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《俳優生活60年の若林豪》受け入れた“老い”「髪が薄くたっていい」「セリフが入りづらい」明かした人生最後の想い「もうあと1本セリフの少ない役を」

NEWSポストセブン 2024年9月27日 15時59分

 1965年に、劇団「新国劇」に入団し俳優デビューした若林豪さん(85)。舞台からドラマ、映画へ幅を広げ、活躍を続けた。2008年、68歳のとき、舞台出演中に慢性硬膜下血腫で倒れる悲運もあったが、見事に復活。近年も映画や舞台で活動を続ける若林さんの、老いの受け入れ方、家族のこと、そして自身の思い描く終幕とは──。【前後編の後編。前編から読む】

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 役者として60年近くやってきて、『赤い霊柩車』シリーズがもっとも長い期間演じたことになります。当然、時の流れとともに共演者はみんな老けます。監督は僕らに「若々しくいてほしい」と言うから、僕と神田君も白髪になってからは染めて、僕は髪が薄くなってからはメイクさんにハゲ隠しをポンポン振りかけてもらっていました。「後ろだけ、ちょっとふりかけて」と言ったら、食べる“ふりかけ”と間違えたメイクさんがいて笑いましたが(笑)。

 そんな薄毛対策をするのは、『赤い霊柩車』のときくらいでした。ほかの作品は何もしていません。だって、僕はもう今年85歳。髪が薄くたっていいじゃない。まったく悩まない。ショーン・コネリーはハゲていても格好いいじゃないですか。だから、僕も鏡を見て「薄くなってきたな」と思ったときに「よーし、オレもハゲたぞ!」って。逆らわずに受け入れました。

 しかし、髪の毛では落ち込みませんでしたが、68歳のときの慢性硬膜下血腫で舞台を途中降板したときは落ち込みました。あれが役者として一番つらい出来事でした。その頃からセリフが入りづらくなって、これも辛いことでしたねぇ。以前は台本を3回読めばだいたい頭に入ったのに……。

 だから、同じくらいの年齢の役者がセリフをどんどん覚えて蕩々としゃべっているのを見ると、ジェラシーを感じてね。ストレスに感じて、一時はテレビドラマをあまり見ることができませんでした。このストレスこそ、頭が薄くなる原因ですよ。

 こういう“老い”は乗り越えていません。でも、どんなに賢い人もみんな老いは迎えるのです。人によって差はありますけどね。僕の師匠の俳優・島田正吾は97歳で新橋演舞場に1人で3時間立ちましたけど、そういう人はそうそういない。特別なんです。だから、私はそのまま受け入れる。そして、笑って過ごすんです。

2025年公開の映画に出演

 去年と今年は「声の花束」という朗読劇をやりました。打ち上げパーティーで気分が良くなって、珍しくビールをグッと飲んだら、目の前に霧がかかったようになって、自分が何を言っているのかわからなくなって、立てなくなってしまいました。お酒はもともと弱いんだけど、あんなことは初めてでした。

 今年は2月に『神ノ島』という戦争映画を撮りました(出演した)。来年公開予定です。少ないスタッフがひとつになって、お金をかけずに撮って、小さな劇場で公開する小さな作品。もうお金をかけて大作を作れば大入りする、という時代じゃないですよ。『神ノ島』はいい作品です。ただ、自分としてはセリフを完全に覚えて行ったのに、いざ本番に入ると一言も出てこなくて……辛かったですね。

 飲んでいなくても、ときどき頭の中にモヤがかかったようになるし、「演じるのはもういい」と思った時期もありました。でも、今はもうあと1本、セリフの少ないものをやってみたいな、という気持ちになっています。みなさんに「大丈夫ですよ」と言われても調子づかないようにしないと、とは肝に銘じています。そうしないと、俳優人生最後にして間違いをおかしかねない。そうならずに終えたいですね。

「明日死んでもニッコリ笑って逝けますよ」

 振り返ると、共演者を家に呼ぶような、家族ぐるみの付き合いをした俳優仲間はいませんでした。別に秘密主義じゃなくて、子どもが5人──息子が3人、娘が2人いましたから、家の中がシッチャカメッチャカで家に呼べなかった(笑)。子どもが1人こっちで泣けば、ほかの子があっちで笑って。お手伝いも2人いたんだけど、とても追いつかない。でも、子どもはかわいかった。あのかわいさはどこにいったのか(笑)。今は本当にニクタラシイ。でも、やっぱりかわいいです。

 孫は23歳から小学校1年生まで7人います。一番下の女の子は次女の子どもで、ドイツ人とのハーフ。かわいくてたまらんね! 目に入れても痛くない、とはこのことか、と。もっと会いたいけど、愛媛にいますからなかなか会えない。その子にあげようと思って、毎日500円玉貯金をしています。電話をかけると「じいじ、貯まった?」と聞くのがこれまたかわいくて、毎日電話してしまう。だいたい同じ時間に電話をするから、僕だとわかるんでしょうね。最近は電話に出なくなっちゃった(笑)。

 仕事でもプライベートでも、やることはやって楽しんだから、もう明日死んでもニッコリ笑って逝けますよ。みなさんに「いざとなるとバタバタと慌てふためくよ」と言われ、そうなるかもしれない、とも思いますけど、これ以上長生きすると周りに迷惑かけますしね。みっともなくメソメソせずに、今なら女房の手を握って「ありがとさん」と感謝を伝えて、子どもたちにも「たくさん喜ばせてくれてありがとう」と言える気がします。これができれば素敵な人生!

 こんなことを言っていると、女房が「あなた、死にたい、死にたい、って言うわりにちゃんと薬飲んで、ちゃんと運動してるじゃない。よく言うわ」と言うんですよ。確かにそのとおり。何も言えません(笑)。

(了。前編から読む)

◆取材・文/中野裕子(ジャーナリスト) 撮影/村上庄吾

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