったのではなく、円滑な車の進入経路を確保していないことを注意した」

 パワハラ証言はどんどん増え、県職員アンケートの中間報告には、実態を見聞きした事例が多く記されている。どれも大人げない言動を報告する証言ばかりだ。

〈意に沿わないレク内容に対し「むかつく」を何度も言われた〉
〈学生がエレベーターのボタンを押し間違えて不機嫌になった〉
〈「更衣室に用意するハンガーは木製に限定」「飲み物は冷水。ペットボトル不可」〉

 斎藤知事は県が発行する告知ポスターに自身の顔写真がないことを激怒したと伝えられているが、広報用うちわでも同じことが起きていたようだ。職員が写真のないうちわの資料を見せると、

〈知事から舌打ちと大きなため息があった〉〈これは私の肝いりの事業だ。(知事の)顔写真やメッセージを入れて欲しい〉

 そう言われ、追加発注を余儀なくされたとある。だが、これらが辞職に直結するとは言い難い。

「発端となる告発文書を作成した局長が自殺に追い込まれた疑いがある問題を除けば、その他はパワハラと認定される深刻な事案かも線引きが難しいところでしょう。いま話題の職員アンケートの回答は人づてに聞いた内容も多い」(全国紙記者)

 県職員の一人は斎藤知事についてこう漏らす。

「とにかくもう、知事は誰がなにを言っても聞かへんのです。支援者が陳情で連絡しても『要件はなんですか。LINEでお願いします』とあしらわれる始末ですよ」

 何を言われても気にしない“無敵の性格”だけでも強力だが、知事は“無敵の権限”を持っているからさらに厄介だ。

「百条委員会は12月までに報告書をまとめるというが、その結果パワハラと判定されても法的拘束力があるわけではない。本人が自ら意思表明しない限り辞職とはなりません」(前出・全国紙記者)

「不信任決議」と「議会解散」のチキンレース

 仮に自ら辞任しなかった場合でも、制度的に辞職に追い込む方法は存在する。神戸学院大の上脇博之教授はこう語る。

「知事を解職させる手段には、県議会による不信任決議の可決と住民によるリコール(解職請求)の2つがあります」

 とはいえ、不信任決議が可決されても、すぐに「辞職」とはならない。

 可決後、知事は10日以内に「議会を解散する」権限を持つからだ。県議たちには、自らが任期途中で地位を失うリスクを背負う覚悟が求められる。

「不信任決議を出すなら議会を解散するぞと、知事は匂わせることができる。互いの覚悟を試すチキンレースのようなもの。他党が辞職を求めるなか、維新の会の動きが鈍かったのは多数の議席を持っているため。そう簡単には意見がまとまらないはずです」(東国原氏)

 議会を解散した場合は県議会議員選挙が行なわれ、新しい議会で再び不信任が決議されれば、ようやく知事が失職する。だが、不信任決議を可決する壁がそもそも高い。

 決議は兵庫県議86人が全員出席した場合、4分の3にあたる65人以上の賛成が必要となる。現在、維新の会が4分の1にあたる21議席を持つ。仮に維新が動かなければ、自民党から日本共産党、無所属議員まで一人残らず賛成する必要があるのだ。

 不信任決議が難しい理由はそれだけではない。

「辞職させたら、次の知事選で誰を候補者として担ぐか決めないといけない。特に前回の知事選で斎藤知事を担いだ政党は、人選が固まらないうちは動きにくいのが実情でしょう」(上脇氏)

 もう一つの「リコール」は県民が動く方法だ。一定数以上の有権者の署名を集めたうえで住民投票を行ない、過半数が賛成すれば知事は失職する。人口が多い自治体の場合は特殊な計算式が用いられ(注:有権者総数が80万人を超える場合は「80万を超える数の8分の1と40万の6分の1と40万の3分の1を合計した数以上」の署名が必要になる)、兵庫県の有権者数は約450万人のため、リコールには約66万人もの署名が必要となる。

「県全域で大規模な署名運動を展開する必要があり、相当の組織力が必要になる。2020年に愛知県の大村秀章氏に対するリコール署名が集まりましたが、署名の8割以上が偽造と判明した」(上脇氏)

“無敵の人”に立ち向かうのは簡単ではない。

※週刊ポスト2024年9月20・27日号

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