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元関脇・嘉風の中村親方、角界の慣習にとらわれない部屋運営と指導法 笑い声が飛び交う稽古は週休2日制「親方の威厳で縛らず、信頼で縛りたい」

NEWSポストセブン 2024年9月14日 7時15分

 44番目に新設された相撲部屋として8人の力士を連れてスタートを切った中村部屋。部屋を率いる中村親方(元関脇・嘉風)の角界の慣習にとらわれない部屋運営や指導法に注目が集まっている。

 朝起きればすぐに猛稽古、終わればちゃんこ。ちゃんこの後は昼寝、起きると夕食をとり、就寝する。1日2食、昼寝付きが従来の相撲部屋の1日だ。

 ところが、中村部屋は1日3食、朝食から始まる。稽古も午前と午後の二部制を取り入れ、稽古は週休2日制。相撲を取る稽古も週3回までと制限している。中村親方の狙いはこうだ。

「体に栄養がある状態で体を動かすのがいいと考え、現役時代から1日3食でやってきた。部屋を持てば自分のルールで運営できる。その時は導入しようと思っていた」

 朝7時、調理場に親方が立ち、力士8人分の朝食を作り始める。ブルーベリー、ナッツ、オーツ、プロテインなどを入れた特製スムージーだ。

「友風が中身を考えてくれた。うちの部屋はみんなで規律・常識を決めるのがルール。とはいえ相撲界は親方が絶対で、力士がイエスマン。その中でもなるべく力士が意見をいえる、それも番付に関係なしを目指している」

 朝食後、掃除やゴミ出しで体を動かし、午前9時から稽古が始まる。この日は近くの隅田川の河川敷でのトレーニング。ランニングやダッシュ、トレーニング器具のラダー(縄梯子)を使っての瞬発系の運動で、たっぷり2時間汗をかいた。

立ち合いは省略

 部屋に戻ってちゃんこを食べ、午後3時からは土俵での稽古となる。

 まずはチューブを使ったカニ歩きから始まる。四股も踏むが片足を上げて30秒ほど静止する形で行なわれる。申し合いも四つに組んだ状態で始まり、立ち合いでの当たりは省略されている。

 不利な体勢からスタートすることでまき替えなどの技術を習得できるという。すべてが従来の相撲部屋の稽古にないオリジナルメニューだ。

「相撲も取りますが1日数番。現役時代から相撲を取るための筋肉、いわゆる“相撲筋”を鍛えたいと思っていた。組み合った状態から始めれば技術を覚えるだけでなく、体幹を支える筋肉も鍛えられる。人はマンネリするので刺激を少しずつ増やす工夫もしている。四股は4パターン、すり足も3パターンある」

“心理的安全性”

 2時間の稽古中、笑い声が飛び交い、親方から笑顔が絶えない。現役引退後、大学でアスリートのセカンドキャリア支援カリキュラムで“心理的安全性”を学んだ。

「心理面で安全性があると傍にいても緊張しない。師弟がこのような関係でなければ悩みを打ち明けたりしないという。コーチ役の師匠に質問もできないようでは力士が強くなれず、相談できる環境を常に作っておきたい」

 夕食後は自由時間となる。酸素カプセルやトレーニング機器を使う力士もいるが、中村部屋では門限がない。弟子の監視が厳しい相撲部屋では異例のことだ。

「消灯は11時と決まっているが、未成年力士以外には門限を作っていない。ただ監督責任のある私に帰宅時間を連絡するルールになっているし、稽古や掃除などに支障をきたすようなら門限を作ると伝えている。親方の威厳で縛らず、信頼で縛りたいのです」

 自主性を尊重する。これが力士にとって一番きついのかもしれない。準備時間を考慮して朝食をご飯からスムージーに変更するなど柔軟に軌道修正もする。中村親方はこう締めくくった。

「試行錯誤を繰り返している段階です。相撲の伝統を守りながら自分の形を作っていきたいが、これまでとやり方が違うため強く育てられないとすべて私の責任。批判もあるだろうが、力士ファーストの部屋を目指すことで多くの関取を育てたい」

 先場所では新十両の嘉陽が関取残留を決め、宮城は5勝2敗で幕下上位へ番付を上げるなど、成果が徐々に表れてきた。

 角界の常識を覆す相撲部屋からどのような力士が誕生するか。中村親方の挑戦が始まった。

取材・文/鵜飼克郎 撮影/太田真三

※週刊ポスト2024年9月20・27日号

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