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《前代未聞のストライキから5年》激変した東北道・佐野SA「取り壊された店舗」名物「佐野らーめん」の現在、当時の元従業員が明かした39日間の舞台裏

NEWSポストセブン 2024年10月13日 11時13分

 年間約170万人が利用する東北道・佐野サービスエリア上り線(以下、佐野SA)。栃木県佐野市のご当地ラーメン「佐野ラーメン」が特に人気で、毎年かき入れ時のお盆には行楽客や帰省客でにぎわうが、2019年8月、佐野SAにある売店やレストランが営業を突如停止して大騒動となった。

 原因は売店の運営会社「ケイセイ・フーズ」(以下、ケイセイ社)の従業員によるストライキで、利用客が混乱する様子は連日のようにワイドショーで取り上げられた。

 あれから5年。ストを行ったスタッフらはその後、どうなったのだろうか。取材班が佐野SAを訪れると、売店やレストラン、フードコートなどが入っていた建物は取り壊されていた──。【前後編の前編。後編を読む】

 騒動の発端は2019年の8月上旬から、佐野SAの売店から商品が次第になくなったことだった。

「ケイセイ社の事実上の親会社の経営不振が露見し、一部取引先からの商品納入が停止したことで、特に売店の品揃えが壊滅状態になり、お客様から従業員たちへのクレームが増えました。従業員たちは平謝りするしかない中、罵声を浴びせられることもあり、メンタル的に非常につらい状況に追い込まれました」(元従業員)

 そのほか様々な問題が起こり、従業員らは佐野SAの運営継続が難しいと判断。労使交渉に持ち込み、納入業者に対して商品の代金を前倒しで支払い、確実な賃金の支払い確約をケイセイ社に対して求めた。

 この結果、労使交渉はまとまり、当時・総務部長の加藤正樹氏が窓口となり、納品業者ほか関係先との調整に奔走。佐野SAは通常営業に近い状態まで戻った。

“自腹1500万円”を供託して労使交渉

 しかし8月9日、ケイセイ社は加藤氏を解雇。この突然の解雇により、従業員ら約60名は、同氏の解雇撤回を求め、2019年8月14日の早朝からの一斉ストに発展した。

「ケイセイ社は弁護士を通じて、『ストライキとして認めていない』ことを通告し、『(ストによって失った)2.5億円規模の損害賠償を請求する』と主張。同社と従業員側の溝は深まり、事態は泥沼の様相を呈していました。

 従業員たちは、ストはどんなに長くても2~3日で終わると考えていたため、『法律上、スト中の賃金が支払われない』ことについては心配していませんでした。しかし、ストが連日続き、従業員たちは焦りを感じていました。

 そんなとき、加藤氏が従業員たちの給与を補填するため、自らの預貯金から約1500万円を組合に供託しました。毎日40万円ずつ資金が溶けていく中、ゴールが見えない労使交渉が始まったのです」(同前)

 スト直後には急遽、集められた代替スタッフで、フードコートと売店の一部で営業が再開されたが、慣れない業務に「味が薄い」「長時間待たされた」などと利用客から不満の声が上がった。

 両者は1カ月以上に及ぶ交渉の末、ケイセイ社の経営陣が退くことなどを条件に従業員はストから39日目の9月22日に全員の復職が決まった。だが、新経営陣は組合の執行委員長を務める加藤氏への退職勧告やストに対する損害賠償請求の予告は取り下げなかった。

「ストを行っていた従業員らは全員復職しましたが、会社側は加藤氏に対して『懲戒の対象になる言動がある』として、11月6日から調査のため自宅待機を命じました。最終的に、加藤氏は『取引先に虚偽の事実を伝えた』として12月2日付けでケイセイ社から解雇通告を受けました」(同前)

現在の佐野SAの状況は

 従業員の復職後、佐野SAの動向はほとんど伝えられていない。別の元従業員はその後の様子を次のように語った。

「その後、復職した従業員らは半年ほど働きました。しかし、高速道路の維持管理をするNEXCO東日本グループは、ケイセイ社と佐野SA運営の契約を更新しないことを決定。2020年3月31日付で全員が失職しました。従業員たちの中では『4月からの運営会社が、ストライキ参加者を採用するとは思えない。特に高齢者は絶望的では……』と、動揺と諦めムードが漂いました。

 もともと労働争議をしたかったわけではない従業員たちは、ケイセイ労働組合を事実上解散。その上で、従業員たちがまとまって動いた結果、後継の運営会社が雇用する形で、(体調問題で辞めた高齢者を除き)希望者全員が佐野SAで仕事を続けられることになりました。72歳の従業員含めて、全員です。今年のアタマまではみんなで仕事を続けていたようですが、その後、建物の解体工事に伴い、店舗は大幅に縮小されました」

 現在、佐野SAは2024年1月から始まった商業施設の新築工事中で、大幅に縮小した仮設店舗のみで営業している。当時の建物は外壁に囲われ、窓ガラスなど建物の半分が取り壊されていた。スト当時の面影はなかった。

「工事は2026年の8月まで予定されていますが、建物の取り壊しは10年ほど前から決まっていました。建物取り壊しに伴い、ストライキのときにいた従業員で残っているのは数人くらいと聞いています。名物の『佐野らーめん』を食べられるエリアは縮小されていますが、仮設店舗のフードコートで現在も食べることができます」(同前)

 後編では、自腹で払った1500万円、従業員の現在、ストライキの渦中にいた当時の総務部長・加藤氏が騒動を振り返る。

(後編に続く)

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