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石破茂新首相と高市早苗氏、勝負を分けた「5分間」 高市氏の最後の演説はなぜ心に響かなかったのか?臨床心理士の分析

NEWSポストセブン 2024年10月4日 7時15分

 自民党の石破茂氏が新首相に選出され、内閣が発足した。さかのぼること1週間前、自民党の総裁選で最初の投票でトップだったにもかかわらず決選投票で敗れたのが高市早苗氏だ。勝負を分けたのは何だったのか? 臨床心理士の岡村美奈さんが、決選投票前の高市氏による演説について分析する。

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 9月27日の自民党総裁選、決選投票の末、まさかの逆転劇で第28代自民党総裁に選出された石破茂氏。だが総裁選1回目の投票で1位だったのは計181票を取った高市早苗氏だった。ではなぜ高市氏は敗れたのか。

 1回目の投票での2位は計154票を取った石破氏。総裁選を中継していたメディアには予想以上に支持を伸ばした高市氏が、その勢いのまま勝利するのでは!?という雰囲気が漂っていた。ところが蓋を開けてみると21票差をつけられ高市氏は石破氏に敗れてしまう。決戦投票になれば、旧岸田派の議員らに「党員票1位の候補へ」と指示していたという岸田文雄首相は石破氏支持、麻生太郎副総裁は高市氏支持を固めて、麻生派議員にそう指示。脱派閥といわれた選挙ながら派閥絡みの票集めも行われたが、どちらを支持するか決めかねていた議員もいたことだろう。高市氏になれば総選挙で自民党が勝てるのか、中国や韓国との外交関係は大丈夫かという不安が取り沙汰されていたが、最後に決めかねていた彼らの心を押したのは、決選投票前の5分間の演説だったかもしれない。

 石破氏は落ち着いていた。顔が怖いと自認する石破氏だが、以前から、怖いわりに底知れぬ凄みを感じさせるタイプではなかった。だから下から睨みつけるような視線も、首が前に出たときなど上目遣いに見えてしまい、不安そうに見えることも。さらに話し方は重苦しく、語尾で力を抜いたり、言い終わっても口が半開きになっていることが多かったため、活動的でテキパキしたリーダーという印象が薄いと思われてきた。だが、今回の演説では声のトーンや強さの強弱、テンポの変化をうまく使い、最後に向かって山場を作り、盛り上げることに成功していた。

 対する高市氏は、この日も彼女のイメージカラーなのだろう青のブレザーを着用。冷静で知的な印象を与える色だが、肌のくすみが気になる年代にはお勧めしない色である。青みが強いため顔色がくすんで疲れた印象を与えやすいからだ。首元には真珠のネックレス、インナーは黒。せめてインナーが白ならば、まだ発色効果があったかもしれない。元気に溌剌と活躍していく新総裁をイメージさせたかったのなら、顔色がきれいに見える色のブレザーを選ぶべきだった。

 眉毛は黒く太くはっきりと書かれ、自我の強さ、自己主張の強さをアピールしている。一目で濃いと分かるメイクのため、のっぺりと見えてしまい、どこか時代遅れな感じ。髪型は撫でつけたようにぺったりとしたショートで髪色も黒、ふんわりと軽快で明るく自然な感じはない。眉も髪も黒すぎる。タレントのアン・ミカさんは、ずっと同じように見えるかもしれないが時代や年代に合わせてメイクの仕方を変え、魅力的に見せていると、どこかの番組で話していた。高市氏も変えているのだろうが、魅力的に見せることには失敗している気がした。

 服装やメイクから女性らしい温かみや柔らかさ、色気などより、理知的なクールさ。冷静沈着な判断力などを演出しているだろうに、彼女は顔中をくしゃくしゃにして何度も微笑んだ。それが彼女の人柄なのだろうが、クールで力強いリーダーをアピールするのなら、この演説で笑うべきではなかっただろう。

 この演説で彼女がしてしまった失敗は3つある気がする。1つは冒頭部分にある。石破氏は冒頭、石川県などで被災され被害にあった人々に哀悼とお見舞いを述べると、今、檀上にいることについて「ここまでこさせて頂くことができました」と自民党員らに感謝した。高市氏はまず「女性である私が総裁選の決選投票にすすませて頂いた。これは自民党にとっても、日本国にとっても、歴史的な瞬間だと思っています」と述べ、「ありがとうございます」と感謝した。確かに歴史的な瞬間だった。気持ちが高ぶってもおかしくない。だが彼女の言葉はここで途切れてしまった。“ここからが本番”でも“まだ先がある”でも“一緒に歴史を作ろう”でもない。その勢いを自分で切ってしまったのだ。次への言葉がないままに、高市氏は被災や被害にあった人たちのことを話し始めた。彼女の挑戦はここで終わってしまう、そう思った瞬間だった。

 2つ目の失敗は歴代首相に感謝の言葉を述べた上に、9人で戦った総裁選についての話に時間をかけたことだ。「そして」「そして」と話が続き、彼女の話は終わらない。何から何まで説明しないと気がすまないようだが、声のトーンもワンパターンで大きな抑揚もないため言葉が耳に残らない。注意して聞かないと、言いたいことが掴めない。だから中盤の話は歴代首相への感謝と総裁選の総括?という印象しかなかった。

 3つ目は5分間で演説をまとめきれなかったことだ。初めての決選投票で緊張したのかもしれないが、時間配分をコントロールできなかったのは痛かった。さらに時間だとメモが渡された後も、口から出たのは公明党の山口那津男代表(当時)への感謝の言葉。ここで言うべきは、みんなで一緒にさらなる歴史的瞬間を作ろう、ではなかったのか。最後まで自分はこうする、こうしたい、だから一緒に!という強く明確なアピールはなく、自民党議員の気持ちを盛り上げ鼓舞することはできなかった。

 5分間の演説がもっと劇的な拍手に包まれるようなものであったなら、高市氏が勝利していたかもしれない。さて女性初の総理大臣が誕生するのはいつになるのか。

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