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【埼玉運送会社社長殺人】懲役17年判決を受けた被告の嘘とデタラメ 被害者の親友は「酷い形で恩を仇で返された…」

NEWSポストセブン 2024年10月1日 6時59分

 昨年8月に埼玉県三郷市の運送会社敷地内で社長の男性を刺殺したとして殺人罪などに問われた内田洋輔被告(30)の裁判員裁判が9月にさいたま地裁で開かれ、同月6日、室橋雅仁裁判長は懲役17年の判決を言い渡した(前後編の後編。前編から読む)。

 埼玉県三郷市の運送会社「AKトランス」敷地内で、同社を経営していた大川幸一郎さん(52=当時)が殺害されたのは2023年8月29日夜のこと。従業員からの通報を受け警察官が駆けつけたところ、意識のない状態で駐車場に倒れている大川さんを発見。病院に搬送されたがまもなく死亡した。駐車場には広範囲にわたり血痕が残されており、大川さんの上半身は包丁で滅多刺しにされていた。

 内田被告は9月2日にさいたま地裁で開かれた裁判員裁判初公判で「間違いありません」と公訴事実を認めた一方、冒頭陳述で弁護人は「『やられる前にやった』……出頭した内田さんはこう話しました」と、大川さんとのトラブルを主張した。ところが公判で取り調べられた証拠からは、むしろ内田被告が借りた金を大川さんに返済していなかったことが分かった。

出所した加害者の面倒を見ていた

 内田被告は「(借金についての)話し合いの日にAKトランスの事務所のテーブルの上にドスや警棒が置いてあって、ソファには金属バットが立てかけられていた」とも語り、大川さんを恐れているような発言を繰り返していたが、検察官の質問からは全く異なる構図が浮き彫りになった。

 事件前夜、内田被告は「返済できる金ができたから会ってほしい」と大川さんに嘘をつき、事件当日に会うことになったのだという。また事件2日前、大川さんと夕方から会うことになっていたが、その約束を大幅に遅れ、21時ごろに会社に到着した被告は「友人などと一緒にいました。大川さんとの約束より友人との約束を優先した」と遅刻についても悪びれることなく語った。「恐怖を感じるというより関わりたくないと感じていた」からだという。

 しかし、内田被告が出所の折、大川さんとともに刑務所まで迎えに行った大川さんの親友A氏は、公判を傍聴し、内田被告の発言に疑問を抱いていた。

「大川は準構成員だなんてデタラメですよ。暴力団構成員だったのは内田のほうです。大川さんはカタギだからこそ内田の父親も、出所後に大川のところに行き『面倒を見てやってください』と頭を下げてきたんです。また事務所にドスやバットが置かれていたなんて言っていましたが、事務所からも自宅からも見つかっていません。嘘ばかりですよ」(A氏)

 内田被告が元暴力団構成員だったことは、裁判でも認められている。

 公判には大川さんの内妻が証人として出廷し、内田被告と大川さんとの間で何があったかを語った。内田被告には少年時に覚醒剤取締法違反や傷害など複数の前歴、成人後も脅迫や2件の詐欺未遂などの前科があり、二度服役していた。内妻によれば、内田被告が一度目に服役したころ、大川さんは知人から内田被告の面倒を見ることを頼まれ、これまで世話をしてきたのだという。

「『(内田被告が)また罪を犯さないように、大川の会社で使ってやってほしい』と頼まれていたので、(内田被告の)支援をしていました。仕事が決まるまでの一人暮らしの費用や、運送会社のドライバーとして働くことができるようになるための免許合宿費用など、すべて大川が出していたと聞いていました。また大川以外からも内田は金を借りており、ほとんど返済していませんでした」(内妻の証言)

「お金の目処がつきそう」と言われ……

 事件2日前、内田被告が大幅に遅刻してきた話し合いにおいても大川さんは〈悪い道に進まないよう、仕事して安定した収入が得られるように……〉と内田被告に伝えていたと内妻は語る。事件前日に大川さんは、AKトランスで働き、借金返済をするよう内田被告に提案したというが、内田被告は「解体の仕事はしたことないのでできない。仕事というのは相性があるのでできない」と答えたという。

「『大丈夫だから、頑張るんだぞ』と大川が伝えても、内田は『できない、やりたくない』と言っていました」(同)

 話し合いは事件前日もまとまらなかったが、帰宅後の夜中に「内田から連絡が入って、『お金の目処がつきそう。少しだけでも会ってくれないか』と言われたため、翌日の事件当日に会う約束をしました」と内妻は言い、泣きながらこう続けた。

「大川は社交的で明るくて子供が大好き。とても優しい人でした。妹に障害があって、2人で介護してきましたが、今後どうやって介護していったらいいんかな、と話していたところでした」

 検察官は「被告や家族が危害を加えられる危険性、すなわち『やられる』状況があったとはいえない。二度の服役を経て、繰り返し内省や更生の機会を与えられてきたが、それを活かさずに出所わずか7か月で短絡的に殺害を実行した」と内田被告に懲役18年を求刑。9月6日にさいたま地裁は「危険が差し迫っていたわけではない。他の方法を取るべきだったのに殺害を決意した」と懲役17年の判決を言い渡した。内田被告は9月20日付で控訴している。彼は大川さんへの恐怖からではなく、単に借金返済を逃れるために滅多刺しにしたのではないか。

 控訴を受けて、大川さんの親友・Aさんは言う。

「散々気にかけて面倒を見てきたのに、本当に酷い形で恩を仇で返された。そして更に量刑不当で控訴している。遺族の気持ちをどう考えているのか」

(了。前編から読む)

◆取材・文/高橋ユキ(フリーライター)

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