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調教師・蛯名正義氏が考える「新馬戦」の読み解き方 新聞の調教欄に隠されているヒント、注目は「どんな馬と併せたか」

NEWSポストセブン 2024年10月5日 11時15分

 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、前回に続き2歳馬のデビューについてお届けする。

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 前回は新馬の調教タイムについての目安についてお話ししました。ただ調教に対する考え方やセオリーは厩舎ごとで異なります。坂路はあまり使わないで、ウッドチップコースを多用して仕上げようとする厩舎もあります。また本番に向けて実戦なみにビシビシ追う厩舎もあれば、稽古はあくまでも稽古で馬なりがメインという厩舎もあり、一概には言えません。本数にしても、最近は入厩前の育成牧場でしっかり乗り込んでいるケースもあり、新聞の調教欄だけで判断することは難しいとは思います。

 とはいえ、提示されているからには、さまざまなヒントが隠されています。時計が速い遅いとは別に、格上の馬と併せて食い下がっていたりすれば、厩舎としてもかなり期待していると言えるかもしれません。どんな馬と併せたかはチェックしておくのもいい方法ですね。相撲も強い相手と稽古した方が、力がつくと言いますし、メンタルがしっかりしてくることもあります。

 調教師が設定した課題を乗り役が実行し、馬がそれに応えられたかどうか。上がりの時点でバタバタになっていたりしてはまだ仕上がり途上なのかもしれません。回を重ねていくうちに疲労が見られたりしたらデビューの予定を見直すこともあります。

 なお調教欄に斤量は出ていませんが、一般的に助手よりも騎手の追う騎乗技術が優るし、体重も軽いので時計は出やすいと思います。またウッドチップコースは稍重ぐらいだと時計が速くなることはあります。

 僕も新人ジョッキーの頃から調教に乗りましたが、最初は指示通りに走らせるのが難しかったことを覚えています。どうしても速くなったり遅くなったり。時計だけでなく、例えば「前半はハロン15秒で行って、前の馬が速くてもガマンさせて……」といった指示に対しイメージ通りにできなかったりしました。馬は基本的には走りたくないので、走るのが嫌にならないよう、他の馬を怖がらないようにしなければならないということもあります。

 それでも、自厩舎の馬をずっと調教していくうちに、いろいろ覚えていってくれていると実感できることはありました。いわゆる「難しい馬」―掛かり癖のある馬、走りたがらない馬、もたれる馬、反抗心の強い馬などでも、だんだんコンタクトが取れるようになったときは、何とも言えない気分でした。

 騎手として実績を積んでいくと、こちらの意見もある程度取り入れてもらえるようになります。そのためには厩舎や馬主さんとの信頼関係を築いていくことも大事でした。

 調教で馬をつくっていくことと、レースで力を発揮することは同じぐらい大切です。調教でジョッキー以上に馬を動かすことが巧みな助手もいれば、リーディング上位に名を連ねていなくても、「調教名人」と言われるジョッキーはいるのです。

 デビュー戦の鞍上は馬主さんの意向が優先されますが、調教師に任せてくれるという時には、日頃から調教に乗っていて癖や性格がわかっているジョッキーに乗ってほしいと思います。

【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。

※週刊ポスト2024年10月11日号

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