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【千利休の末裔が語る“いつも感じがいい人”の習慣】心地よい立ち居振る舞いは「お先に…」「ごめんなさい」をすぐに言えること

NEWSポストセブン 2024年10月12日 11時15分

 「本来、心地よい立ち居ふるまいやマナーとは、人間関係を良好にするために生まれたものでした。人間関係に悩んだら、日本の先人が生み出したふるまい方や心づかいに、今一度立ち返ってみてほしいと思います」──そう語るのは、千利休を祖とする茶の湯の家に生まれ育った千 宗屋(せん・そうおく)氏だ。千氏は、ふるまいやマナーについて語った『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』を上梓したばかり。

 効率を何よりも優先する社会になった現代。コストパフォーマンスどころか、時間や人間関係も効率重視に変化してきているという。そんなコスパ、タイパを重視するあまり、電話のかけ方も知らず、「人との距離感がわからない」と悩む人たちが増えているそうだ。千氏が語る短期連載、第1回は、日本人が大切にしてきた「慮る(おもんぱかる)」という心について伺ってみた。【全6回の第1回】

「慮る」とは、相手の立場に立って「心地よい」かどうか

「世界中の多くの国々の中で、日本という国はずいぶんと恵まれてきたのではないでしょうか。食糧の乏しい砂漠地帯や極寒の地とくらべ、海に囲まれ、温暖湿潤で植物が育ちやすい日本の国土は、太古の昔から多くの人の食糧を確保できる環境でした。そのため、人が生きていくために戦って奪い合わなければならないという必然性が、他の地域よりも低かったのかもしれません。

 衣食足りて礼節を知る、という言葉の通り、日本人の中には、分け合い譲り合うという文化がいつしか生まれたのだと思うのです。長い歴史の中では飢饉や圧政に苦しんだ民もいたことでしょう。けれど幸いにも日本では、基本的には争わずとも待っていればちゃんと順番が回ってくるということが人びとの行動規範となり、それが現在の礼儀正しさや奥ゆかしさといった国民性にもつながっているのでしょう」(千氏、以下同)

「お互い様」の精神で

 ここ数十年の間にも、日本は大きな自然災害に見舞われてきた。

「そんな時にも大規模な盗難事件や奪い合いといった争いごとは比較的少なく、こんな時こそ、お互い様の精神で助け合うという光景が多く見られました。このことは海外でも大きく取り上げられ、多くの日本人はそこで初めて、自分たちが祖先から受け継いできたかけがえのない美徳について自覚したのではないでしょうか。

 相手の立場を慮り、思いやる────私たちは、祖先から受け継いだこうした美徳を持っています。その気持ちは、目の前にいる人とは限らず、会うこともない他人に対してもめぐらせることができるはずです。なぜなら、思いやるとは、その人がうれしい、心地いいと感じるだろうな、と想像を広げることだからです。その思いやりが形になってできあがった結果が、マナーや作法、ルールです」

「どうぞお先に」の気持ちを言葉にする

 ビジネスでもプライベートな場面でも、人の暮らしの中には必ず「順番」が出現する。たとえばエレベーターに乗り込む時、駅のプラットホームで電車を待っている時、複数で会話をしている中で発言する時、などなど。

「こういう時、われ先に! ではなく、順番を礼儀正しく待つのはもちろん基本ですが、もう少し余裕を持って、周囲の人を思いやる心を持ちたいものです。エレベーターに乗る時には先を譲る、乗り込んでくる人のために『開』のボタンを押す、降りる際にもボタンを押して、『お先にどうぞ』とうながす……など。ふだんの暮らしの中で、どうぞお先に、という気持ちを言葉や仕草で表現できたら、あなたの存在はきっと落ち着いていてきちんとした人に映るはずです」

譲ってもらったら「お先に失礼」を忘れずに

 もちろん、譲ってばかりいるのも考えものです。「どうぞ、どうぞ」と譲り合っている間に、他の人たちを待たせてしまい、かえって迷惑になることも。また、聞き役ばかりに徹していては、充実した会話を楽しんだことにはならない。

「時と場合によって、お先に失礼しますとスマートにすっと前に出ることも、身につけておきたいふるまいです。小さな目礼(もくれい)でもいいでしょう。茶席では、茶室に入る前からお茶をいただくまで、何度も、『お先にどうぞ』『お先にいただきます』……ったやりとりを交わします。たとえば、お茶やお菓子をいただく時、隣に座る客に『お先に』と一言伝えてからいただきます」

 さまざまなシーンで「お先に失礼します」「お先にいただきます」を心がけるうちに、いつのまにか周囲の人の気持ちや様子を俯瞰で見られるようになるはず。「お先に」の気持ちであらゆる場面をおろそかにせず、丁寧にふるまうことは、相手にもこちらの気づかいが伝わり、互いに心地よいものとなる。

謝罪は時間をおかずに誠意を込めて

 自分の失敗に気がついた時、その事態や影響が大きくなればなるほど動揺し、あわてふためくのは当然であろう。つい責任の所在をごまかしたくなるかもしれない。けれど、本当に謝らなくてはならない場面で、相手を思いやって謝罪ができるかどうかが大事と千氏は言う。

「大切なのは、率直に、精一杯の誠意を持って謝罪するということです。しかも、できるだけ時間をおかずに。仕事上での失敗などでは、謝罪の際の態度や言葉、その誠実さによっては、失敗を機に相手との信頼関係がより深まるということもままあること。本気の謝罪こそ、ためらうことなく迅速に実行すべきであると考えます。

 大きな失敗に限らず、ちょっとした思い違いや言い間違い、勘違いなど、日常で起こる小さなミスも、気がついた時にすぐ『ごめんなさい』と言うことで大きな問題には発展しなくなるものです」

 もちろん、「ごめんなさい」がすぐに口に出せるかどうかは、相手との関係やその場の空気、あるいは、ささやかな自分のプライドがじゃまをすることもあるかもしれない。だからこそ、必要な時に「ごめんなさい」をためらうことなく言える習慣を、日頃から身につけておきたいもの。

「同じような意味で、『自分がされて嫌なことは、相手にはしない』という言葉もあります。このように、あなたの思いやりによって、嫌な思いをせず、心地よく過ごせることに気づけば、きっと相手の人も、それに対して感謝の気持ちを持ってくれ
ることでしょう。その気持ちは、あなたへの信頼につながり、あなたへの好意につながるはずです」

 目の前の相手が心地よくいられるのか、次の人が気持ちよく使えるのか。いつもそのことを推し量り、思いやることを忘れずにいたい。他者との心地よい関係を築く「慮る」とは良い言葉だ。

(第2回に続く)

【著者プロフィール】
千 宗屋(せん・そうおく)/茶人。千利休に始まる三千家のひとつ、武者小路千家家元後嗣。1975 年、京都市生まれ。2003 年、武者小路千家15 代次期家元として後嗣号「宗屋」を襲名し、同年大徳寺にて得度。2008 年、文化庁文化交流使として一年間ニューヨークに滞在。2013 年、京都府文化賞奨励賞受賞、2014 年から京都国際観光大使。2015 年、京都市芸術新人賞受賞。日本文化への深い知識と類い希な感性が国内外で評価される、茶の湯界の若手リーダー。今秋、「人づきあい」と「ふるまい方」を説いた書籍『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』を上梓。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。一児の父。Instagram @sooku_sen

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