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《盟主復権への道》阿部巨人“12年ぶり日本一奪還”の条件 V9時代のレジェンドOBたちが語る「キーマン」「短期決戦の采配・戦術」

NEWSポストセブン 2024年10月8日 16時15分

 いよいよクライマックスシリーズ(CS)に突入するプロ野球。セ・リーグ優勝を果たした巨人が12年ぶりの日本一を奪還できるかに注目が集まるなか、就任1年目の阿部慎之助監督(45)に対して、V9を経験したレジェンドOBたちがエールを送った。「伝統の巨人軍」「球界の盟主」の歴史を作り上げてきた先輩たちが後輩へと説く「日本一の条件」とは──。

「汚名返上を」

 2012年のシーズンを最後に日本一から遠ざかっている巨人。前回の日本一当時の主軸メンバーだった阿部慎之助監督に、12年ぶりの悲願達成が託される。V9時代の正捕手で、西武の監督時代に就任1年目から日本一を達成した森祇晶氏(87)は、西武監督在任9年間でリーグ優勝8回、日本一6回の黄金時代を築いた名将だ。その森氏は、同じキャッチャー出身監督であり、就任1年目で日本一を目指す阿部監督の手腕に一定の評価を示す。

「今年のジャイアンツは、はっきり言って打線が弱く、完封負けが20試合以上もあった。そのなかで阿部監督はピッチャーの起用に工夫をこらし、バッテリーが守り切る野球をしていた。攻撃型の監督ならすぐに打順をいじったり、野手を入れ替えたりするが、阿部監督は我慢強く、守ってつなぐ野球を見せてくれた。キャッチャー出身の監督ならではの勝ち方だったと思うよ」

 阿部監督の「守り勝つ野球」を体現する投手陣には、10月16日からのCSのファイナルステージ、26日からの日本シリーズでもシーズン以上の奮闘が求められる。その柱となるのが、復活を遂げたエース・菅野智之(34)だろう。今季はリーグ最多の15勝(3敗)、同2位の防御率1.67と圧巻のピッチングを見せた。ところが、その菅野は短期決戦の実績に乏しいという不安が残る。スポーツ紙デスクが語る。

「菅野は、巨人が日本一になった翌年の2013年に入団し、一度も日本一を経験していません。入団1年目には、広島とのCSで1勝をあげたものの、楽天との日本シリーズでは1勝1敗で貯金を作れずに敗退。2019年と2020年の日本シリーズではともにソフトバンク相手に黒星を喫した。エースが奮わなかったチームは、2年連続4連敗という結果に終わりました」

 菅野にとっては過去の雪辱を果たすための戦いにもなる。巨人で新人王に輝き、引退後には投手コーチを務めた関本四十四氏(75)は、菅野の活躍の重要性を強調する。

「日本一へのカギは、菅野が『短期決戦に弱い』という汚名を返上できるかでしょうね。リーグが違うとはいえ、配球や割合、球筋はスコアラーによって両チームともに丸裸なので、菅野もあくまでペナントレースと同じ精神状態でプレーすることが大事です。

 今年の菅野はストレートの質がよくなって変化球が活きている。シーズン中と同じ投球ができれば、6回を2~3点の失点で乗り切って試合を作れると思う。しっかりとコンディションを整えて臨んでほしいですね」

 森氏は今季、阿部監督が菅野と小林誠司(35)の“スガコバコンビ”を復活させた起用法を評価し、バッテリーの活躍が重要になると指摘する。

「菅野と小林のように、結果を出したコンビをきちっと使って戦う。当たり前なようで、なかなかできることではないよ。もっと言えば、キャッチャー自身に短期決戦に対する感性がどれくらいあるか。それが重要だろうな。日本一を経験した阿部監督が、しっかり能力を引き出してやるしかないだろうな」

“お祭り男”、出でよ!

 野手陣に目を向けても、2012年の日本一メンバーは坂本勇人(35)、長野久義(39)といったベテランのみ。主砲・岡本和真(28)やリードオフマン・丸佳浩(35)に期待がかかるが、2人とも過去の日本シリーズでは打棒が奮わなかった。

「2014年ドラ1の岡本は、2019年と2020年のソフトバンクとの日本シリーズを経験し、8試合で打率.138に終わった。カープ時代とあわせて日本シリーズの18試合に出場した丸も、シリーズ通算打率.191という数字です」(前出・スポーツ紙デスク)

 名手・広岡達朗氏の跡を継いでショートのレギュラーに定着した黒江透修氏(85)は、短期決戦で勝負強さを発揮し、V9に貢献した。

「僕は日本シリーズに強いと言われていたが、優勝や日本一が決まるゲームで燃えるタイプなんです。お祭りが好きというか、自分のバットで優勝を決めたほうが気持ちいいですから。投手陣では、高橋一三(故人)も大事なゲームの最後に投げていた。それで堀内(恒夫・76)がいつも悔しがっていましたよ。今の巨人には、そういった“お祭り男”がいないのが寂しいね」

 V7からV9まで巨人でプレーした広野功氏(80)は、生涯3度の「逆転サヨナラ満塁本塁打」を放った“お祭り男”として知られる。その広野氏が、主砲・岡本の活躍に期待をかける。

「岡本はテークバックを大きく取る打者なのでバランスを崩しやすい。とくに一発を狙おうとすると軸がブレてしまいます。なんでもかんでも振り回すのではなく、場面に応じて強振と軽打を使い分けて、1点を取りにいく野球に徹するべきです。

 シーズンで打てなかった打線が、CSや日本シリーズで結果を出す策なんてないんです。岡本はシーズン中のクセを自分で理解しているはずなので、力まずにいい状態で臨んでほしいですね」

 4番の爆発を待ち望むのは黒江氏も同様だ。

「V9時代は『ONまで回せば何とかなる』という思いが強かった。同じように、今年の短期決戦では『岡本まで回せば勝てる』という空気になってもらいたいね」

「若手起用」と「非情采配」

 一気呵成に勝負が決まる戦いだからこそ、監督の采配が勝敗を分ける場面も多くなる。歴戦のOBたちは、就任1年目でリーグ制覇した阿部監督の手腕を高く評価した。そうしたなかで、初めて指揮を執る短期決戦にどう挑むべきか。関本氏が指摘する。

「阿部監督が、二軍を率いて学んだ経験を活かしてほしいですね。二軍監督をやったことで、若手選手の能力を見極めながらシーズンでチャンスを与えていった。それを選手が意気に感じて頑張り、ベテランも奮起した。短期決戦でも、信じた選手に託してもらいたい」

 今季ブレイクを果たした高卒2年目の浅野翔吾(19)や、坂本の後継でショートのレギュラーを担った門脇誠(23)といった若手を阿部監督がどう起用するか注目だ。広野氏は、場面に応じて「非情采配」が必要だと指摘する。

「短期決戦は1点を取る野球に徹すること。これが鉄則です。阿部監督には、状況によっては4番の岡本にも送りバントやスクイズをさせる決断も求められる。阿部監督はそういう野球をやってきたので、シリーズの采配も期待しています」

 セ・リーグ優勝を果たした後、ミスターこと長嶋茂雄氏(88)は『スポーツ報知』で、今季の阿部監督を森祇晶氏に重ねてこう表現した。

〈昔から、阿部は頑固だった。一番感心したのは、先輩ピッチャーにも「僕はこう思います」と信念を貫いたことだった。(中略)まるでV9捕手・森祇晶を見ているようだった〉
〈ある時、大エース・堀内恒夫がカーブを投げたくて首を振った。しかし、森は頑として直球を要求した。(中略)堀内の荒れ球を生かした直球が空振り三振を奪った〉

 森氏本人は阿部監督にこうエールを送る。

「短期決戦では捨てるところは捨てないといけない。すべての試合に勝とうとするのではなく、『2つ捨てて3つ取る』という考え方ができるかどうか。キャッチャー出身の阿部監督には、そんな我慢強い采配を見せてもらいたいね」

 悲願の日本一奪回は果たせるか。新人監督の今季最後の戦いが始まる。

※週刊ポスト2024年10月18・25日号

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