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【女性初の総理は生まれるか】長野智子氏、辻元清美議員、伊藤孝恵議員らが語る「今こそ女性リーダーが必要な理由」

NEWSポストセブン 2024年9月15日 7時15分

「自民党が変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」と、岸田文雄・首相が突然の不出馬宣言したことで、急転直下幕を開けた自民党総裁選。かつてない数の候補者の中で、期待が高まるのは“女性初の総理”が生まれるかどうかだ。

「今回の総裁選は自民党が本当に変わるか、変えられるのは誰かが問われる選挙」「自民党が真に変わるには改革を唱えるリーダーではなく、改革を圧倒的に加速できるリーダーを選ぶことだ」

 9月6日、小泉進次郎元環境相(43才)が力強く語り、出馬を表明したことで3年ぶりの総裁選はさらに熱を帯び始めた。“大本命”と目される進次郎氏のほか、候補者に名乗りを上げたのは、小林鷹之前経済安全保障担当相(49才)、石破茂元幹事長(67才)、河野太郎デジタル担当相(61才)、林芳正官房長官(63才)、茂木敏充幹事長(68才)、高市早苗経済安全保障担当相(63才)、加藤勝信元官房長官(68才)、上川陽子外相(71才)で、史上最多の戦いとなる。

“総裁選常蓮”もいれば、“新参者”もいるなか、注目されているのが女性候補者たちの動向だ。2021年に行われた総裁選では、高市氏、野田聖子元総務相(64才)が出馬した。元自民党政務調査会調査役で政治評論家の田村重信さんが一連の動きについて解説する。

「背景には派閥が解散されたことがあります。これまでの総裁選は派閥をベースに展開され、各派閥から出られる候補者は1人と相場が決まっていた。派閥で汗をかくことで総理総裁を目指してきたわけです。が、その派閥がなくなったことで、当選の可能性が低くても総裁選に出て自分の政策を訴えられるという変化が表れました。女性議員も当たり前のように、総理総裁を目指せる形になってきたということです。加えて国民からの、“女性ならではの政治”への期待感を受け、女性候補の推薦人をやろうという議員も出ています」

女性に必要な政策がなされていない

 田村さんが指摘する通り、世論からも「女性総理」を望む声は小さくない。フリーアナウンサーでジャーナリストの長野智子さんも“女性の台頭”に期待する。

「政府は少子化問題や女性活躍について、それこそ一丁目一番地と掲げながら、女性が共感できる政策が何ひとつまったく進んでいない。ジェンダーギャップ指数は発表されるたびに日本は低位でくすぶっています。国会などで取材していても女性政策が的を射ていないのは、やはり女性議員が少ないからなんですね。衆議院に至っては女性比率が1割ですから。やはり当事者しかわからないことが、理解されていないと思うんです。

 経済が停滞し、人口がどんどん減少して、労働力としての女性が必要だという時代にあって、その女性に必要な政策がなされていないという状況はこの国の根幹にかかわる問題です。いま、女性の総理が誕生すれば政策の優先順位も変わってくるでしょうし、閉塞感のある時代が長く続いたこの国を転換するチャンスにもなると思います」

 性別役割分担の無意識の思い込みについて考えるきっかけにしてほしいと、日本には存在しない女性総理をテーマにした絵本『はんなちゃんそうり』(三恵社)を執筆した国民民主党の伊藤孝恵参議院議員が続ける。

「少子化と女性の生き方・働き方をリンクさせる政治家は多いですが、そろそろその時代錯誤な認識は改めていただかねばなりません。先日、政府が東京23区に在住・通勤する女性が“移住婚”をしたら60万円支給するとした政策が炎上、撤回されましたが、自民党少子化対策調査会からも“Uターン結婚したら奨学金を3分の1免除。第1子出産で3分の2免除。第2子出産で全額免除”とした提言が出されています。

 唖然とします。いまや学生の2人に1人が奨学金を借りており、それらが結婚や出産を躊躇する理由になっているので対策が必要だとする問いの立て方は合っているのに、着地がことごとく浮世離れしてしまう。これを解消できるリーダーが必要です」

女性がトップの国は成功している

 イギリスのサッチャー氏、ドイツのメルケル氏、韓国のハン・ミョンスク氏、イタリアのメローニ氏など、海外に目を向ければすでに国のトップを女性が務めることは珍しくない。2017年に女性初の国対委員長を務め、立憲民主党副代表などを歴任した辻元清美参議院議員が指摘する。

「世界を見ると、国のトップが女性というのは当たり前の状態になっていて、16年もの長い期間で政権を担ったドイツのメルケル前首相は象徴的な存在でした。同様に北欧では女性の政治家の比率が高く、アジアでも台湾の蔡英文前総統をはじめ女性のトップがいます。日本にはまだ、その“当たり前”がない。女性リーダーが率いる国は経済も安定して成長しているところが多いし、危機にあっても適切な対応が取れていると感じています」

 その具体例として、辻元議員は新型コロナ対策を一例に挙げる。

「新型コロナ感染拡大にあたって、ニュージーランド、台湾、ドイツといった女性リーダーのいる国では比較的感染拡大を抑え込むことに成功しました。素早い判断、明確なメッセージ、国民とのコミュニケーションや寄り添う姿勢が所以だと海外からも評価された。

 経済に関しては、特に北欧で顕著ですが、手厚い社会保障制度を維持しつつ、経済成長を達成しています。ノルウェー、アイスランド、デンマーク、オランダ、スウェーデン、フィンランドは1人当たりGDPの上位国(15位以内ぐらい)で、日本(34位ぐらい)とは大きく違います。いずれも女性首相が誕生、定着した国で、女性の持つ“共感力”と“人の話や思いを踏まえて物事を動かそうとする参画”の意識が成功に導いている。日本での女性総理の誕生は、時期を待つのではなく、いまこそ求められているのです」

 実際、自民党内からも女性の起用、リーダーの選出という動きがないわけではない。

「近年、経済界などを見ても女性管理職は増え、女性ならではの特徴を見せながら成功を収めている。世界的な政界への女性進出という流れも否定的ではない。同様の流れを進めるという考え方は定着しています。

 男だけだと、政策づくりなどに発想の限界がある。そこに女性の視点を入れて政策を構築しなければならないこと、女性議員の比率を増やした方がよりよい政策をつくれることは、党内の意見も一致しているところです」(田村さん)

 ただし、日本は女性の社会進出すらまだ発展途上にあり、懸念すべき点もある。

「残念ながら、女性リーダーを育成する仕組み、取り組みがまだまだ充分とは言えません。経済界で女性の総合職を増やしたり、地方議会で女性議員が増えているのは事実ですが、“女性に経験を積ませよう”という仕組みがない。単に、女性を起用してさえおけばいいと安易な形で据えるケースも見られます。

 わかりやすい例として、岸田内閣が5人の女性を閣僚にしたことがありました。これは過去最多で話題になりましたが、一方で政務官、副大臣の人事では全員が男性でした。つまり、女性の議員に政務官や副大臣の経験を積ませるということはやらせませんでした」(長野さん)

 伊藤議員も指摘する。

「閣僚への“シンデレラ登用”と、副大臣や政務官の“女性ゼロ”は、日本政治の深刻な闇だと言えます。いきなりの大臣抜擢が、どういう実績や経験によるものなのか、リーダーが説明できなかったことで、やっぱりパフォーマンスなのか、結局は派閥の論理なのかと落胆しました。また副大臣や政務官ポストはいわば“人材のプール”。本来はここにこそ、多様性を備えなければいけません」

 経験値が低いままリーダーになることで、さらなる不幸が生まれると長野さんは続ける。

「経験が少ないまま大臣に抜擢されても、うまくいかず成果をあげられないこともあるかもしれない。これは政界だけでなく、経済界でも同じことがいえる。そうすると、社会は女性をバッシングします。本人にとっても、組織にとっても不幸なばかりか、非生産的でますます事態が悪化することすら考えられます」

 期待と不安の両方をはらみながらも、女性総理誕生に込める希望は大きい。

「世界を見渡しても、女性の総理や大統領が生まれるのは、その国になにかしら非常事態があった場合が多いんです。いまの日本の政治状況を見ると、自民党が、裏金問題で信頼を徹底的に失ってしまい、日本政治を回してきた派閥が解体したというまさに非常事態です。

 だからこそ、経験のある女性が総理になるチャンスでもある。同様に、私たちも政治任せにするのではなく、投票に行くなど政治参加への意識を高めることが大切です」(長野さん)

 伊藤議員は、ニュージーランドの首相を5年にわたって務めたアーダーン氏の例を挙げ、こう話す。

「2018年、ニューヨークで開かれた国連総会に事実婚の夫と生後3か月の子供とともに出席した女性首相の姿に私は衝撃を受けました。ニュージーランドの子供たちは、自国の無数の可能性を、このたった一枚の写真から感じ取ったはずです。

 一方、日本の政治家は、盛んに男女共同参画が必要だ、多様性の時代だと言いますが現実はそうではない。女性総理は期待されるだけでなく、実際に生まれることが次世代への大きなメッセージになるのです」

 決戦は9月27日。日本はどう変わるのか。

※女性セブン2024年9月26日・10月3日号

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