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中国在住日本人を怯えさせる“憎悪の声” SNS上には「日本人学校はスパイ養成機関だから監視しよう」「大きな刀で日本人の首を…」の過激投稿

NEWSポストセブン 2024年9月30日 16時15分

 中国・深セン市の日本人学校に通う男児が殺害された事件の現場は、目を覆いたくなる惨状だった。

 元朝日新聞中国特派員でジャーナリストの峯村健司氏が言う。

「被害者は日本人の父と中国人の母との間に生まれた10歳の男児でした。母親と一緒に自転車で登校していたところ、日本人学校からわずか200メートルほどのところで男に襲撃されました。日本人学校の児童を狙おうという執念を感じる計画的な犯行でした。男児は太腿や腹をメッタ刺しにされており、刃物は肝臓まで届いていたといいます。集中治療室に運ばれましたが、出血多量で亡くなりました」

 地元メディアの報道によると、容疑者は「鐘」という姓の44歳の無職の男性で、「公共物破壊」など、2度の前科があった。

 事件後の23日、ニューヨークの国連本部で中国の王毅・外相と会談した上川陽子・外相は、容疑者の動機を含む事実解明や日本側への説明を求めたが、王氏は「冷静かつ理性的に対応すべきで、政治問題化や問題の拡大は避けるべきだ」と応じるのみだった。

警備強化は日本側の負担

 今後、中国側による事実解明はなされるのか。中国取材歴のある全国紙記者はこう言う。

「日中間で実際に政治問題化している以上、容疑者の動機などの詳細はこれ以上出てこないと見られる。中国の裁判は基本的に非公開で進むため、量刑などをメディアが追い続けるのは難しい」

 中国側が子供たちの安全確保にどこまで真剣に対応するのかも不透明だ。事件後に上川氏は中国の日本人学校の警備強化のため、外務省の今年度予算から4300万円を拠出すると発表した。警備強化は日本側の負担によって進めなければならない現状があるということだ。

 事件後、深センの日本人学校の校門前には花が手向けられ、「日本人学校」の文字はカーテンで覆い隠されていた。

 犠牲となった児童と同じ日本人学校に子供を通わせる保護者たちに現地で話を聞くと、事件による動揺が伝わってくる。

「この辺りは高層マンションが立ち並ぶ住宅街で、とても静かな場所です。また、中国なので街中に監視カメラがあり、セキュリティーが非常に高い。日本人の間では、『日本よりも安全だよね』などと話していた矢先のことだったので、驚きを隠せません……」

「深セン市南山区は外国人が多く、治安の良いエリアで、日本人だからという理由で怖い思いをしたことは一度もありませんでした。娘が被害に遭われた男児と交流があり、『優しいお兄ちゃんだよ』と教えてくれました」

「職場には中国人スタッフが多くいますが、事件が話題になることはなく、重大にとらえている様子もない。在住日本人との認識の差を感じます」

「日本人学校を監視しよう」

 日本人学校の児童が狙われた背景には、中国社会で増幅される「日本人憎悪」があると見られている。

「習近平政権の愛国教育の強化により反日感情が高まっている。中国のSNSには『日本人学校はスパイの養成機関だからみんなで監視しよう』との書き込みが相次いでいました」(峯村氏)

 そうした憎悪が現実世界にまで溢れ出している。今年6月、江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスが襲われ、日本人親子がけがを負った事件では、犯人を止めようとした中国人女性も刃物で刺され、亡くなるという悲劇も起きた。

「中国のSNSでは犯人が英雄視され、犠牲となった中国人女性については『日本人を助けるなんて』と売国奴扱いされている」(峯村氏)といい、今回の事件後も〈大きな刀で日本人の首を叩き切れ〉といった過激な投稿が溢れた。厳しいSNS検閲で知られるはずの中国政府はそれを取り締まる様子もなく放置している。

 この現状をこのままにしていいはずがない。

取材協力/角脇久志(香港在住ジャーナリスト)

※週刊ポスト2024年10月11日号

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