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郊外で相次ぐ闇バイトグループによるロレックス強盗事件 思慮の浅い者たちが犯罪に加担することによる「危険な兆候」

NEWSポストセブン 2024年9月14日 16時15分

 近ごろはアルバイトに応募するとき、自分の身分証の写真をLINEなどで送信することも珍しくないそうだ。そのためか、その応募先が闇バイトであっても抵抗なく免許証などの画像を送ってしまう。その結果抜けられなくなり、よく考えないまま闇バイトに加わった人たちが起こしている最近の犯罪は、社会にとってどんな脅威なっているのか。ライターの宮添優氏が、思慮が浅い者たちによる強盗事件の増加についてレポートする。

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「正直、またかという印象です。毎日のように報じられているのに、まだ闇バイトに騙されるようなレベルの若者がこれほどいるのか、ということも絶望的ですが、連中がまだ”ロレックス”を狙っていることにも驚きます」

 こう話すのは、貴金属展などが密集する東京・御徒町の時計店男性店主(60代)だ。8月31日に神奈川県厚木市の質店が、さらに9月3日にも鎌倉市の質店が、それぞれ2人組の強盗被害に遭った。厚木では実行犯役の男が居合わせた住人などに取り押さえられ逮捕。後日、運転手役を自称する男が出頭し逮捕された。鎌倉でも、店主に取り押さえられた男や逃走した男らが逮捕され、全員が「闇バイト」に応募したという旨の供述している。

ロレックスを盗んでも割に合わない

 銀座や上野、御徒町などでも高級時計や貴金属を狙った連続強盗事件が起きていたこともあり、こうした商品を扱う業者の間では、盗品時計のロットナンバーが共有されている。さらに、所轄警察暑や組合などの指導も入り、強盗対策を進めていた矢先、狙われたのは厚木や鎌倉といった「郊外」の店舗だ。

「盗品のロットナンバーは小売の同業者だけでなく、質屋などにもリストが配布されていて、買取の際に気をつけるよう徹底されています。ですから、換金がしづらい。もうロレックスを盗んでも割に合わない、犯人たちはそう考えると思っていましたし、実際に強盗事件はいっときの間、発生していませんでした。さらに、警察から指導が入り、防犯カメラを新たに設置したり、盗まれやすい高額な品を表から見えるショーケースに陳列しないなど、かなり対策をしていました。ほとぼりが覚めて、強盗対策の薄そうな郊外の質店を狙ったのでしょう」(時計店店主)

 同じような見方は、事件を取材した大手紙社会部記者からも聞かれる。

「かつて都市部で相次いでいた強盗事件では、高額で転売しやすいロレックスや、人気のあるクロムハーツなどアクセサリーが奪われていました。これらは盗品登録されているため、日本国内では転売が難しい。そこで、盗品を中国へ流していると見られていましたが、しばらく途切れていたようでした。この換金ルートが最近復活したのか、強盗対策を厳しくしている都内や繁華街の店舗ではなく、新たに郊外を狙うようになって最近の事件が起きたのでしょう。今でも、まだ郊外の店舗では表から見えるショーケースに堂々とロレックスを陳列しており、事前の下見も行いやすい」(大手紙社会部記者)

 筆者も以前、盗品のロレックスが中国へ流れている、という話を複数筋から聞いていた。世界中で人気があり、右から左に転売できるロレックスやクロムハーツは、一部の中国人富裕層にとっては不動産のように暴落しない「価値が普遍なもの」と捉えられているという。そして、別の事件でも、やはり中国というキーワードが出てくる。

 高級腕時計を所有者から預かり貸し出すシェアリングサービス「トケマッチ」を運営していた合同会社ネオリバース(解散)の元代表が今年3月、業務上横領の疑いで指名手配された。9月には、中国で倍にして売ると客から預かった高級腕時計をだまし取った詐欺容疑で会社役員の男らが逮捕されている。

「客から預かった時計を持ち逃げする事件も相次いでいます。ここでもロレックスがターゲットにされ、未返却のロレックスの大半が、すでに中国をはじめとした海外に送られているとみられます」(大手紙社会部記者)

思慮が浅い者たちによる強盗事件の数々

 ロレックスを詐取する手練手管を使った事件が相次ぐ一方で、工夫の跡が見られない強盗事件が続発する。そして強盗の実行犯の大半は、闇バイトに応募してきた、金に困った思慮の浅い素人が大半である。最近では「簡単な仕事」などとネットに書き込まれた募集に応募し、その日が来るまで「詐欺とか強盗だとは本当に知らなかった」という者もいる。ほぼ全員が、詐欺師や指示役に免許証を提示したり、自分や家族の住所を教えているために、それを使って犯行に加担するよう脅される。したがって、犯行に対するモチベーションは極めて低い。

 モチベーションが低いと何が起きるか。意欲がないと一般的な仕事でも精度が落ちるように、犯罪でも同じ事が起きる。普通なら一大決心して挑むはずの強盗であっても、目的も計画も人まかせ、絶対に成功させるという意欲も薄い。よって、厚木や鎌倉で起きた事件のように、最終的には換金という目的を果たせず、未遂に終わるパターンが増加している。

 思慮が浅い者たちの犯行や犯行未遂が増加しているのなら、全体的にはたいした被害にならないのではないか、と思いがちだが安心はできない。むしろこれは、危険な兆候とも言える。なぜなら、いくら詐欺や強盗とはいえ、どんどんその仕事の「荒さ」が目立ち始めると、その先には人が怪我を負ったり、死ぬような展開が、遠くない未来に必ず起こるからだ。

 闇バイトに応募して手を染める意識が低い人たちによる犯罪といえば、かつては特殊詐欺で電話をかけるだけ、お金を受け取りに行くだけだった。いわゆる「(電話の)かけ子」や「(現金の)受け子」と呼ばれる人々だ。ところが、実際に被害者に危害を加える「アポ電強盗」へと変化し、その果てに起きたのが「ルフィ事件」だったことも記憶に新しい。

 ルフィ事件のひとつに数えられている、2023年1月に狛江市で起きた強盗致死事件の被告のうち、犯行時19歳だった男への裁判員裁判で、9月6日に言い渡された判決は懲役23年だった。被告は被害者死亡する行為に加担していないと主張したが、事前に計画された犯行の役割は果たしていたとしての判決だった。この事件では、実行犯たちの誰も殺害するつもりはなかったのではと見られているが、ずさんな強盗で思うようにことがすすまないことにパニックを起こしたのだろう、過度な暴行の末に人が死んだ。今後、そんな”にわか”窃盗グループが日本各地に現れる可能性は高まっているとしか思えない。

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