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「宅配業者を装って射殺」六代目山口組弘道会が池田組に銃口を向けた背景 「ラーメン組長」射殺事件の復讐か

NEWSポストセブン 2024年9月12日 21時0分

 今年の8月で10年目に突入した山口組分裂抗争。今年に入って抗争事件が激減し、小康状態とみられていたが、9月9日、再び銃声が鳴った。六代目山口組の司忍組長、髙山清司若頭の出身母体である弘道会系の組員が、分裂抗争相手の指定暴力団「池田組」傘下組織事務所にて発砲。銃撃された組員1人が死亡した。平穏な住宅街に響いた突然の銃声——暴力団取材の第一人者であるフリーライターの鈴木智彦氏が事件の背景を最速レポートする。

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 山口組分裂抗争の最終章が始まった。

  六代目山口組は暴力団らしく、力で相手をねじ伏せ、殺し、十年戦争を終息させるつもりのようだ。暴力団は殺してなんぼという弱肉強食の掟から逃れられない。社会規範を守り、物わかりがよく、暴力を行使しない暴力団なら、東映映画のピラニア軍団と変わらない。事件で世論が沸騰、取り締まりが激化し、自分の首を絞めるのは覚悟の上だろう。

 9月9日午後3時30分頃、宮崎市田代町にある池田組傘下組織・志龍会の事務所に、ひとりの訪問者があった。年配の男はインターホンを押すと宅配業者を名乗り、手に小さめの段ボール箱を持っていた。事務所のドアが開き、留守番の幹部が箱を受け取ろうとした瞬間、男は持っていた拳銃を幹部の胸をめがけて発砲した。近隣の住民は複数回の発砲音を聞いている。

 銃撃の衝撃なのか、撃たれた被害者はもちろん、ヒットマンも後方にはね飛ばされたように見えた。まるで見てきたかのように語れるのは、暴力団間のLINEで、防犯カメラの動画が回ったからだ。報道によると、犯人は作業着姿ということだったが、映像では上半身しか確認できず、ヒットマンは白いシャツを着ていた。銃口から被害者までの距離は30センチ程度で、強い殺意がうかがえる。

「銃撃後、犯人は現場から逃走せず、現場にとどまっていたらしい。志龍会本部付近で警戒中のパトカーが到着すると、両手を上げて自らパトカーに乗り込み、警察官に殺人未遂容疑で現行犯逮捕されたようだ」(警察関係者)

 被害者は市内の病院に運ばれ、その後、死亡が確認された。容疑は殺人に切り替わったが、警察は認否を明らかにしていない。とはいえ、ここまで腹をくくった犯行だ。弁明する気はないだろう。

 ヒットマンが業者を装うのは襲撃の定番である。昭和には、警察官が張り付き警戒中の事務所に、中華屋の出前を装って訪問、岡持ちに隠した拳銃で殺害した事件もあった。最近でもビールを運んできたふりをして来訪し、応対の組員に正体を見破られ、玄関先に瓶を投げ捨てて逃げたヒットマンがいる。

 現場付近の路上では、2016年8月にも暴力団による刺殺事件があった。現場の幹線道路は交通量こそ多く賑やかだが、志龍会本部の周辺は静かな住宅街だ。当時も、そして今回も、住民はひどく驚き、恐怖しただろう。

 犯人の素性はすぐに分かった。

  六代目山口組の中核組織である弘道会の傘下組織・稲葉地一家に所属する63歳の組員だった。容疑者の所属を聞いて筋書きが見えた。本件はまるで暴力団のお手本のような抗争事件である。実際、なにからなにまで、昭和の暴力団抗争を彷彿させる。

弘道会が抱える「ラーメン組長射殺」の負債

 山口組分裂抗争における殺人事件には2つのパターンがある。一次団体の存亡を懸けた事件と、地元の遺恨が原因となり、殺し合いに発展したケースだ。

 襲撃された志龍会はもともと六代目山口組の二次団体・石井一家から分裂した一派で、宮崎市の暴力団社会には、古巣の石井一家系と池田組系志龍会の根深い対立があった。前述した2016年の事件は石井一家の幹部が殺されたものだが、2020年と2023年には志龍会の幹部が刃物で襲われていた。

 宮崎市では抗争の火種が燻り続けおり、慢性的な緊張状態だった。いつなんどき暴発してもおかしくなかったのだ。

 しかし、今回のヒットマンは、志龍会と接点のない弘道会の傘下組織稲葉地一家の組員だった。では、六代目山口組弘道会に襲撃の動機はあるのか。

 弘道会には“負債”がある。2023年4月、神戸市長田区のラーメン店で直参組長が射殺された事件である。容疑者は今年2月、仙台市内のアパートに潜伏していたところを逮捕された絆會の金澤成樹若頭だ。逮捕時に所持していた拳銃と、ラーメン屋で発見された銃弾の線条痕が一致しているため、金澤容疑者の犯行はほぼ間違いないだろう。実行犯が確定した以上、直参組長を殺された弘道会は、身内を殺した組織に報復せねばならない。

 ならば弘道会はなぜ金澤容疑者の所属する絆會ではなく、池田組傘下の志龍会を襲ったのか。

「池田組では、分裂直後、若頭が弘道会系組員に射殺され、後任の若頭も六代目山口組傘下組織組員に銃撃された。池田孝志組長も理髪中に襲撃されている。ボディガードが返り討ちにしたが、池田組長は『組員を長期刑には行かせない』と公言している。代わりに絆會の織田絆誠会長に実行部隊を担当してもらい、代償として資金提供を約束したといわれている」(警察関係者)

 7月9日、池田組長と織田会長が大阪府警に逮捕された。織田会長の自宅と事務所に、池田組長の親族によって1億円の抵当権が付けられていたが、前出のラーメン店主殺害事件後、ほどなくして抹消されていたことが分かった。抵当権が消えたのは、金澤若頭が実行した殺しの報酬ではないのか、と憶測を呼んだ。事件が池田組の報復を代行したものなら、今回、弘道会が池田組を襲撃した理由も分かる。

志龍会が狙われた理由

 宮崎の志龍会を襲撃した理由もはっきりしている。

 六代目山口組と池田組は暴対法による「特定抗争指定暴力団」に指定されており、池田組本部や関連施設のある岡山市は警戒区域に指定されている。岡山市内では組員が5人以上で集まることや、事務所への立ち入りが禁止されているのだ。

「弘道会のネットワークを駆使すれば、池田組関係者の立ち回り先は調べられる。池田組長は無理でも、幹部や組員なら襲撃できるだろう。しかし、そうなれば下調べをしたり、縁故を頼ったり、事件の関係者が増えてしまう。運転手や案内役なども必要になり、複数でチームを組まねばならず、大がかりな襲撃になってしまう。ヒットマンを現場に運んだ運転手でさえ懲役20年となるし、人数が増えれば上層部の関与に繋がるほころびも生まれやすい。かなり危険な賭けになる」(同前)

 しかし、宮崎市の志龍会事務所は警戒区域になっていない。事務所は機能しており、訪問すれば組員に会える。ヒットマンは犯行を単独で完結させたかったのだろう。そのためわざわざ九州に上陸し、事務所を訪問したと推測できる。

 組織的な殺人にならないよう、細心の注意を払った犯行には、暴力団の反社会性が濃縮されている。

■取材・文/鈴木智彦(フリーライター)

 

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