Infoseek 楽天

「子どもが襲われる場所」とは──電車内にも危険あり 「怖い」と思ったときの3つの対処法

NEWSポストセブン 2024年9月14日 11時15分

 警察庁が7月に発表した統計によると、2023年、9歳以下の「行方不明者」は1115人と、前年に比べて50人以上増加している。この7月には、長野県岡谷市で小学校に通学中の女子児童を連れ去ろうとした55歳の男が未成年者略取未遂の容疑で逮捕されたほか、東京都練馬区で小学生の女子児童に声をかけて近くの車庫に連れ込み性的暴行を加えた疑いで68歳の男が逮捕されている。

 次々に起きる、子どもを狙った犯罪──。どのようにすれば、子どもは身を守れるのだろうか。犯罪学を専門とし、『子どもは「この場所」で襲われる』の著書がある立正大学の小宮信夫教授は、不審者・犯罪者といった「人」ではなく、犯罪が起きる「場所」に着目し、そうした場所をできるだけ避けるべきという「犯罪機会論」を提唱する。今回は、小宮教授の前掲著から実は危険な「公共交通機関」、そして危険を感じた際の対処法を紹介する。

 * * *

電車、新幹線は危ないか?

 公共交通機関では、混み具合によっても監視性は変わってきます。乗客が少ないときは、人の目がないということですから、周りに窓がないのと同じで、見えにくい場所になります。

 では人がたくさんいればいいかというと、不特定多数の人ばかりですから、人通りが多い道と同じで、これもあまり期待できません。

 子どもに関わる犯罪ではありませんが、電車内では置き引きがよくあります。乗客がたくさんいてもやられてしまいます。堂々と持ち去られると、見ているほうには、その人の持ち物なのだろうという考えが働きます。危害を加えられるかもしれないという思いも一瞬頭をよぎりますから、怪しいと思っていてもなかなか声を出すことができません。

 だから、電車内でもトイレに連れ込まれてわいせつ事件が起こることがあります。新幹線でもありましたし、特急電車の座席でわいせつ行為をしていたのを周りの人も認識していたのに、誰も何もできずに事件になったケースもあります。カップルかもしれませんから、声をかけられないのも無理はありません。やはりこうした場所では子どもを絶対にひとりにさせないということを徹底するしかありません。

 交通機関以外でも、たとえば図書館などで親が職員と話して顔見知りになっておけば、目配りをしてくれますから、異変があったときに気づいてもらいやすくなります。職員の目があることで、そこが見えやすい場所になるのです。職員とはなるべく仲良くしておいて、できれば親が紹介するかたちで子どもと職員を引き合わせておけば、環境はさらによくなるでしょう。

子どもの車内マナーが危険を招く

 私が見ていて危険だと思うのは、子どもの電車内での振る舞いです。座席の上に土足で立ったり、車内を走り回っている子がたまにいます。マナーに反した行為は、とくに夕方の時間帯は非常にリスクが大きくなります。

 夕方以降の時間帯はサラリーマンなどみんなが疲れていて、ストレスがたまっています。そういうときに子どもがうるさくしていると、表立って殴ったりはしませんが、足を出してつまずかせたり、子どもの持ち物をわざと落としたりするかもしれません。

 電車内は家の中とは違うということを、親が子どもにしっかり言って聞かせる必要があります。大人同士でもストレスから言い争いをしている例をよく見ますから、子どもがその標的にならないとも限らないのです。

 とくに小学生が塾からの帰りに電車に乗っていたりすると、学歴コンプレックスを 持っているような大人から嫌がらせを受けるかもしれません。子どもを痛めつける犯罪の場合には、学歴コンプレックスは動機になります。2001年に大阪で起きた小学生無差別殺傷事件は、優秀な児童が集まるとされる学校が標的にされました。

 犯罪の動機には、精神的なものと物質的なものがあります。物質的なものとは、お金欲しさに行う犯行です。精神的なものとは、嫉妬です。人間がいくら物質的に豊かになっても、嫉妬の感情はなくなりません。学歴、容姿、会社での地位などがその理由になります。そうしたストレスのはけ口として向かいやすいのが子どもだということです。大人に対しては暴力をふるえない人でも、子ども相手なら勝てるからです。

 電車内でものを食べたり、化粧をしたり、爆睡するなどして、家の中と同じようにして過ごしている大人はいまだに多く見られます。親は公共の場では油断しないで、常に警戒心を怠らない態度を、率先して子どもに見せることが必要です。

自分でバリアをつくる

 スマホを見ながら道を歩いているような人は、犯罪者からすると 格好のターゲットになります。スマホを見ていたために尾行されていることに気づかず、部屋に入ったとたんに後ろからきた犯罪者に押し倒され、部屋に侵入される事件も起こっています。

 家は入りにくい場所であるはずなのに、自分で開けて、入りやすくしてしまっています。こうした犯罪に遭わないためには、周囲を確認して、近づかれていないかどうかを絶えずチェックして警戒することが大切です。

 警戒すると、そこに見えないバリアが張られたように犯人には見えます。このバリアは、普通の人には見えませんが、犯人からはよく見えるのです。バリアができると、入りにくい場所になります。最後は自分の力で、入りにくい場所をつくるようにすることです。

 2013年に三重県で起こった事件では、花火大会を見に行った女子中学生がスマホを見ながら歩いていて、尾行されていたことに気づかず、帰途の空き地で殺害されました。「あとをつけられているかもしれない」と思ったときには、次のような行動を取ることでバリアを張ることができます。

1.歩く側を変える(道の右側を歩いていたら左側に、左側を歩いていたら右側へ)。後ろから来る人も歩く側を変えたら、再び左右を変える。それでも相手が左右を変えたら110番通報する。

2.歩く速度を変える。しばらく早歩きして、後ろから来る人も等間隔でついてきたら、小走りする。それでも相手が等間隔でついてきたら110番通報する。

3.安全な場所で立ち止まる。立ち止まった場所で電話をするふりをして(実際は電話せず、いつでも110番通報できる態勢をとる)相手の様子を観察する。大きな声で「待ち合わせの場所に着いた」と電話口で話しながら、後ろから来た人を先に行かせる。相手も立ち止まったら110番通報する。

 こうした指導をすると、「そんなに簡単に110番していいのですか」という人が多いのですが、まったく問題ありません。緊急性のある通報に対して、警察が問題視することは絶対にありませんから安心してください。

 子どもにも、こういう状況でこういう行為をした人がいたら、躊躇なく通報していいのだと教えてあげてください。真面目な子ほど110番をするハードルが高くなってしまっていますが、躊躇して犯罪に巻き込まれては意味がありませんから、こういうときこそ110番してほしいと警察は考えているのです。

【プロフィール】 小宮信夫(こみや・のぶお)/1956年。東京生まれ。立正大学文学部教授(社会学博士)。ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者でもある。現在、警察庁「持続可能な安全・安心まちづくりの推進方策に係る調査研究会」座長、東京都「地域安全マップ指導者講習会」総合アドバイザーなどのほか、全国の自治体や教育委員会などに、子どもを犯罪から遠ざける防犯アドバイスを行なっている。『犯罪は予測できる』(新潮社)など著書多数。

※小宮信夫・著『子どもは「この場所」で襲われる』をもとに再構成

この記事の関連ニュース