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【千利休の末裔が教える “いつも感じがいい人”の習慣】御礼を言う時に「すみません」と「ありがとうございます」どちらを使うべきか

NEWSポストセブン 2024年10月13日 11時15分

 人間関係に悩んだ時、立ち返るべき思考習慣がある。「慮る」「敬う」「感謝する」「ご縁を大切にする」「きれい好き」「わが身に置きかえる」この6つが重要だと、茶人で千利休を祖とする茶の湯の家に生まれ育った千 宗屋(せん・そうおく)氏は語る。

 今秋、人づきあいとふるまい方を説いた『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』を上梓した千氏は「本来、心地よい立ち居ふるまいやマナーとは、人間関係を良好にするために生まれたものでした。人間関係に悩んだら、日本の先人が生み出したふるまい方や心づかいに、今一度立ち返ってみてほしいと思います」と話す。千氏が語る短期連載。今回は、日本人が大切にしてきた「感謝する」という心について伺ってみた。【全6回の第2回。第1回から読む】

すべてのことに「感謝する」自然へのお供え「木守(きまもり)」とは

「私たち日本人の気質は、この国の風土や自然の影響を強く受けてできあがってきました。自然の恵みに対する感謝の気持ちが、特定の宗教ではなく、森羅万象すべてのものに宿る八百万(やおよろず)の神への祈りとして、自然発生的に生まれてきたのでしょう。

 これが、もっと厳しい環境に生きる民族であれば、自然とは闘うものであり克服すべき存在として畏怖されてきたのでしょう。自然崇拝や感謝の気持ちは、地域に残るお祭や小さな風習の中にも形を変えて残っています。

『木守(きまもり)』という言葉があります。柿の木を育てる農家には、収穫時にすべての実を取り尽くすのではなく、自然への感謝としてひとつだけ残しておくという風習があり、その残された柿を『木守』と呼ぶそうです。ひとつ残った実は、鳥がつついてその種を運び、いつかまた別の地に柿の木を増やすかもしれません。それは、人間のためではなく、いわば自然や世の中へのお供えのようなもの。自分ではなく他者が得る利益につながるものなのです」(千氏、以下同)

「おかげさまで」という心持ちで他者との分かち合い

「ちょっと話がそれますが、茶の湯にも『木守』という茶碗があります。わび茶を確立した千利休はある時、弟子を集めて自分が焼かせた茶碗を分け与えました。最後に残ったのが、なんの変哲もないシンプルな赤い楽焼(らくやき)の茶碗でした。もしかすると見た目のインパクトがそれほど大きくなかったため、弟子たちが選ばなかったのかもしれません。ひとつ残った茶碗を利休はことのほか愛し、『木守』と名づけて終生そばに置き、生涯最後の茶席でもこの茶碗を使ったと伝わります。

『木守』の例のように、自然への感謝は他者との分かち合いの心に通じます。小さな島国で自然の恵みをいただき、感謝を捧げてきた私たちは、だからこそ『おかげさまで』という言葉に象徴される礼節を生むことができたのでしょう。そこからは、互いに思いやり、『お先にどうぞ』と譲り合う余裕も育まれました。

 感謝することは、人間どうしが争わず、助け合いながら暮らしていくための最良の心得。人と人とが互いに思いやる心の根底には、自然の恵みに生かされていることへの感謝、他者への感謝があることを、忘れてはいけないと思うのです」

「ありがとう」は相手の心配りへの返答

 道を歩いていて落とし物をした時、後ろを歩いていた人が拾って手渡してくれたとしたら、とっさに「ありがとうございます」とお礼を口にする人はどれくらいいるだろうか。助けてもらった時、お世話になった時、何かを教えてもらった時、むしろ「すみません」と言ってしまうほうが多いかもしれない。

「それはそれで、相手の労をねぎらい、時間を費やしてもらったことへの謝罪の気持ちを表しているという意味で、日本人らしい美徳かもしれません。『ありがとう』という言葉をストレートに口にするのが、気恥ずかしいという気持ちもわからないでもありません。ただ、だからこそふだんのやりとりの中で『ありがとう』という感謝の気持ちを持ち、言葉として伝えることは大きな意味があると思うのです。

 茶席でも、招いた客に対し、最大限のもてなしを準備してお迎えし、『ようこそお越しいただきました。ありがとうございます』と礼を述べます。逆に客側は、『本日はお招きいただき、ありがとうございます』と招待に対する感謝を述べ、自分のために用意された茶席のしつらいを五感を研ぎ澄ませて拝見します。

 そして、もてなしの真意を推し量り、時間をかけて支度をしてくれたことに対して、あらためて礼を伝えます。このように、主人と客が互いに相手の心配りをたたえ合うのです。感謝の気持ちを言葉にして伝えること、これは、相手の心配りに対して、きちんとそれを受け取りましたという表明でもあるのです」

 日本という国に生まれて身につけた美徳であり心得でもある「感謝を伝える」という行為。われわれ日本人が人間関係を築くうえで大事にしてきた考え方だ。

(第3回に続く)

【著者プロフィール】
千 宗屋(せん・そうおく)/茶人。千利休に始まる三千家のひとつ、武者小路千家家元後嗣。1975 年、京都市生まれ。2003 年、武者小路千家15 代次期家元として後嗣号「宗屋」を襲名し、同年大徳寺にて得度。2008 年、文化庁文化交流使として一年間ニューヨークに滞在。2013 年、京都府文化賞奨励賞受賞、2014 年から京都国際観光大使。2015 年、京都市芸術新人賞受賞。日本文化への深い知識と類い希な感性が国内外で評価される、茶の湯界の若手リーダー。今秋、「人づきあい」と「ふるまい方」を説いた書籍『いつも感じのいい人のたった6つの習慣』を上梓。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。一児の父。Instagram @sooku_sen

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