没後35年、今なお記憶から色あせない強烈なカリスマ俳優、松田優作さん。妻の松田美由紀が、映画へ抱いていた熱情、仕事との向き合い方について語った。
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ドラマ『探偵物語』で優作と出会い、こんなにかっこいい人が世の中にいるのかなと思うくらいの衝撃を受けました。現場では演じながらプロデューサーの役割も兼ねて、ボスの風格があったことを覚えています。
家では本ばかり読んでいて、大学の先生みたいな人でした。自分が演じる役を探し、作品の構想を得るために哲学から宗教、宇宙、文学まで幅広く読み、気になる本を見つけては感想を家族に話すんです。こっちは子どもたちを寝かしつけなきゃと焦っているのに、本人はわくわくしていて「放っておけ」と話が止まらない(笑)。
優作は一生懸命になることに一切、恥ずかしがることがなかった。私は12歳年下で、この人、もう少しクールにできないのかなって感じる時もあったんです。でも次第にその熱心さが表現者としての強みだと理解するようになりました。
ただ作品へ没頭するほど、隣にいて苦労も多かった。「家族という存在をもっとあなたの人生に入れてください」と、優作に訴えたこともあります。
転機となったのは、『ブラック・レイン』(1989年)への出演です。優作が「美由紀、子どもとおまえの写真ない?」と聞いてきて、初めて私たちの写真を現場へ持って行ったんです。
ハリウッドではそれが普通で“家庭があって仕事がある”という、自分に欠落していた感覚を学んだって。
その頃は病気だったので一緒に過ごせる時間は限られましたが、優作の家族への向き合い方はとても変わりました。
【プロフィール】
松田美由紀(まつだ・みゆき)/10月6日生まれ、東京都出身。女優、写真家、シンガー、映像監督、アートディレクションなど、多分野でクリエイターとして活躍。11月1日には、JZ Brat Sound of Tokyo(渋谷)にて『Miyuki Matsuda Cinematic Live Show ’24』の公演を控える。
取材・文/渡部美也
※週刊ポスト2024年10月18・25日号