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《芸能人とヤクザの黒い交際》「沖縄のドン」から追放された羽賀研二容疑者と弘道会幹部の20年の蜜月 「幹部から4億円を借りていた」

NEWSポストセブン 2024年9月28日 17時30分

 再び芸能人と暴力団の「黒い交際」が世間を賑わせることになった。虚偽の不動産登記を行なったとして逮捕されたタレントの羽賀研二容疑者。共犯として逮捕されたのは六代目山口組の中核組織幹部だった。羽賀容疑者とは一体どういった関係だったのか。暴力団取材の第一人者のフリーライター・鈴木智彦氏が最速レポートする。

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 9月25日、タレントの羽賀研二(63)が逮捕された。虚偽の不動産登記を行い、強制執行を妨害したなどの容疑である。

 本土から沖縄に戻った羽賀を、北谷町の自宅前で待ち受けていたのは愛知県警だ。同時に逮捕された共犯の6人には、六代目山口組の中核団体である弘道会のナンバー3・稲葉地一家総裁の松山猛容疑者(69)や、日本司法書士会連合会の副会長を務める野崎史生容疑者(57)など、愛知県下の大物がいる。

 翌日、日本司法書士会連合会のサイトには、小澤吉徳会長の談話が掲載された。「報道内容が事実であるとすれば、そのような行為は到底許されるものではなく、極めて重大な事態であると厳粛に受け止めています。当連合会の役員から逮捕者が出たことは誠に遺憾であり、国民の皆様に不安を与えたことにつきお詫び申し上げます」

 社会的影響の大きさを考えると、羽賀容疑者は完全にかすんでいる。犯罪容疑の内実は稚拙で平凡だ。

 羽賀容疑者は今回が3度目の逮捕だが、すべては最初の事件と地続きである。羽賀容疑者は単に過去を清算できず、自分のケツを拭かないまま、ずるずると解決を引き延ばしているだけだ。かつて俳優の梅宮辰夫は、愛娘と交際していた羽賀を「希代のワル」と呼んだらしいが誇大表現である。実際の行動は、根っからの小悪党と評するのがふさわしい。

 小悪党だけに、犯罪履歴が分からないと事件が見えないので、少々、説明する。実際、なにをしでかしたのか、よく分かっていない読者も多いのではないか。

羽賀研二容疑者の犯罪履歴

 まずは2001年、羽賀容疑者が知人の不動産会社社長に、経営破綻した医療関連会社の未公開株を売りつけ、約3億7000万円を手にした。買値の3倍で売りつけていたため2億円以上の利益が出たとされる。

 不動産会社社長は、これに未返済だった融資の3000万円をプラスし、約4億円の返還を求めた。

 すると交渉場所の大阪市内のホテルに山口組関係者である元ボクシング世界王者の渡辺二郎などが来訪し脅迫された。結果、債務の約4億円を1000万円の支払いでチャラにする確認書に署名させられてしまう。2007年6月、関係者は逮捕され、恐喝の共犯でもある羽賀容疑者は2013年に懲役6年が確定し、沖縄刑務所に服役する。

 その後、裁判所は被害者に対して約4億円の支払いを命じる。すると羽賀容疑者は当時の妻と離婚し、財産分与として不動産を譲渡した。これが偽装離婚による財産隠しと認定され、2020年に懲役1年2か月が言い渡される。羽賀容疑者は再び沖縄刑務所に逆戻りとなった。

 今回も不動産登記を変更した動機は、最初の詐欺事件を巡って言い渡された4億円の被害弁済と推測される。強制執行によって所有する沖縄県北谷町のビルなどが差し押さえられる可能性があったため、知人とともに不動産管理を業務とする会社を設立、その会社名義にした事実が嘘の登記とされ、強制執行妨害目的財産損壊等(財産の隠匿)の容疑により、関係者一同が逮捕されたのだ。

「羽賀研二だけは連れてくるな」沖縄ヤクザのドンの怒り

 当方がヤクザ専門誌である『実話時代』編集部に入社し、住吉会系幹部の連載をしていた頃、羽賀研二との交流を知り、初めて黒い交際を目の当たりにした。その後、暴力団を使って債権者を脅迫した経緯をみても、羽賀容疑者が暴力団と近い距離にいたのは明白だ。

 もちろん当時は暴排条例などなく、暴力団との交際はモラル的に問題があっても犯罪ではない。暴力団は興行をシノギにしていたため芸能界と関係が深く、当時はよく芸能人のディナーショーなどを主催していた事情もある。今の物差しで羽賀容疑者を断罪するのは行き過ぎだ。

 ともあれ、そういう経緯なら、ヤクザ筋に当てれば事情が分かるかもしれない。羽賀容疑者は沖縄生まれで、所有していた土地や自宅もまた沖縄にある。まずは沖縄の指定暴力団・旭琉会に兄弟分がいる広域団体幹部に訊いてみた。

「亡くなった沖縄のドン、富永親分(富永清・旭琉会初代会長。2019年7月没)は、沖縄出身者を分け隔てなく可愛がっていた。スポーツ選手も芸能人もウチナーンチュ(沖縄生まれの人)なら応援した。でもたったひとり、羽賀研二だけはNGなんだそう。なにがあっても絶対に連れてくるなと厳命されていたと聞く」

 羽賀容疑者が所有する不動産について質問したのだが、地元の人間にしか事情は分からないという。そこで北谷の不動産業者を紹介してもらい連絡した。彼曰く、北谷の現役暴力団たちも、やはり羽賀容疑者とは関係を持たないようしていたという。

「欲深いヤツなら、北谷の不動産を手放したくないだろう。東日本大震災からずっと値上がりし、インバウンドが復活し、海外からの投資もあって、1日で倍になるなど、でたらめな値段だからさ。羽賀研二? 現役の人らはみな交流しないようにしてたからね。そもそも羽賀と付き合ってさ、いいことなんかなにもないよ」(北谷在住の不動産業者)

 地元の暴力団から蛇蝎のように嫌われていた羽賀容疑者に手を差し伸べたのが、弘道会のナンバー3である稲葉地一家・松山猛総裁だった。

共犯ヤクザは「山口組分裂抗争」の功労者

 2人の接点はどこにあったのか?

 羽賀が2度も“刑務所務め”をしているので、最初は、塀の中で知り合ったのかと予想した。しかし、収監された刑務所は違う。実際はもっと古い付き合いだという。

「もう20年以上前からの付き合いだと聞いている。刑務所に入るときも相談を受け、なにかにつけて面倒をみて、金に困ったときはずいぶん貸したそうだ」(松山容疑者と付き合いのある他団体幹部)

 実際、松山容疑者は関連の不動産会社から、羽賀容疑者に約4億3000万円を貸し付けていた。もし羽賀がパンクすれば、北谷の不動産を担保にすればいいと考えていたのかもしれない。

 愛知県警は羽賀容疑者に不動産収入があり、松山容疑者が旧知の司法書士を使い、嘘の登記を指示したとみている。が、松山容疑者が羽賀を食い物にしようとしたわけではないだろう。金欠になれば金を貸してくれとせがまれ、問題が起きれば面倒を押しつけられるだけなら、もはやトラブルメーカーでしかない。それに松山容疑者は暴力団社会で最もホットな人物だ。芸能人くずれを食い散らかす必要はどこにもない。

 ヤクザは一種の人気商売である。

 彼らの人気は喧嘩の強さに比例し、発言力もまた殺した喧嘩相手の人数に伴って増大する。そのためヤクザ社会には昔から「喧嘩に勝てば金が湧く」という格言がある。

 稲葉地一家は、今回の山口組分裂抗争で、4人もの関係者を殺害した。

 まずは2016年7月に山健組の元組員を殺した。2019年10月には、当時、神戸山口組の主流派だった五代目山健組の定例会にヒットマンを来訪させ、実話誌のカメラマンを騙って2人の幹部を射殺している。そして今年9月9日、宮崎市の池田組系事務所に、宅配業者に扮した稲葉地一家のヒットマンが訪問、荷物の受け取りに出てきた留守番の幹部を撃ち殺した。六代目山口組にすれば、金鵄勲章ものの功労者だ。

 業界内の評判もいい。

「友好団体で抗争があり、犠牲者が出た時にも、必ず自分が身体を運んで葬儀に出ていた。カタギに対しても人当たりがよくたくさんのブレーンがいる。シノギで逮捕されるような危ない橋を渡る必要などまったくない人」(同前)

 暴力団社会では時の人だけに、松山容疑者を逮捕した愛知県警は高く評価されるだろう。

「パクるだけで相当なポイントだから、勇み足で逮捕したのかもしれない。起訴できるかもまだ分からないし、虚偽の登記とはいっても、有名な行政書士が入っていたのだから、スレスレとはいえ、あくまで合法的な対処だった可能性もある」(警察関係者)

 合法な処置でなければ、日本司法書士会連合会の副会長が手を貸すとも思えない。司法書士は弁護士同様、法律の専門家だけに、もともと暴力団と接点の多い業種である。松山容疑者と野崎容疑者の接点も、合法的な事業で生まれたのではないか。とはいえ、有名ヤクザとの交流をおおっぴらにはできず、社会的制裁は避けられないはずだ。

 地方のコミュニティが形作るヒエラルキーの中で、暴力団は未だその上位に位置し、地元有力者の一員として存在している。今回の事件のキモは、地方都市に蔓延(はびこ)る前時代的な特異性をあぶり出したことかもしれない。

◆取材/文:鈴木智彦(フリーライター)

 

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