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【総裁選の内幕】自民党議員にとっての争点は「どの総裁が日本を変えるか」ではなく「議員バッジの確保」だった…石破政権の背後には岸田前首相の影

NEWSポストセブン 2024年10月6日 11時14分

 5度目の挑戦で石破茂氏が勝利を収めた自民党総裁選。有力と目された「史上最年少総理」「初の女性総理」はなぜ実現しなかったのか。揺れ動いた自民党議員たちの動きをたどる。【前後編の後編。前編を読む】

小泉氏の発言が注目されるたびに国民の期待と支持は急降下

 舌戦についていくことすらできず、“メッキがはがれていった”のがほかでもない小泉進次郎氏だ。都内で行われた最初の討論会では、中国に行ったことがあるかと外交姿勢を問う質問に、「台湾には行ったことがある。父が元首相で、(中国には)行くリスクがある。台湾には行ったことがあります。中国には行ったことがない」と回答。

「議員歴15年で一度も中国を訪問していない経験の浅さにも驚きましたが、いま中国と台湾が極めて緊張関係にあるなかであえて台湾に触れる必要があったのか。経験のなさとかばう長老議員もいましたが、党内からはぎょっとするという声もあがったほどです」(全国紙政治部記者)

 また、候補者のひとりである上川陽子氏から来年のカナダ・サミットで首相としてどう臨むかを問われた際の答えはこうだ。

「カナダのトルドー首相が就任した年は43才(現在52才)、私はいま43才です。43才で総理就任というトップ同士が胸襟を開き、新たな未来志向の外交を切り開いていく、新たな新時代の扉を開けることができるG7サミットにしていきたい」

 質問を投げかけた上川氏の困惑した表情とともに、この発言は瞬く間に話題となり、「何を言ってるかわからない」とお茶の間から失笑される事態に。同世代アピールはほかの場面でも。北朝鮮の金正恩総書記との外交について「父親同士が会っている。歴史の中で関係を築いた礎の下に、同世代同士で新たな対話機会を模索する」と、かえって二世ぶりを示すような“お坊ちゃん回答”となってしまった。

 政治アナリストの伊藤惇夫さんは、一連の発言は今回の総裁選を象徴していたと語る。

「総理になったときの外交姿勢を質問されているのに、同い年で総理になったとか、同世代とか、あまりにも些末なこと。父が元首相だから中国に行けなかったというのも理屈になっていない。進次郎氏はどの発言も質問に正面から答えられないからはぐらかしたわけです。これだけを見ても、この政治家に国の将来を任せていいのか不安になりました。

 自民党議員にはその視線が欠けていた。あの討論会を見たら、国会議員たちの間でも進次郎氏への期待と支持が急速に下がるのが当然なのに、そうはならなかった。議員たちはみんな最初から“進次郎氏はあの程度だろう”と未熟さを知っていたからです。それを承知しながら、まだ政治的に未熟な進次郎氏を総裁選に担げば選挙に勝てると思い込んでいた」

 だが、総裁選投票権を持つ自民党員たちはさすがに小泉氏に危うさを感じ取った。新聞・テレビの党員・党友への世論調査では、日を追うにつれて小泉氏への支持が下がり、国民からも懐疑的な目が向けられるようになり石破茂氏と高市早苗氏に水をあけられていく。小泉氏を担いだ議員たちは、それでも総理にしようとギリギリまで多数派工作を展開した。

「菅義偉元首相は連日、進次郎氏への投票を呼びかける電話をかけまくっていたし、進次郎陣営の議員たちも手分けして中間派の議員を回って説得した。党員や国民の支持が下がっても議員の間では進次郎支持の勢いは落ちなかった」(前出・全国紙政治部記者)

 本人もなりふり構わぬ行動に出た。小泉氏は総裁選終盤にそれまで対立してきた麻生太郎氏や岸田文雄前首相に面会して支持を求めたのだ。伊藤さんが指摘する。

「派閥に所属していない進次郎氏は、裏金問題が発覚すると真っ先に『派閥は解散すべき』と主張して派閥解散の急先鋒となってきた。それに対して、麻生氏は党内で唯一、派閥解散を拒否した人です。本来なら総裁選で倒すべき存在なのに支持をお願いしたのだから、これでは総理になっても強いことは言えなくなる。批判してきた岸田前首相に会ったのもそうです。よほど焦っていたのでしょう」

 最終場面で麻生、菅、岸田氏ら党の重鎮たちを頼ったのは勝利した石破氏も同じだった。石破氏は麻生内閣の農水大臣当時、支持率が落ち込んだ麻生氏に退陣を迫ったことがあり、以来、2人は犬猿の関係とみられてきた。麻生氏も「決選投票が石破対小泉になればおれは亡命するしかないな」と周辺にこぼしていたほどだ。

 石破氏は投票日前日、菅氏に続いてその麻生氏と面会し、協力を依頼した。そして決選投票にあたっての演説では、岸田前首相のことを「内政外交の大きなご功績に心から敬意を表する」と持ち上げて見せた。もはや向き合っていた相手は国民どころか、党員ですらなく“票を持っている長老”たちだったのだ。

 本来であれば、金や派閥といった古い自民党政治に決着をつけ、海外のリーダーたちとも対等に議論ができる人物を選ぶことこそが総裁選の目的であったはず。にもかかわらず、結局は、力のある重鎮たちの一声に党内は左右された。この国に女性のリーダーが誕生しない“ガラスの天井”は、やはり永田町にはびこる悪しき慣習であることがはっきりしただろう。全国紙政治部記者が続ける。

「表面上、派閥は解体されたことになっていますが、重鎮・長老たちが力を誇示する権力争いは依然として続いています。当然、若手や中堅議員も、昔ほどの拘束力はなくとも所属していた派閥のトップに指示されれば従わざるをえない。

 結局、そこにアクセスできない候補者たちは勝負することすら叶わなかったのが実情です。石破氏や高市氏の思わぬ急浮上で、サプライズもあるかと色めき立ちましたが、最後は古い自民党文化が勝敗を決めた形です」

決選投票、石破氏の最後の訴えは「ひとり残らずこの場所に戻ってくる」

 結果的に、決選投票では麻生氏は高市氏を支持し、「宿敵」同士だった菅氏と岸田氏はともに石破氏の支持に回ったとみられている。伊藤さんが嘆く。

「今回の総裁選では自分が選挙で生き残ることしか考えない自民党議員たちの浅はかさが際立っていました。本来なら、総裁選では国民の批判を浴びて自民党の支持率が急落することになった裏金問題にどうケジメをつけ、党を再選するかの議論が中心にならなければいけないのに、それは手つかずです。

 決選投票を見ても、石破氏と高市氏はどちらも自民党内の人気は低く、議員たちにとっては消極的な選択になった。僅差で石破氏が選ばれたのは、進次郎氏が失速した以上、世論調査で国民の支持がより高かった石破氏を総理にした方が、高市氏より総選挙で有利だろうという判断でしかない。表紙を替えて裏金問題を過去のことにしてウヤムヤにする。自民党はそのために国民を巻き込んでお祭り騒ぎの総裁選を演出したわけです」

 決選投票で石波氏が語った演説にそのすべてが詰まっている。

「『ひとり残らず同志が、来たる国政選挙において議席を得ることができるよう、日本国のために全身全霊を尽くしていく』と熱く訴え、これに胸を打たれ同調した議員は少なくなかったようです。僅差での勝利に大きく響いた言葉だった。

 総裁選は総選挙と違って国民に信を問うものではなく、永田町の自民党という狭い視野の中での戦いでしかない。争点はどの総裁が日本を変えてくれるか、ではなく、どの総裁なら自分がまだバッジをつけていられるかでしかなかったことがはっきりしました」(前出・全国紙政治部記者)

 そうして選ばれた石破“新”首相は「自民党は生まれ変わらなければならない」と力強く政治改革を掲げるが、前途は多難だ。元時事通信社政治部長で政治ジャーナリストの泉宏さんは、石破政権の背後に岸田前首相の影が見えるとこう指摘する。

「総裁選の裏では麻生氏、菅氏、岸田氏のキングメーカー3人の駆け引きが行われ、進次郎氏を担いだ菅氏、高市氏を支持した麻生氏が敗北。決選投票で石破氏を勝たせた岸田氏が“勝者”になったと考えていい。

 石破首相は党内基盤が弱いため、なかなか思い通りの政権運営はできないでしょう。むしろ、国民の信頼を失って退陣したはずの岸田氏がキングメーカーとして、今後、石破政権と自民党全体に力を持つ可能性があります。そうなれば自民党が大きく変わることは難しいのではないか」

 事実、石破氏は総裁選中は首相就任直後の解散に否定的な発言をしていたが、首相に就任後は豹変。いきなり解散総選挙を行う方針を表明し、「10月27日衆院選投開票」が有力視されている(9月30日時点)。

 裏金問題や旧統一教会との関係など、これまで自民党が抱えてきた病巣に総裁選でメスを入れることができなかったツケは、新政権に重くのしかかってくる。それはひいては私たち国民の負担になることは間違いない。来る解散総選挙で私たちにできるのは、“自民党の顔を替えれば選挙に勝てる”という浅はかな考えしかない自民党議員たちの政治家としての資質を精査し、本当にこの国の未来を考えてくれる人に一票を投じることだろう。

(前編から読む)

※女性セブン2024年10月17日号

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